表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年生二学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

147/179

妹とコーヒー、そして書籍

「きゃあああああああ!!!!」


 そんな声が隣の部屋から響いた、休日の昼間のことだった。いつものことなのでもう驚きもしないが睡が何かやらかしたか、せいぜいゲームで負けたか程度のことだろう。


 しかし、だからといって妹の部屋から悲鳴が聞こえた以上事情を聞きに行かなければならない。


 まったく……コーヒーが欲しいからと言うので一杯淹れてやったらさっさと部屋にすっこんでいる。別にそれ自体は構わないがこういうトラブルを起こさないで欲しいものだ。


 部屋を渋々ながら出て睡の部屋に向かう。部屋の前で睡に声をかける。


「ねむー……なんかあったのか?」


 俺はやる気の無さを丸出しにしながら声をかける。睡はすぐに出てきた。


「お、おおお、おお兄ちゃん!?!?!? 別になんでもないですよ!? 気にしないでください! 私ごときを一々気にしないでくださいね!? 何も心配は要りませんから!」


 そう言って俺を追い返してしまった。


 俺は睡の部屋から離れたところで考えてみた。


 確かに何でもないとは述べていた。だから気にしなくていいのだろうか? しかしきにはなる。まあないとは思うが誰かが訪ねてきているのかもしれない、その人とトラブルになった可能性もある。


 俺は玄関に行って並んでいる靴を照らし合わせてみた。玄関には俺の靴と睡の靴が隣り合っている。誰かがわざわざ靴を隠すなり部屋まで持ち込むなりした可能性があるだろうか? 少し考えてみたがそんな相手がいるとも思えなかった。


 俺は深く考えるのを放棄して部屋に戻った。何事もない部屋で、隣でさっき奇声が上がったとは思えないほど平和な部屋の光景を眺めながら壁に耳を当てようか少し考えてしまった。


 少なくとも俺が妹の部屋を盗聴するほどモラルの無い兄ではない。俺の部屋は静寂に包まれており、先ほどの声は幻聴だったのではないかと思える。しかし、であれば睡のあの反応はおかしい、声が聞こえていなければ睡の部屋にゴキブリでも出たのかと思う。睡がしれっとしていればたまたま俺の耳が疲れていただけだろうと思える。しかしその両方が同時に起きることはまず無いのではないかと確信していた。


 さて、おそらく睡の反応からするに俺に対して何かあったのだろう。俺は何かしただろうか?


 朝からの言動を思い起こしてみる。


 いつも通りの朝食、それからしばらく変わりなくだらだらして少し経った後、睡が俺に一杯コーヒーを淹れてくれと言ってきたのでコーヒーメーカーを使って淹れた。


 よくあることなので気にしなかったが、よく考えてみるとコーヒーを睡が『部屋に持っていった』ことが少し奇妙に思えた。アイツは二人きりのお茶会を楽しみにしていると言って憚らないやつだ。ならばリビングで飲んでもまったくおかしくはない。俺はついでに淹れた一杯を飲んでいたんだからな。


 その後部屋に戻って少ししての先ほどの声だ。この家にいるのは兄妹二人、それ以外はまず無いだろう。


 だめだ、さっぱり分からない……


 部屋を見やって何か原因になりそうなものが無いか考える。俺の部屋と睡の部屋は同じ構造だ。両親曰くこの家に越してきたときに改築して、その時に兄妹で格差があっては不味いだろうと思ったと伝えられている。


 ならば俺の部屋に変わった点は無いだろうか? 大体似たような構造なら同じことが起きそうだ。


 机、椅子、本棚、それらを見回しても一見不自然なところは無さそうだった。


 そこで些細な違和感を覚えた。本棚だ。本棚の中でもラノベを挿している棚に目がとまった。


 その段はぎっちりとラノベが詰まっているはずだった。本棚は多くを使い果たして電子書籍に頼り始めていた。そこまで本を買っているならほんと本の間に隙間があればそこに詰めるはずだった。


 本棚に向かい上から2段目を見る。確かにその段には本は一杯に詰まっているように見える。


 俺は本棚の右端に指を入れて思いきり左に押してみた。僅かに本が動いておそらくちょうど一冊分くらいであろう隙間が空いた。


 本棚に隙間があるということだ。こんな隙間があるなら一冊無理をしてでも挿しているはずだ。


 つまりは……


「本が一冊無くなっている?」


 そんな結論にたどり着いた。その棚のラノベを左から右へ確認していく。


 何が欠けているのかは分からなかった。続き物の本はちゃんと一巻から数字が飛ぶこと無く揃っている。


 俺の雑な性格が災いして本棚を整理などしていなかった。もしもタイトルや作者で五十音順に配置していたなら何が無いのか推測はできたはずだ。


 そこまで考えて俺は深く考えるのをやめた。このことに意味があるとは思えないし、適当に一冊引き抜いてどこかに置き忘れている可能性もある。そんなことより睡の状況の方が気になる。


 俺は再び睡の部屋に向かった。


 コンコン


 ドアをノックする。返事は無い。


「睡? 大丈夫か?」


 そう声をかけてようやく睡が出てきた。何故かビクビクとした様子だった。


「ひゃうっ!? お兄ちゃん!? なんでしょうか?」


「いや、お前に何かあったんじゃないかと思ってな。困りごとなら相談に乗るぞ?」


「えーっと……その……お兄ちゃんのお気持ちは大変嬉しいのですが、何もないので大丈夫です……」


 なんだか歯切れの悪い返答だった。


「何もないならいいけどな、あんまり一人で何でも抱え込むなよ?」


「お兄ちゃん……ふぇええええええんん!!」


 急に睡が俺に抱きついてきた。


「お兄ちゃん! ごめんなしゃいいいい!!!!」


 全力で飛びついてきたので思わずよろけた。まともに話が聞けないので睡を俺から剥がす。


「落ち着け! 何かあったのか? 冷静に、ゆっくりと説明しろ」


 そう言って睡と少し距離を取ると睡はグズりながらあらましを語った。


「その……お兄ちゃんの趣味が知りたくて……本棚から一冊借りたんです……」


「俺の部屋の本棚からか?」


 コクリと頷く睡。どうやらそれが回答のようだった。


 しかしおかしい、睡はこっそり借りていくことはあるかもしれないがそれを気に病んだりはしないはずだ。


「その……お兄ちゃんにコーヒーを作ってもらって……その時に部屋に入れたので借りたんです……それで、コーヒーを飲みながら本を読んでいて……ごめんなさい!」


「そこまでは怒るようなことはないと思うが、何かあったのか?」


 睡は部屋の机に歩いていって本を取って持ってくる。


「その……コーヒーがこぼれて……本当にごめんなさい!!!」


 睡が差し出した本は湿り気でぐわんぐわんになっていた。


「ああ、やっちゃったのか」


 俺は特に気にしていなかった。大事な絶版本とかでやられたならもう少し違ったのかもしれないがそれは違った。


「お兄ちゃん? 怒らないんですか?」


「あー……その本な……気に病んでるところ悪いんだが二冊目なんだ」


 そう、睡が選んだ本は俺がもうすでに複数持っている本だった。


「二冊目……?」


「ああ、ラノベになる前に一般レーベルからまったく同じ内容で出ててな、同じ本がもう一冊あるんだよ」


 序盤で早々にラノベになったので買い替えたのだが、旧レーベルでもイラストは表紙のでそれはラノベになっても変わらなかった。つまり一般レーベルとの違いは背表紙くらいにしか無かった。


「じゃあお兄ちゃんは怒ってないんですか?」


「ああ、だから気にするな」


 そう言って睡に微笑むと、ようやく落ち着いたようだった。


「よかったです……本当に困ってたんです! 申し訳ないです!」


 そう言って睡は俺に一つ提案をした。


「お兄ちゃん、その……こんなことを頼んでいいのか分からないんですけど……この本はいただけますか? まだ売っているなら同じものを買ってお兄ちゃんに渡しますから」


「ん? ああ、構わないぞ。それ結構売れたからまだAmazonに在庫あるはずだし、まあ贅沢を言えば買ってもらえるにこしたことはないが」


「じゃあお兄ちゃん! そういうことで許してくださいね!」


 睡はさっきまでの様子はどこへやら、楽しげに言った。


 そして早速スマホを取り出してしばらく操作してから俺に画面を向けた。


「じゃあ注文しました!」


 そうしてその件はそれでおしまいということになった。付け加えるならその晩のご飯はいつもより豪華だったような気がした。謝罪の気持ちで肉を増量したのだろうか?


 なんにせよ、謎が解けたので俺はそれで安心して眠れるのだった。


 ――妹の部屋


「ぴゃああああああああん!! よかったですうううう!!!」


 本当に助かりました! お兄ちゃんの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、お兄ちゃんの本を読む、その思考の読書体験だったのですが……やはり悪いことはできないものです。


 悪いことにオフィス用の椅子がクルリと回ったときに背もたれがマグカップを倒したときには生きた心地がしませんでした。なにしろちょうどこぼれた先にはお兄ちゃんの本があるのですから……


 私はなんとか九死に一生を得ましたが、これからはお兄ちゃんのものを勝手に借りるのは()()()しようと決意したのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑面白かったと思った方は上の☆から評価を入れていただけると大変励みになります
 強制ではありませんしつまらないと思ったら☆1を入れていただいても構いません
 この小説で思うところがあった方は評価していただけると作者が喜びます
 現在のところ更新頻度も高いのでそれを維持するモチベとしてブックマークには日々感謝しております!
 更新を追いたい方はブックマークしていただけるととても嬉しいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ