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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年生二学期

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お洗濯とワイヤレスイヤホン

「お兄ちゃん、洗濯物はこれだけですか?」


「ああ、それだけだ」


 今日の洗濯当番は睡の日だ。俺は着替えた服を洗濯機に放り込んでからこれだけだと答える。いつものことなので俺も気にしなかった。


 そして部屋に戻って……


「あー……あのアニメの主題歌配信始まったのか……聞くかな」


 人気アニメの主題歌がリリースされた通知が来ていた。割と有名な声優ユニットが歌っていたので耳に残っていた。


 俺は早速それを聴こうとスマホを取り出す。Windowsではハイレゾが聞けないので、音質にこだわるならiPhoneの方がいいだろう。


 まあそうは言ってもBluetoothイヤホンなのでハイレゾをそのまま聞くことはできないのだがそれなりの音質は出るだろう。SBCコーデックとは言えPCよりマシだろうと思われる。


 とりあえず聞いてみるためにポケットを探る。学校では睡に話しかけられている時以外多くの時間をイヤホンで音楽を聴いているのでいつもポケットには入れていた。


 しかしポケットを探ると手が空を切った。ポケットの中身は空だった。一応もう片方のポケットを探ってみる、やはり同じであり何も入っていない。はて? 落としただろうか?


 AirPodsは持ち歩くには高価すぎるので最近安いイヤホンを買ったのだが、そういえば昨日は充電をしていたな。


 充電器を見てみる。安物なのでUSB-TypeCなどという高級な端子ではなく、昔ながらの素朴なmicroUSBだ。そしてAnkerの充電器に刺さっているmicroUSBケーブルは一本、そこには繋がっていなかった。


 ……………………


 俺は今日の行動を思い返してみる。充電の終わったイヤホンからケーブルを抜いてポケットに放り込む。財布がレシートで分厚くなっていたので横のポケットではなくお尻側のポケットに入れたはずだ。


 …………


「洗濯機……」


 俺はダッシュで洗面所に急ぐ。そこには無慈悲にも稼働している洗濯機が鎮座していて、俺のズボンも分けておかれたりはしていない。つまりは……


「まーたやらかしたのか……」


 もはや諦めの境地だった。一体何回イヤホンを洗濯しただろうか? まだ片手で数えられるくらいしかやらかしていないはずだ。


「あれ? お兄ちゃん? 今日のお洗濯は私だったはずですが……」


 俺は一縷の望みを託して睡に聞く。


「睡、俺のズボンを別で洗濯していたりしないか?」


「いえ、そこで動いてる洗濯機に全部入れましたけど?」


「ああ……そっか……」


「どうかしましたか?」


 すこしどう答えたものかと考えてから素直に言う。


「いや、ポケットにイヤホンがな……」


「ああ……やっちゃいましたねえ……」


 睡もそれで全てを察してしまったのか悲しい顔になっている。定期的に財布や鍵を洗濯している俺からすればイヤホンだってそりゃあ洗濯するってものだ。違いと言えば財布や鍵は洗濯しても壊れないってことだけだ。まあそれが大きな違いなのだが……


 諦めて部屋に戻ってAirPodsで聴こうかと考えて洗面所を出ようとすると睡が悲しそうな目をしていた。


「お兄ちゃん……私のせいですかね……?」


 そんなわけないだろうに、気にするやつだな。


「それは違うし安いものだから気にするな」


 近所のゲームショップで売っていた安物だった。いや、もちろん本当に安い某国産の個人輸入に比べれば高いのだがそれと比べたら昼飯を一食食べる方が高いくらいなのだ。


「そうですか……ねえお兄ちゃん……」


「なんだ?」


「その……イヤホンくらいなら買ってあげますから一緒に買い物に行きませんか?」


 俺のミスなので睡に責任を問うつもりはないのだがな。


「あんまり気にしなくていいぞ。本命のAirPodsは無事だったしな」


「いえ、私がお兄ちゃんとデートがしたいのでイヤホンを買いに行こうと言っているだけなのですが?」


 まあそう言われたら断る理由も無い、買う時に自分で金を払えばいいだけだろう。責任を問わないにしても代わりが必要なのは確かだし、それを買いに行くのに睡がついてくることくらいは全然構わない。


「じゃあついてくるか? 俺が自分で払うからな?」


「いいですね! できればお兄ちゃんに貸しを作っておきたいので私が払ってもいいのですが、まあそれは買い物に行ってから決めればいいだけですね!」


 どうしようもないことを後悔するのは趣味ではないので、前向きに新しいイヤホンをお迎えするくらいの気持ちでいることにした。残念ながらあのノーブランド品はお亡くなりになったであろうから新しい子を迎えなければな。今度は大切にしてあげよう。


 俺は部屋に戻って数千円の入った財布とスマホを持って玄関に向かう。貯金まで入れればもう少しあるが、今ある金で買えない金額のものを買う気は無い、身の丈に合ったものを買うべきだろう。


「お兄ちゃん! ほら! 行きますよー!!!」


 睡に引っ張られて玄関を出る。熱気はとうに過ぎ去り、涼しげな風が吹いていた。


「で、お兄ちゃんはどこでイヤホンを買う予定だったんですか? 家電屋ですか?」


「そうだなあ……」


 特にどこだと考えていたわけではない、通販で買えるレベルに安ければ文句も無いしな。もちろんレビューの怪しいあの国の最新版ではない、普通に売っているレベルの品の中でという話だ。


「うーん……お兄ちゃんが決められないならオーディオショップにでも行きますか?」


「まて、それはダメだ! 聞こえればいい程度のイヤホンでいいからそういうガチ勢の集まった店舗じゃダメだ、オーディオマニアの闇の深さを考えるといくらかかるか分かんないからな」


 一応オーディオショップもあるのだが、通りから眺めるだけでも高級そうなアンプやスピーカーが店内に鎮座している。そんなところで音質どうでもいいので安いイヤホンをくださいなんてことはとても言えない。


「まあ素直に電気屋に……いや、そういえば最近できたドラッグストアがあったな、そこ行ってみるか?」


「なんでイヤホンを買うのにドラッグストアに行くんですか……?」


「だって薬以外のものが大量に置いてあるからな。しかも安いし」


 ドラッグストアなどと言う名前と建前だが実際のところはディスカウントストアが薬も売っていると言った方が正しい店舗の内装になっている。そう言うところでは当たり前のように家電から明らかに体に悪そうなお菓子まで様々なものを売っている。一見の価値はあるだろう。


「そですか。んじゃ行きましょう!」


 グイグイ


「引っ張るなってば……時間は余裕だからさ」


「そうですか? じゃあお兄ちゃん! ゆっくり行きましょうね!」


 そう言って俺の腕に飛びついて自分の腕を絡ませてきた。もはやいつものことなので気にすることもなかったし、近所の目線も『いつものもの』と行った感じなので誰も気にしていなかった。


 そうしてカラフルな看板を出したドラッグストアの前に来た。『酒』『タバコ』『薬』とでかでかと印刷された看板を見ると壮大なマッチポンプでは無いかと思うような組み合わせだ。


 中に入るとごちゃごちゃした展示の中に、入り口付近にドラッグストア要素を詰め込んだのか、シャンプーや育毛剤、ひげそり、化粧品等薬局で売っている必要性があるのだろうかと疑問に思うようなものが並んでおり、その隣に並んでいる頭痛薬や酔い止め、湿布、その程度がこの店舗のドラッグストア要素の全てだった。


「お兄ちゃん、なんだか早速文房具とか売ってるんですけど……ここって何のお店でしたっけ?」


 睡は呆れるようにラインナップを見ていた。しかし薬を売るハードルが下がった結果、薬よりよく売れて資格者も特に必要無いその他の製品が多くなるのは市場原理では当然のことだ。


「まあそんなもんだよ、家電コーナー探すぞ?」


「ドラッグストアとは一体……?」


 ドラッグストアという概念に疑問を持ち始めている睡を放っておいて天井にぶら下がっている売り場案内を眺める。やや奥の方に『電気製品』と書かれたプレートが下がっていた。


「睡、行くぞ」


「はい!」


 そのコーナーでは小さめの家電屋と遜色ない品揃えになっていた。あえてドラッグストア要素を無理矢理探すなら電気シェーバーくらいだろうか? それさえも家電屋で売っている商品だが、それを除けばもはやただのディスカウントストアでしかないような品揃えだった。


「ええっと……イヤホンは……この辺か」


 イヤホンのコーナーはすぐに見つかった。もはや使えるスマホが少なくなりつつある有線イヤホンや、無線の廉価品がたくさん並んでいた。


「お兄ちゃん、どれがいいですか?」


 俺は睡に小声で言った。


「どれも音質は大して変わんないよ……ただ単に売ってるメーカーが有名かどうかくらいだ」


 そう、イヤホンの音質など、二三千円ならどこで選んでもそう変わりはない。


「これが一番安いな」


 千九百八十円の商品を持ってレジに向かう。


「お兄ちゃん、買ってあげますよ?」


 睡のその言葉に対して俺はシンプルに答えた。


「さすがに二千円が出せないほど困窮はしてないかな……」


 レジを通してミッションコンプリート。これでAirPodsを持って行くのが不安な場所で使うイヤホンが手に入ったわけだ。


 そうして睡が俺と一緒にイヤホンを入れたビニール袋を片手と片手で握って帰った。当然の話だがイヤホンという軽量な製品を二人で持つ必要は無いなどという正論は睡に却下されたのだった。


 帰宅後、コーヒーを飲みながらイヤホンを繋いで新曲を聴いてみる。音質がどうこうというのは分からないが、曲の方は好きな感じだった。


 そうしてその日は終わったのだが……睡が洗濯したイヤホンがまだ使えたから、という理由でお下がりをねだって断る理由も無いのでそのイヤホンは睡のものになったのだった。


 ――妹の部屋


「ハァハァお兄ちゃんが耳元で囁いているような感じですね……」


 大変よろしい、お兄ちゃんのイヤホンがまだ使えたのは僥倖でした。私はスマホで二人きりの時にこっそり録音したお兄ちゃんボイスをお兄ちゃんのお下がりのイヤホンで堪能しています。


 絵面的に大変危険な領域ですが見ている人などいないため私は欲望全開で録音を聴きました。


 その夜は大変充実したものだったことはいうまでもありません。

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