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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年生二学期

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兄と眠りの淵

「ふぁぁあああ…………………………ぁああぁ……」


 俺は大きなあくびをする、昨日あまりにもコーヒーを飲み過ぎて眠れていなかった。恐らくApple Watchの睡眠トラッカーの記録も酷いことになっているだろう。


 8時間の睡眠は最低限の基本的人権だと考えている。それに届かないと翌日に後悔しながら朦朧とする意識の中を過ごさなくてはならない。


「お兄ちゃん? 眠いんですか?」


「ふぁい……」


 今日ばかりはエナドリをがぶ飲みしたかった、あまり好きな味ではないがカフェインの錠剤に比べたら飲み物になっているだけ十分美味しいと言えた。ついでに言うなら最近は生活リズムが整ってきていたのでカフェイン錠剤のストックを切らしていた。


 使わなくても大丈夫だろうと思った頃に限ってそんなものが必要になってくるあたり世の中は理不尽だ。


「まったくもう……しょうがないお兄ちゃんですねえ……」


 睡が何かを言っている、頭がぼんやりして働かない。何かをやっているようなのだが俺はそれが何をしているのか認識できない。昨晩コーヒーを飲み過ぎて夜中まで眠れなかったのが今日まで響いてしまった。


 ゴリゴリと何かを削るような音がする、鉛筆でも削っているんだろうか? 今の俺にはそんなことも判断できないほど意識が朦朧としていた。


 そんなことを考えていると、昨日嫌というほど嗅いだ香りが漂ってきた、それで少し目が覚めた。


「コーヒーか?」


 睡は優しげに答える。


「そうですよー……お兄ちゃんがポンコツになってますからねー……目を覚まして頂かないと困るんですよねえ」


「はい、どうぞ」


 そう言ってマグカップが俺の前に置かれた。


「それ飲んでシャッキリしてください!」


 睡にそう力強く言われて否応なく目の前のカップに入っている液体を一気に飲み干す。明らかに一気飲みするには熱すぎる温度だったが無理矢理食道に落とし込んでしまう。


 熱さと苦さとカフェインで少し目が覚めた。


「ありがと、ちょっと目が覚めたな」


「お兄ちゃん、コーヒーはほどほどにした方が良いですよ? 死んだりはしないでしょうけどこうして寝不足になってるんですから」


「覚えておくよ、俺は寝ないとダメな人間なんだ……」


 この時期は二度寝の魔力に抗うべきではない、しかしなんとか意識をはっきりさせておかわりを貰うことにした、一杯では眠気を飛ばすには足りなかった。


「もう一杯欲しいから淹れるよ」


「まーた眠れなくなりますよ? お兄ちゃんの生き方は端から見てて心配になるんですよ!」


「まー一杯くらいへーきへーき」


 俺はドリッパーの豆殻を捨て新しいものをミルにかける。もちろん量は多めだ、カフェインは合法的に目が覚める物質だからな、濃いのを淹れる方が効率がいい。


「お兄ちゃん……豆、多くないですか?」


「多い方がよく成分が出るだろうが、あと味も濃くなる」


「お兄ちゃんは料理の味は濃い方が良いって考えなんですかねえ……」


 コポコポとドリップされていくコーヒーの香りを今度は確かに感じながら二杯分のコーヒーが抽出された。


「二杯は多いな……睡も飲むか?」


「特に眠くはないですけど……お兄ちゃんが淹れてくれたんだから飲みましょうかね」


 俺と睡のマグカップを並べてコーヒーを注ぐ、睡の方には砂糖とミルクをつけておく。俺はもちろんブラックだ。


 コーヒーを口に入れると意識がさらにハッキリする。睡の様子もよく見えてきた。重かったまぶたがようやく開いた。


「お兄ちゃん良いですか? いくらカフェインに耐性があるって言っても限度があるんですからね? 無茶はやめてくださいね?」


 睡の忠告に対して俺は答える。


「コーヒー豆の賞味期限ってかなり短いんだよ、開けたらあっという間に香りが飛んでいく、もったいないから美味しいうちに飲まないと」


 睡は多少呆れている様子だったが俺の方を見ながら少し考え込んでいるようだった。


「じゃあお兄ちゃん、毎回とは言いませんが私にも飲む時は教えてくれませんか? 二人で飲めばカフェインだって半分で済むでしょう?」


「それは構わないんだけど……お前コーヒー好きだったっけ?」


「砂糖とミルクマシマシなら飲めますよ、お兄ちゃんが淹れてくれるなら嫌いじゃないです」


 苦手なのに無理してくれるのか……少し悪い気もするが……


「その……無理はしなくてもいいぞ?」


「まあ紅茶の方が好きですが、私としてはお兄ちゃんとこうして机で顔と顔をあわせるのが好きですからね! 一人で飲む紅茶より二人で飲むコーヒーですよ!」


 そういうもんか……睡がいいと言ってるんだからそうしようか。


「それとお兄ちゃん、コーヒーを淹れるのも結構ですがたまには私の紅茶も飲んでくださいね? コーヒーほどじゃないですけどそれなりのカフェインだってあるんですから」


「ああ、眠気がない時はお願いするよ」


 睡が笑顔で頷いた。


「任せてくださいよ!」


 そう言ってドヤ顔をしていた。今後は睡に頼ることも増やそうかな……などと考えている。


「ところでお兄ちゃんってインスタントコーヒーは飲まないんですか? かなりお手軽だと思うんですけど?」


「味がね……ドリップとは別物なんだよ……不味いとかそう言うんじゃないんだよ、あれは別物なんだ、焼きそばとカップ焼きそばくらいには違うんだ」


「別物なんですね……お兄ちゃんは貧乏舌の割に変なところでこだわりますね」


 そして睡は呆れるように言った。


「よく学校で寝なかったものですね……カフェインに頼るにしても毎日耐えるのはよくやってますよ……」


 まあ学校で寝るのは心証がよくないからな……


「学校で寝たら怒られるからな……俺は無難に生きていきたいんだよ」


 睡は顔を赤らめて俺の提案をしてきた。


「お兄ちゃん……私が眠気が一発で取れる秘策をしてあげましょうか?」


「そんな都合の良いものはないだろ?」


 しかし睡は得意げだった。


 睡は立ち上がってソファの方に歩いて行った。そしてすみっこにすわり膝をぽんぽんとしている。


「眠気を覚ます方法って……?」


 睡は楽しげに答えた。


「私の膝枕で寝てください! 眠い時は一度寝ちゃうのが一番ですよ?」


「それは……」


「どうぞ」


「分かったよ……」


 俺もソファに移動して睡の柔らかい膝の上に頭を置く。コーヒーを飲んだにしても限界だったのだろう。横になったらあっという間に意識が落ちた。


 そうしていくら経っただろう? 俺はソファの上で目が覚めた。


「もう起きちゃいましたか……」


 残念そうな睡だった。


「どのくらい寝てたんだ?」


「三十分くらいですよ、私としてはもっと寝ててくれてもよかったんですが……」


「いや、眠気が綺麗に覚めたよ。ありがとな」


 別に横になれれば膝枕である必要性はないような気がしたが、多分睡なりに強引に寝かしてくれたのだろう……布団に入れだと俺が反論したかもしれないからな。


 そうしてハッキリした頭でその一日を過ごすことが出来た。


 問題が起きたのは就寝する時になってだった。


「眠れない……」


 そう、睡の膝の上で眠りこけてしまったので眠気が飛びすぎて肝心の夜になかなか寝付けないのだった。


 ――妹の部屋


「ひゃっっっっっっっっっっほううううううううううういいいいいいいいいいい!!!!!!!」


 お兄ちゃんに膝枕をすることのなんと気持ちのいいことでしょう! 今日の出来事は眠りの神様が私に与えてくれたチャンスですね!


 眠れるかどうか少し不安だったのですが、私もカフェインにはそれなりにつよいらしく、幸せな気分で意識が落ちてゆくのでした。

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