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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年生二学期

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妹と確率

「お兄ちゃん、コーヒーを淹れてもらえますか?」


「ああ、構わないが……」


 珍しいことに睡がカツサンドを食べている、有名喫茶店からテイクアウトしてきた奴に見える。


 俺は豆をコーヒーメーカーに入れながら睡の方を見やる。睡にしては珍しい食事だった。ちなみに俺にはしっかりとオムライスが出ていることから、睡はわざわざアレを買ってきたということになる、自分のために……


「食べたかったのか、それ?」


「へ? ああ、カツサンドのことですか?」


「そうそう、今日は別の食事なんだなって思って」


「ええ、ちょっと験を担ぎたいと思いまして」


「縁起物かよ、珍しいな」


「まあ……新キャラも実装されましたしね……」


「ガチャか……」


「ガチャです」


 どうやらソシャゲで新キャラが実装されたようだ、後はもうお察しである。


 ガチャは控えろと言いたいものの、生活に問題が出ていない以上強くは言えない。本当に謎の資金が存在しているようだな。俺としてはもし睡が徳川埋蔵金を掘り当てていたとしても驚かないくらいの放蕩ぶりだ。


「で、今はどのくらい課金したんだ?」


「まだ未課金ですよ? 課金する前に祈祷しておこうという私の戦略ですから」


 なるほど、課金しすぎでヤバくなる前に祈っておこうというわけか、確かに理にはかなっている。祈祷に意味があればの話だが……


「ごちそうさま」


「ごちそうさまです」


 俺たちは食事を終えた。もちろん睡はスマホを取り出す。画面をタッチする手がプルプル震えていた。


「ガチャなんて当たったらラッキーなんだから今ある石でとりあえず回せよ、気楽にいけって」


「お兄ちゃんは気軽に言ってくれますねえ……ここ最近欲しいキャラばかり実装されるのであんまり無料石が無いんですよ」


 有償石は専用のガチャがあるゲームが多い、確かに無料石が尽きていると貴重な有償石を使うしかない。


「ちなみに欲しいキャラって?」


「主人公の妹の水着バージョンです!」


 えぇ……


「今、何月か分かってる? そのゲーム季節感も何もないな……」


「漫画では真冬に水着回があることもよくあることです! それに三ヶ月ほどしか地上波で流せないアニメにだって水着回はあるでしょう? どう考えても夏以外に水着回を入れるしかないって事情も斟酌してあげましょうよ?」


 大人の事情だった。まあ水着回は稼げるもんね……いろいろと……円盤の売り上げとかも考えると入れたくなるのはよく分かった。


 結局、睡はまだ残っているであろう無償石で緊張しながらガチャを引いていた。十連一回ごとにその顔は曇っていった。


「うぅ……お兄ちゃん、当たらないですよぅ……」


「確率の問題なんだからしょうがないだろ。どうせ復刻も出るだろうし今回は見送ったらどうだ?」


 現実的な提案をするが睡は首を横に振る。


「ピックアップされているときに引かないでいつ引くというんですか! それに復刻なんていつされるか分からないものに頼れません!」


 やれやれ……好きにすればいいとは思うのだが、ガチャをそこまで引きたいものなのだろうか?


 残念ながらトレード機能は昨今のソシャゲではほぼ実装されていない。よって俺のアカウントで無償石で引いて睡のアカウントに送るという方法はとれない。


 まあDUPE(複製)とかいろいろバグの温床だったトレード機能が無くなったのは必然とも言える、その上RMT(リアルマネートレード)の温床にもなっていたのだ。そりゃあ無くなるってもんだろう。


 バグの悪用など褒められたことではない、しかしそれで5桁以上のお金が動くなら心が動いたことは責められないと思う。


「で、無事引けそうなのか?」


 睡は泣きそうな顔を俺に向けて言った。


「この顔が引けた顔に見えますか?」


「悪かったよ……」


 どうやら無償石では引けなかったようだ。


「有償石を突っ込むのか?」


「ここまで来てやめられるわけないでしょう! こうなったら天井まで課金しますよ! 魔法のカードのストックはまだまだあるんですからね!」


 どうやら睡は課金用のプリペイドカードをたっぷり持っているらしい。どこからその金が出るのかなんてことを聞いたところではぐらかされるのは目に見えていた。


「ちなみにどのくらいストックしてあるんだ?」


「うーん……数えたことは無いですけど……天井まではいけますね」


 金額がいくらなのかは言わなかったが、『天井』と言うからには結構な金額を持っているようだ。少なくとも数十連でたどり着くほど天井は低くないはずだ。


「天井まで回す気かよ……」


 俺はいくらか呆れていたものの有償石を使ってまで回し出すと歯止めがきかないのは分からなくもない。


 睡はそれから恐る恐るスマホの画面をタッチしてその度悲しげな顔をした。どうやらそう簡単には引けないようだ。


「睡、程々にしておけよー?」


「分かってますよ……おっと、クレジットが尽きましたね……一枚目といきますか」


 そう言ってポケットからバリアブルカードを取り出した。あのカードは千五百円から一万円までチャージできたはずだが、それ一枚が一体いくらなのかは想像したくも無かった。


 ただ、ガチャの相場から言って十連が三千円が多いので一枚三千円前後を課金したのであろう事は予想がついた。


 そのカードをスマホで読み込んでいる様を見て、ギャンブルで身を持ち崩す人間が後を絶たないのがよく分かった。


 そして二回ほど回したのだろう、その度引けなかったであろう顔をするのでよく分かるのだが、俺に泣きついてきた。


「お兄ちゃん! このカードで最後の一回なのでお兄ちゃんが回してください!」


「お前にはストッパーやブレーキは存在しないのか?」


「ふっ……お兄ちゃんを愛するような妹ですよ? そんな常識にとらわれるほど頭が固いわけがないじゃないですか!」


 偉そうに言うようなことでもないような気がするのだが、頼まれているのはガチャのボタンを押すだけのことなので渋々ながらもスマホの画面を見た。


「ここに190ポイントって表示されてるけどガチャの回数か?」


「そうですね、ちなみに天井は200です!」


「それでポイントは十連一回でどれだけ貯まるんだ?」


「ガチャ一回1ポイントなので十連一回で10ポイントですね」


「じゃあここで引こうが引けまいが天井で手に入るんじゃねえか!」


 もうすでに天井近くまで回していることも驚きだし、最後の一回を俺に頼む意味も分からなかった。


 とはいえボタンを押すだけだ、どちらにせよ結果は見えているので俺がここでゴネる意味も無い。


 俺は適当な気分で『十回回す』と表示されたボタンを押した。


 画面では魔方陣からキャラクターが飛び出していく、始めの数人は銀色、4、5人目で金色が一回出た後また銀色に戻った。露骨にがっかりしている睡を見るに最高レアは金色ではないのだろう。


 そしてラストの10回目で魔方陣が虹色に輝いた。


「おっ!」


『おにいちゃーん! これは恥ずかしいですよう』


 甘ったるいボイスと共に水着のキャラが登場した。


「さすがですお兄ちゃん! ここで引くとかお兄ちゃんは持ってる人ですね!」


 ガチャ運などに運命力を使いたくはないのだが、一応引けたようなので睡は満足いったようだった。


「よっしゃああああああ!!! お兄ちゃんありがとうございます! 晩ご飯はお兄ちゃんのリクエストにしますよ! お礼です! 何がいいですか?」


「じゃあ……カツ丼を」


 睡が気合いを入れてカツサンドを食べていたのを見て欲しくなっていた。とんかつ繋がりと言うことで俺はカツ丼をリクエストした。


 その日の夕食はメガ盛りのカツ丼が出たのだが、俺はそれを見てこの肉全部でも十連一回くらいなんだろうなあ……と睡の思考に毒されて金額がガチャ基準になっているのに気づいて苦笑したのだった。


 ――妹の部屋


「よっっっっっっっっしゃあああああああ!!!」


 まさかこのタイミングでお兄ちゃんが引いてくれるとは思いませんでした! さすがはお兄ちゃん!


『お兄ちゃん……』『お兄ちゃん……』『お兄ちゃん……』


 私はその晩、ガチャで引いた妹のボイスを連打して満足いくまで聞いたのでした。

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