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映画を見に行こう!

「いやあお兄ちゃん! 今日もまた休みですねえ!」


 そう朗らかに言う睡、俺は今日も睡と重の板挟みに遭うんじゃないかと気が気ではない。最も、今日は重と取り立てて約束があるわけではないのでおうちでのんびりしている限りは、そうそう緊急事態は起こらないはずだ。


「ちなみに重さんには内緒でどこかにデートに行きたいんですが希望はありますか?」


「行くこと自体は確定なのか……」


 睡は胸をはって宣言する。


「当たり前でしょう! 妹のワガママに付き合うのは兄の甲斐性ですよ?」


 どうやらコイツの中では、俺は絶対に言うことを聞いてくれる存在らしい。なんか気に食わないな……


「あーどうしよっかなー……昨日のでかなり疲れたからなー」


 棒読みで揺さぶりをかけてみる。ところがそこは我が妹。


「そんなのは気の持ちようです! お兄ちゃんが妹の言うことを聞いて疲れがたまるわけないでしょう! ああ、アレですよ、昨日は重さんもいましたから。今日は私と二人きりなので何の問題もありません!」


 どうやら家の妹は意外とメンタルが体育会系らしい。疲れているわけじゃないが気の持ちようというのは昭和時代の考え方だと思うぞ?


「まあ気楽に行こうか、まだ休みは終わらないんだから……」


 しかし睡は一歩も退かない。


「そんなこと言わないでくださいよ! 例え私とお兄ちゃんとの関係がずーーーーーーーっと続くとしても私はその中の一日をとても大事にしてますから!」


「ずーっとは続かないんじゃないか? 家族でも別れはあるだろ」


 睡はショックを受けたように立ち尽くしてからまくしたててきた。


「いいですか? お兄ちゃんが結婚できるとは思えませんし後は私が結婚しないかぎり一緒にいるんですよ? そんな相手に暴言を吐くのはやめておいた方が良いですよ!」


「お、おう」


 何処に地雷が埋まっているか分からないな……あと、しれっと俺を生涯独身に決定するのはやめてくれないか……


 そんな俺の考えはまったく意に介すことなく睡は続ける。そんなことを言いながら朝食を食べていたところ、睡は唐突に提案してきた。


「お兄ちゃん! 映画を見に行きたいです!」


「映画ねえ……なんか見たいのがあるのか?」


「いえ、お兄ちゃんとデートがしたいだけです!」


 その辺は正直な妹に対して俺はどうしたものか悩む、別にかわいいお願い程度のことだとは思うのだが睡の目が据わっているので非常に迫力がある。


「分かったよ……一緒に行こうか」


 迫力に負けて結局引き受けてしまった。あの目にさらされると断りづらい雰囲気が出来てしまう。俺にはあんな迫力は出せないが兄妹で違うというのは不公平なものだ。


「よっし! じゃあ行きましょう! さあ行きましょう!」


「朝ご飯くらいゆっくり食べさせてくれ……」


「しょうがないですね……じゃあ食べ終わったら即行きますからね!」


 俺はモシュモシュとパンをかじりながら、何の映画を見ようかなと考える。


 ジュースを飲んでから今日も忙しい一日になることを覚悟する。どうせ休みなんて時間を無駄にするんだから妹のために使っても変わらないだろう。


 時間とは無意味に使われるもの、そう考えれば悪くない選択だ。


 トーストを食べると忙しく睡が食器を片付けた。俺がやろうとしたところで嵐のような勢いで食器を取り上げジャブジャブと洗って俺に対して言う。


「さあお兄ちゃん! 準備は完了ですね? 行きましょうか!」


 手をササッと拭いて俺の手を取る睡、暖かなぬくもりが手のひらに伝わってくる。


「ちょ!? 俺の準備がまだなんだけど?」


「ああ、財布だけ取ってきてください、急ぐんですから!」


 俺は部屋に戻って机から財布を取り出して玄関に向かう。睡が決心するとてこでも動かないので早いところ行くことにしよう。


「ほらお兄ちゃん! 行きましょう!」


 こうして俺たちは映画館に向かって出発した。


 ――その10分後


 ピンポーン

 ピンポーン

 ピンポーン


「あれ? 誠も睡ちゃんも出かけたのかしら? まだ朝だっていうのに気が早いわね」


「誠ー? 睡ちゃーん?」


 呼んでみても家の中から返答が返ってくることはなかった。


 ――話は兄妹に戻る


「お兄ちゃん! どの映画を見ましょうか? 単館上映のサブカル系にします? いま大々的にやってるハリウッドの大作にしますか? むしろアニメにしますか? まあどれも妹モノをやっていないのでどれでも構わないんですが」


「話題の大作でいいんじゃないか? 無難だし」


「よし、それじゃあチケット買いましょう!」


 そうして二人で列に並んでチケットの列に並んだ。幸い売り切れということもなく無事購入できた。


「高校生二人」


「はい」


 購入が終わると館内に移動する。


「お兄ちゃん、手を繋いでおいて貰えますか?」


「しょうがないなあ……」


 俺は睡の手を握ると睡はそれに指を絡ませてきた。その手つきはなんとも上手としかいいようがないテクニックだった。


 そうしてようやく映画が始まったのだが、だんだんと握られている手に力がこもっていき終盤にはいたいくらいだった。その理由は大体想像がつくのだが……


 終了後、フードコートで軽食を食べながら熱く語る睡。


「大体ですね……妹がいるというのに他のヒロインと安易にくっつけようというストーリー展開が気にいらないんですよ……妹がいるならそれとくっつければ良いじゃないですか……わざわざ有象無象のぽっと出のヒロインとくっつけて脚本化は何がしたいんですかね……(長くなるので以下略)」


 その映画に主人公の妹が出てきたのにソイツとくっつかなかったのが不満の原因らしい……仮にもキリスト教大国でそれをやったら火あぶりにされそうだが、まあお構いなしに延々と妹の睡はまくしたてるのだった。


 俺はこの苦行が早く終わらないかなあとか、そういえば昼飯も食べていないしハンバーガーでも食べようかなあ、などとその辺の看板を眺めながら考えていた。


 ようやく嵐が過ぎ去った頃、俺たちは昼飯にハンバーガーを食べることが出来た。妹がずっと怒っていたら昼抜きなんじゃないだろうかと真面目に思っていたので無事食べることが出来た安心感から非常に美味しく感じられるのだった。


「ところでお兄ちゃん、さっき映画のチケット代払う時にチラリと見えたのですが……」


「?」


「お金、そろそろ無さそうですね?」


「悪いか? 誰かさんに奢ったら金が尽きたんだよ」


 睡はほうほうと頷いてから言った。


「それは悪いことをしました、ということで是非お兄ちゃんに奢らせてください!」


「えー……」


 コイツの奢りって絶対後で何か要求されるもんなあ……


「まあまあ! お兄ちゃん、靴が大分すり減ってるようですし、靴を買ってあげますよ! それとも……なにかこう……もっと大胆な……ご希望がありますか?」


「さーて靴を買ってもらおうかな!」


 話が不穏な方向に流れていきそうだったので打ち切ってシューズショップに寄った。


 とはいえブランドものでもそれほど高くはないのが総合商業施設の良いところだ。映画館が併設されているところなら大抵のものは売ってる程度には大きいからな。


「お兄ちゃんのサイズはっと……コレですね」


「……」


「お兄ちゃん? どうかしましたか?」


「いや、俺足のサイズ教えたことあったっけ?」


「そりゃあ分かりますよ! 妹ですもん!」


 よく分からない謎の理由で押し切られてしまった。


 そうしてスニーカーを一足買ってもらった後家に帰ることになった。何故か近所まで帰ってきてから睡が誰かを探すようにキョロキョロしていたのは謎だった。


 何にせよ明日から新しい靴で出かけるかなあ……などと考えつつ、まだ休みがそれなりに残っていることに一抹の不安を覚えるのだった。


 ――妹の部屋


「お兄ちゃんの手を握って映画! 素晴らしいですね!」


 思い出しただけでも胸がときめきます。映画上映中の2時間、ずっとお兄ちゃんの手を握っていられたのです! こんな良いことがあるでしょうか?


 まあ……映画のシナリオが多少気に食わないものだったことは確かですが、お兄ちゃんの手のぬくもりに比べたら誤差ですね!


 いやあ今日は良い日でした! お兄ちゃんを独り占めできたのはとても良いことでした。


 おっと、メッセージが届いてますね……


 私はスマホに届いた重さんからの「今日どこか出かけてたの?」というメッセージに無言で私とお兄ちゃんが映画館にいるところをこっそり撮った写真だけを送ってその返答にしました。


 それからスマホが何度か鳴ったのですがその頃には緊張がほぐれたのでそれに向けるほどの意識が残っていませんでした。私はそうして眠りの海に落ちたのです。

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