明日と反応、第七部
この小説に存在している人は名前について現実の人間とは関係がない。現実にそのような名前を持つ人がいるなら知らなかった。
京都府京都市
『ディン~ディン~ドゥドゥドゥドィンドゥン~ディンドゥドゥドゥドィン~ディン~ドゥドゥドゥドィ~~ドゥン~ドゥドゥディディッ』
ああ~、スッキリしたわ。気持ちええ目覚ましの鳴りに、とても気持ちええニュース。
鳴りは今消したので終わったが、このニュースは終わるどころか、まだまだ始まってまへん!
うち、野沢虎子、は元気すぎてたまらへん!
ファンレターやと思ってはった手紙、実はより素晴らしかった。『第一回全日本少年スポーツ競争大会』というスポーツ大会への招待の案内やった。詳しくは体操競技。
うちはな、目を疑いはった。体操を競技より健康とダンスのためにやってはるのに。
『まさか!』と反応した。これは予測しまへんでした大きなサプライズ。キャリアは音楽でええんが、一度真剣にスポーツもしよう!
勿論その情報を早くエージェンシーに伝えんとあかんが、まず第一に親に伝えたい。報告すると、お父さんとお母さんは心がほっこりするね。
さて、浴室にシャワーを浴びに行って、きちんとシャワーを浴びて、白と黒の二色の制服を着はった。
階段を下って、廊下を通って、食堂に着きはった。もうテーブルに座ってはった、親の二人。
「おはよう、お父さん、お母さん」
「おはよう、虎子ちゃん。元気ですか?」
いつも通りお母さんが先に話しはった。
「今までの日々以上に元気です!」
こんな雰囲気でお喋りせんと!
「あら、いいわね。何かいいことでもあったかしら?」
「あったわ。お母さん、お父さん、あれを聞いたら耳を疑ってまうかも」
いつも少し下を向いて見てはるお父さんもちゃんと頭を上げた。
「おはよう、虎子ちゃん。随分喜んでるらしい。歓喜が晴れ晴れしく聞こえる」
「それには理由があります」
「そうか~、聞かせてください」
お母さんはすごく興味を持ってはった。
「あのね、『初回全日本少年スポーツ競争大会』っていうの、聞いたことあります?」
首を横に降りはった。予測できるくらいなこと。
「いいえ、聞いたことありません。なんですか?」
すぐ答えるつもりやったが、その前にお父さんにも尋ねはった。
「なら、お父さんは?」
同じく首を横に降りはった。知っていると思ってはった。
「いいえ、俺も初耳や」
仕方ないどころか、喜んで説明しはった。
「国内限定で少年向けのオリンピックを想像してください。日本の若いアスリートを育成し、スポーツへの関心を高める目的で」
「ああ、楽しそうなスポーツ大会に聞こえる」
それをお母さんから聞いてすぐにサムズアップと広い笑顔を見せた。
「その通り!一番楽しそうなのは、うちの参加ですわ!」
「何?? どういうことですか??」
ショックを受け混乱してはった。
「うち体操やっていますよね。まさかあそこに出れるほど上手だと決められたようです」
「本当??」
テンションがますます上がって来た。両手で口を覆いはった。
「本当です、ほんまに。部屋に手紙があります。良かったら見せて上げます」
「虎子ちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
もう我慢できず、お母さんがうちの方に走りうちを抱きしめはった。抱きしめも結構強かったが、お母さんの感情が百倍も強かった。
「おめでとう!おめでとうよ!朝早くこんな素晴らしい出来事聞かせてくれるなんて」
「こちらこそおおきに、お母さん」
「またどれだけの天才なのか、証明しましたな。ご招待、幸せでしょう」
しっかり抱きしめはっていたな、誕生日のように。これほど嬉しいわね。
「はい、光栄で幸せです。頑張ります」
「ええ、頑張れるねぇ。本業ほど頑張ったら簡単に勝てるでしょうね」
まあ、それはどうかな。やってから見ることさ。でもその確信はとてもありがたい。
何も言わずに頷いはった。
「とにかく今日はこのいい知らせを思い切り祝いましょう!ねぇ、満?」
お父さんの賛同を求め、お父さんの方を見はった。うちも。
だが彼を見ると、すごい驚いた。
「うううう...」
なぜか泣いていた!顔も強膜も赤くなってもうた。鼻水まで出ていた!
「満...?」
「お父さん...?」
さっきまで明るい雰囲気やったが、彼を気づくと心配の雰囲気に変わってもうた。
「うう...か、勘違いせんでくれ...実は俺、喜んでる。大量の涙が出るほど嬉しいんです!ほんまに!信じてください」
「何?」
「ごめんなさい、雰囲気を潰してもうて...俺は悲しい気質で、独特で変な自分なりの喜び方や」
いつもその悲しい気質でうちも悲しくしてまうんや。そして理由も原因も打ち明けてくれへん...
「おめでとう、虎子ちゃん。お父さんは今喜んで、可愛い娘を誇りに思ってる」
あれは噓やなかった。当然さ、お父さんはうちのことが大好きなのは知ってはる。
感謝があって、次の瞬間もその感謝を伝えはった。だが外観に関して真剣な姿勢を取りはった。
「ありがとう、お父さん。でも...」
「でも?」
「約束してもらいます」
「何の約束ですか?」
「もし金メダルを得たら、その悲しい気質の理由を説明してください」
とうちは条件を言い、約束を求めはった。
もう今までの消極的な態度は終わり。変化はうちがもたらしたるわ。
「...」
最初は躊躇し拒否しようとしたが、わずか後ほど頭を少し下げはった。
「ええんです。約束する」
これを聞いて、もう半分は既に勝ちや。後は実現のために努力して金メダルを得るだけ。
「お父さん」
「なんです?」
「うちはお父さんは悲しいであって欲しくないのです。悲しいお父さんの周りにいると、完全に元気になれません。悩んでいるのなら、話してください。出来るなら是非お父さんをその悩みから解放して上げたいので」
もう一度頭を下げ、涙を流した。
「うううう...優しいなあ~」
次に指先で涙を拭いた。
「感動したわ...もう、全部話せる気がする」
「よろしくお願いします」
「虎子ちゃんももう少し時間経ったら大人やし。ようやく心が楽になれるかもな」
お父さんの悲しみが治りそうになった。長期的にまだ時間がかかりそうやが、短期的にうちが差し当たりこうすることが出来る。
さっきお母さんがうちを抱きしめたように、うちがお父さんを抱きしめた。唯一の違いは、うちのやり方はゆっくりで柔らかやった。
「好きです、大好きです」
「お...俺も、大好きです」
こうやってもう少しお互いを抱きしめながら立っていた。
落ち着いた後の方、お母さんがイカを提供しはった。
今日は特別な日になったと言い、特殊な朝ご飯を作ってくれた。これは嬉しかったんや、イカが好物ですごく美味しい。
「いただきまっす」
「いただきまっす」
旨い!旨かったわ、イカ!味以外にヌルヌルとする食感も気持ちええ。
「なあ、虎子ちゃん」
とお父さんに声をかけられた。
「なんですか?」
「エージェンシーにもその情報を伝えるやろな?」
「はい。朝ご飯を終えると報告するつもりです」
彼らに伝えるのも勿論重要やが、一番最初に家族に伝えたかった。
「いいねえ。徐々に成長してくれるわね」
ただ頷いはっただけ。
「もう大体自分の世話をすることが自分で出来るし、後少しで立派な大人になる。私たちは不要になるのかね」
まあ、過剰に褒められたらちょっと恥ずかしくなってまうな。どうしよう?
「そんなわけありません、全然」
「さゆり、もっと言葉に気をつけなさい」
とお父さんが軽く注意しはった。ナイス空気正しサポート。
「ごめんごめん」
「で、虎子ちゃんは今日何をする気ですか?」
「学校が終わった後でダンススタジオに行く予定です。いつ帰るかは分かりませんが」
後ほど将斗のところにも行きたいので。
「あのな、今晩は特に美味しい飯を用意したいから、時間を知った方が良かった。美味しいデザートも追加で注文しようと思ってな」
美味しいな~~。おおきに、お父さん。
「後でメッセージを送りますので、ご心配なく」
「大丈夫」
大抵こんなスムーズなやり取りなのや。分かってくれて、ええ雰囲気を保てるお父さんがいてほんまに恵まれたわ。
無限に支持してくれる両親に100万回感謝してもまだ足らへん。
さて、朝ご飯を食べた後に歯を磨いて、靴を履いて、家から出はった。
「行って来ます」
「またなー、虎子! 待っています!」
ほんで学校へ立ち去った。
リムジンに乗って結構早かった。でも代理人に報告を書き、メッセージとして送るには時間がまだ十分あった。返信は後で。
15分後、校門に着いはった。リムジンから降りはった。
『京都姫島学院高等学校』
今日の天気、ええな。お友達とお喋りするにはすごく相応しい。
「おはよう、虎子さん。今日は美しい日やなぁ」
これは爽さん。相変わらず第一に声をかけてくれる。
「せやな、昨日よりはるかに美しい。それに虎子さん、おはよう」
小夜子さんがいつも通りフォローしてくる。
「おはよう、虎子さん。鳥の鳴き声、聞いたの?早速元気になるんや」
そして最後に安定のちえみさん。
「おはよう、みんな。天気に関して同意するが、残念ながら鳥の鳴き声を聞こえまへんでした、ちえみさん」
「いやごめん、質問自体間違ってた。毎日リムジン乗ってる令嬢さんは聞くわけないやろな」
「おい、会ったばかりなのにすぐいちびるな。あんた、毎日のお喋りをしたくないようや」
「お前、お喋りを脅しのために使うなや」
軽い冗談は軽いが、お喋りのことはとても重い。それに関して、簡単に強気になれる。授業前の一番大事なルーティンなので。あれを脅かしたらあかん。
「音楽のネタがないが、イベント関係の特ダネがある。聞いて欲しかったら大人しくしな?興味深い情報を持っている者は強いんやで」
「強い?なら昨日みたいに怖いオーラ出してやろっか?誰が強いか、分かってくるんや」
「やってみな」
まあ、これは全部冗談で遊び半分で言いはったが、本気でまたあの雰囲気にするのか。
隣にいた爽さんと小夜子さんは笑ってはったが、挨拶のさっきほどやなかった。
「いくで」
ちえみさんは真剣に鋭い目でうちを見はった。その次、昨日とは似たような雰囲気になった。
爽さんと小夜子さんは横から介入せずに中立的に見つめてはった。
正直、すごい圧力を感じはったが、急に...
ちえみさん、いきなり厳しい目つきを止め、落ち着き、笑い始めた。
「ハッ...ハハッ...ハハハッ...ハハハハハハハハハ!」
彼女の次に爽さんと小夜子さんも笑いに参加しはった。
「ハハハハハハハハ」
「ハハハハハハハハ」
それにちえみさんが右手をうちの左肩に置き、さらに高笑いしはった。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!な~、滑稽やろ?あんたも笑って」
ちえみさんはドッキリが好きらしい。うちはそうやないが、まあ笑ってもええか...
悪意を感じまへんし、せっかく彼女たちも大声で笑ってはるので、参加しようか。
「フフフフフ、お茶目やなぁ」
うちにとってのおもろいと、ちえみさんにとってのおもろいが大違いやが、友達と共に笑おう。
後もう少しこのお笑いが続いたが、10秒後に手を離し、15秒後に笑いを止めはった。
「ああ、おもろかった。せやろ?」
「まあな」
「楽しいおちょくりやったな」
「あんたたちが笑えるねぇ」
「せや。あんたが一緒におらんと、つまんないで」
「それもそう」
「なあ、そろそろお喋りを始めよう。教室に行かんとあかん時がもうすぐやで」
爽さんが二人の話に割り込んだ。でも、言ったことは重要なのでナイス。
「あ、せやな。良く覚えさせたな。みんな、興味深いこと知ってる」
あれはなんでしょう。
「また音楽についてですか?」
と小夜子さんが尋ねはった。
「いいえ、スポーツについてや」
「どのスポーツ?」
「最後まで聞けって」
割り込まれるのは嫌ですな、ちえみさん。少し怒っていて。
「ごめん」
小夜子さんは謝りはったが、ちえみさんがあれを無視しはった。
「スポーツイベントの話や。東京に『初回全日本少年スポーツ競争大会』というスポーツ大会が開催される。様々な少年のスポーツ大会は既にあるんやが、この大会は国家レベルで開催される。選手たちが全国から来るし、規模と競技はオリンピックレベル」
重要なポイントを良くまとめて、分かりやすく語りはった。
「うわー、すごいな。そんなのはある?」
「驚いたわ。確かにおもろい話やわ」
爽さんと小夜子さんはご存知なかったようやが、うちは知っていた。少し薄笑いをする気になりはった。
「どう、虎子さん?なかなか興味深いネタやろ?特ダネがあるって言ってたが、あれはこれを超えるかね?」
うちに向かってチャレンジしはった。悪くないな、ちえみさん。でもうちの情報はさすがにこれを上回る。
「奇遇やな、話題がピッタリ」
「ピッタリやと?」
「そう。実はこのイベントを知っていた。理由はその特ダネ」
「ホーー...おもろいな。聞かせてくれや」
せーの
「その大会にうちが招待されたの」
ドン
今伝えはったこと、インパクトが即座に見えてきた。
爽さんと小夜子さんは目が丸くて大きくなり、口が大きく開いていた。結構驚いたことを証明する典型的な表情。
ちえみさんは目が同じようになったが、口が違っていた。開いているどころか、唇を隠していた。ポーカーフェイスやん!
「なんやって!?」
「ねー、それほんまかい!?」
早速めっちゃ興味あったことを見せはったな。
「ほんまやで。体操競技するために紹介された。今晩手紙の写真を送ったら信じてくれる?」
そう言えば、最初から写真撮ったら良かった。
「うん」
「すごいわね」
「確かに」
最後のセリフを言ったちえみさんはさっきの顔から回復したらしい。
しかし別に普通の方に戻ったわけでもない。
「フフッ、ウフフ...ヒャハハハハハ!」
もう一度笑い始めはった。
「どうしたの、ちえみさん?」
「ハハッ、あのさー、狂わせるほど完璧で羨ましいやねん!美人で行儀が良くて優しくて、オシャレでモテる、めっちゃ有名で文字通りに女神のようなアイドルの他に、今度はトップアスリートかい?どんだけ栄えるつもりやねん。最早人間離れしてるで」
人間離れって、とてもええ褒め言葉や。美人も、モテるっても、心に届く賛美です。聞くだけでスッキリするわ。
ただ、甘い称賛を当たり前のように見ず、優越感を持たずに生きんとあかん。謙虚であって、人を見下さずに自覚を持つだけで最良。
「ありがとう、褒めてくれて嬉しい。でも、みんなもすごい」
感謝しはった。
「その謙虚っぷりは止めぇ」
なんかちえみさんには文句があった。
「どうかしたの?」
「ほな、もっと自慢せぇ。他の人があんなことが出来てたら、絶対もっと自慢するやろ。虎子さんは自分の凄さが分かってんの?」
「でもそう言っても、偉大に見栄を張るのはカッコ悪いし、そうするように育てられんかった」
意識することが一つ、偉大に宣伝するのも一つ。全然ちゃう。
「なんでそんなに大したこたないみたいに言ってんねん?」
「うちは見栄を張る人間やないので。それに、家族にも、友達にも言ってるねん。どいつにもこいつにも宣伝したら、うちの身元がバレる。だって、篠宮女神って芸名を理由なく使ってへんで」
「まあ、まともなこと言ってるんや。好意持てる」
やっと理解してくれた。
「...いや、ちょっと待って。せやない」
今度はなんですか?
「言いたいことは、もっと盛り上がったらどう?なんか、ものすごいこと出来たからパーティーしよう、お祝いの会をしよう!風に」
ああ、そういうことか。なるほど。
「なんや、飲み物とか食べ物とかおごってもらいたいだけやん」
パーティーするなら自分が払うわけない、笑笑。
「ケチかい?」
良くおちょくるな。
次の瞬間、ベルが鳴った。教室に行かんとあかんかった。
「ごめんな。おごってやる気があったとしても、今日は時間がない」
「ハハハ!ちえみさんのこと良くおちょくったな」
おもろいもん返しはったで、爽さん。
「残念やったな、ちえみさん。でも虎子さん、今週でもご飯食べに行こうか?」
明日はよろしいかな。後で確認する。
「多分行ける。多分」
「ええな。じゃあ、教室へ行くわ」
「うちも。じゃあまたな」
「またな、みんな」
「また、みんな」
ほんでみんな教室へ歩いてはった。
自慢と謙虚と称賛、どれくらいがよろしいかな。どのバランスが最適かな。授業の後、深く考えようか。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
授業が終わった後、朝に送ったメッセージの返信が届いて来たのを見はった。何が書いてあったかな。
読んでみはった。
【こんにちは、野沢さん
まずは、おめでとうございます。そのような大会に招待されることが容易なかったはずです。素晴らしいことで、すごい才能を持っていることを意味するのだ。個人的にも良い成果を願っています。
お仕事の面からは、ダンストレーニングの1時間前にダンススタジオでお話をする。社長もご存知で、リモート参加する。なので間に合ってください。
細かいところはあそこで話す。それまではよろしく。
後、前のエージェンシーの連中とのトラブルは解決した。写真が全部燃やされ、デジタルコピーも残っていないことも確認した。これで安心できる。
よろしく】
ああ、頼もしいわ、中島さん。これからあいつらは一切関わって来ないでしょう。
そして、そのお話が結構重要らしい。まあ当然でしょう、社長も絡むので。
なので遅れて怒られないように運転手さんを呼び、急いでダンススタジオへ運転するように頼みはった。
いつでも頼りになる運転手さんのおかげで時間の問題はなかった。ちえみさん、理理さん、飯泉さんが来る前に来て中島さんと会いはった。
「こんにちは、中島さん」
「こんにちは、野沢さん。どうぞ、会議室へ」
「はい」
中島さんの言うことに従って、会議室に入った。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
「どうぞ、座ってください」
中島さんが会議テーブルの周りにあった椅子を示しはった。
二人とも座りはった。その上、中島さんがノートパソコンを出し、社長をコールしはった。
「もしもし、中島くん」
「おはようございます、社長さん」
「おはようございます、社長さん」
両方とも御三門さんに挨拶しはった。
「あっ、野沢くんもいたんだな。こんにちは。お前たちもそう言うべきだった。もうとっくに午後だからな」
確かに...
「申し訳ございませんでした」
「すみませんでした」
「いいんだよ。12時以前は『おはようございます』。18時以後は『こんばんは』。その間の時間は『こんにちは』か『お疲れ様です』でいい」
なんかしゃーない話やわ、これ。
「かしこまりました」
「かしこまりました」
「さあ、分かったならどうでもいい。早速メインのお話をしようか」
「はい」
「はい」
同調がすごいわ。
「では、始めましょう。野沢くん、中島くんが情報を伝えた。『第一回全日本少年スポーツ競争大会』に招待されたんだな。おめでとう」
「ありがとうございます」
「偉いね。野沢くんこそ本物のマルチタレントだ」
文字通りにはそのようですね。
「あのな、質問がある。アイドルグループにとって最も重要なものはなんですか?」
うちの見解が問われていた。
「チームワークでしょう、社長さん」
「正解!おっしゃる通りだ。メンバーの仲の良さはチームワークの良さとは相関関係に当たる。さあ、もう一つ質問がある。メンバーの仲を悪くする感情がどの感情でしょうか?」
仲を悪くすると言えば、圧倒的に
「嫉妬でしょう、社長さん」
「大正解!全くその通りだ。例えばメンバーの一人が優遇されたり、特別扱いされたら他のメンバーから嫉妬は発生する。実は社会全体もそう。平等のはずの人々は、いつでもみんな上から平等や公平を扱いを受けない。フェアだろうかアンフェアだろうか、より良いあつかいを受ける人間に対しては必ず嫉妬が発生する。それは人類が存在する限り続くもので、変えられないし避けられないことだ」
それはまさか...
「あっ、お前の表情が少し変わった。読んだんだよ」
御三門さん、うちが分かったことを知っていた。
確か、頭をちょっと上に動かし、上半身をちょっと後ろへ傾けて、目がちょっと広くなった。読みやすかったな。
「なら、なんで?」
疑問があった。なぜ営業に支障を与える行動をするのか。
「野沢くんに間もなく言うことは、里野くんと依知川くんも後で中島くんに教えられる。今一緒にいて聞いたら、嫉妬はさらに大きくなるだけだ。なぜなら野沢くんにとんでもない機会を与えるつもりだから」
とんでもないやと?わがままやが、興味を持ってもうた。
でも、残念ながらこれでチームワークと彼女たちとの仲が悪くなってまうかも。
「その機会はなんですか?」
「ソロデビューへの布石。俺はな、あの大会の関係者とは太いパイプがある。よろしければ篠宮女神にオープニングを歌ってもらえる」
オープニングやと?!
ショックレベルのビックリしたわ。うちにほんまにそれを任せるの?
「なんですと!? 社長さん、本当ですか?本当のはずはないんでしょう!」
「いや本当なんだ。今真剣にビジネスの話をしてるんだよ。冗談なんかしない」
「でっ...でも、それはさすがにレベルがっ」
「レベルアップしないと発展もしない。急なレベルアップかもしれないけど、進展のために必要なんだ」
割り込んで黙らせたな、社長さん。
「それに、嬉しくない?歌いたくないのか?」
「歌いたいんですが、仲間と一緒に歌うのはダメですか?」
うちのこのセリフを聞いた社長さん、頭を少し下げて首を横に振りはった。
「野沢くん、まだ分かってないのか?」
何を言いたいんですか、社長さん?
「どういう意味ですか?」
「ほな、普通の歌手なら候補はたくさんいる。でもその大会に参加するアスリートの歌手は篠宮女神ことお前しかいない。だからわざわざお前に歌って欲しいんだよ」
ちょっとだけイライラする声で説教しはった。
「それは分かりますがっ」
「もういい加減にして。お前は彼女たちも組んで欲しいけど、それは無理。みんなが幸せになって欲しいけど、今回の場合は無理。ある時は一人『だけ』が利益を得るんだよ。野沢くん、たまたま自分だけが得するのはいいだろう」
うちは常に出来るだけ多くの人々は幸せになることを願う。最大の幸福を目指す。それは現実的やなくて不可能やって分かる。でもそうなるように努力をし、叱られたのは初めて。
中島さんも「うるさいなぁ」って考えてそうな表情を見せてはった。
「すみませんでした」
「野沢くん、良く聞け。お前の考え方は分かりやすい。でもみんなが全員、いつでも、常に得する楽園みたいな地域や社会はこの世に存在しない。それは人々の知識、能力、才能、得意、機会、運が全部個別で違うから。他人の幸せを考えるのはいいけど、まず自分の幸せで始めたら?」
正論すぎて返事する気になれまへんでした。残念ながら。
なぜならうちはどれほど理想にしがみつくのはええか、知りまへんので。現実は恵まれへん人ほどに厳しい。恵まれているうちはどう対処するか良く分かりまへん。
「社長さんが野沢さんにその機会を与えたのをありがたく思った方が良い。オファーをそのまま受け入れたら仲間たちは幸せになりませんが、自分が幸せになれます。断ったら仲間たちと一緒に不幸せになります」
まあ、そう言うなら選択肢が一つしかない。
「社長さん、私にそんな素晴らしい機会を与えてありがとうございます。ありがたく受け入れます。是非開会式でオープニングを歌いたいのです」
「良く受け入れたな、野沢くん。お前のその選択は正常で決して欲深くない」
あっ!自分だけが得する選択を選んだのは欲深いかが気になりはったが、社長さんが良くその思いを晴らしはった。
「野沢くん、しっかりして頑張れ。お前なら上手く出来る。あまり気にせずに道を進んで、やるべきことをやれ。それだけでいい」
...そうやな。うちだってプロや。このチャンスを絶対に逃しまへん。
「はい。頑張ります」
「よし、決まりだね。1時間以内にも関係者に連絡する。青信号が二日以内に届いて来るだろう」
ノートパソコンのカメラの前でお辞儀をして感謝を伝えはった。
「誠にありがとうございました」
「どういたしまして。では、こっちがそろそろ行くよ。中島くん、説明を頼む」
中島さんは頷いはった。
「かしこまりました」
「じゃあ、グッド・ラック・アンド・ハヴ・ア・ナイス・デイ」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
これでコールが終わった。そして中島さんがノートパソコンを再びバッグに入れた。
「おめでとう。気分はどう?」
「嬉しいです」
嬉しい以外にも気持ちがあるが、余計に喋らなんでもええ気がした。
「野沢さん、やはり彼女たちの反応が気になるよね?」
また簡単に読まれたな。
「そうです。これをきっかけに私への対応が変わるかはすごく気になります」
社長さんはソロデビューを持ち出したのでグループの解散は既に視野にあるようで、これで終わりが早まるかは心配です。3人での活動はとても楽しいし、ずっと終わらんで欲しい。
「大丈夫です。彼女たちは文句あっても社長さんの決断を受け入れないといけない。それに、事情を理解するでしょう」
まあ、事情を理解しても、社長さんに逆らうことが出来んとしても、嫉妬する可能性が残る。
「内心は嫉妬してしまうと思っていませんか?」
「嫉妬の感情はこの業界に不可避なものだ。ですが、重要なのは嫉妬するかどうかではなく、仲間との友情が嫉妬によって潰れないほど強いかは重要だ。その上、彼女たちのプロ意識が高く、チームワークに影響を及ぼすことを許さないはずです」
そうやな...理理さんは知りまへんが、ちえみさんはうちの親友なんや。彼女もうちのために嬉しいでしょう。
うちはそれが分かって頷いはった。
「うん、その通りでしょうね。大丈夫だと信じたい」
「ならいい」
これで他の3人が来るまで待ってはった。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
まずは飯泉さん、それから理理さん、最後にはちえみさんが着いて来た。中島さんがこの3人に状況を詳しく説明しはった。
「...というわけです。では、質問がありますか?」
「社長さんが昨日言ってた次のツアーはどうなります?」
しまった!それを全く考えまへんでした!どうなるかな...
中島さん助けてください!
「大丈夫です。そのまま変更なしに行われる見通しです」
ああ、良かった。弱点かと思ったらそうやなかった。
「分かった」
「では、他にも質問がありますか?」
理理さんとちえみさんは首を横に振りはった。
「いい。ならこれで失礼します。トレーニングは頑張って」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
中島さんが去りながら、うちらはドアへ向いてお辞儀しはった。
去った後は普通の姿勢に戻りはった。
「虎子さん、おめでとう!すごいわぁー。羨ましい~~」
出た出た、『羨ましい』。
声は優しいが、理理さんは明らかにうちがした莫大な得が欲しい。
「ありがとうね。うちでもまだわくわくしていますわ」
「わくわくするんでしょうね。頑張ってくださいね!私は応援します」
「頑張りますわ、理理さん。おおきに」
理理さんに関しては、チームワークと関係に支障が出なさそう。良かった。
「大したもんやなー、虎子さん。今朝にも結構驚かせたが、今もかなりお騒がせしてくれたなぁ」
ちえみさんは何が言いたいかな。
「仕方ないわね。自分もめっちゃ驚いたので。こんなことを予想できるわけがないのでね」
「まあせやろ。あんな大きいもの二つも突然手に入れたら予想も予測も不要やな。ほんまに羨ましいわ」
また出た、あの言葉。
理理さん以上にうちが手に入れたものが欲しい。
「頑張りな。今度は虎子さんの勝ちやが、未来にうちが勝つで。この大会で優勝すればするほど、うちの未来の勝利がうまくなる」
彼女の言葉によると、今現在には問題にならなくても将来激しいライバルになりそう。
その迫って来るライバル関係はまだ友情の範囲内ならええんですが。
「遠い未来を見ているな」
「そんなに遠くないと思うがね」
「二人とも、今は現在をもっと気にしてください。練習が遅れてまうで」
ナイス、飯泉さん。差し当たりはこのが後回しになる。
「理理ちゃん、ちえみちゃん、着替えて来い」
うちが前にもいたので着換え済みや。
「はい、すぐに」
これでこの話は終わった。
二人が着換えに行った後で帰って来た前に飯泉さんはうちにウインクして「おめでとう」と「頑張れ」と言った。めっちゃええ人やわ、好き。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
彼女たちは着換えた後、ダンスを始める準備をしはった。曲は昨日と同じやった。
「さあ、位置に着け」
右側にちえみさん、左側に理理さん、そして中にはうち。
「ほな、曲を流す。ええな」
「はい」
ほんで。
1
動きをもっと身につけはったのでそれに関しては気がなかなか平静です。でも色々他のことを考えてまうのでやっぱり緊張してはる。
2
しかしそれに関わらず完璧なダンスを見せるつもりや。
3
上手く行くと信じはるので行くわ!
『諦めたい?いやダメです、うちがいる限りさせない』
『諦めたい?絶対ダメです、助けを求めれば、ど~うでしょう~?』
『先生がまさか自分、の弟子から~の~、教えが要るの?』
『先生がまさか自分、の教え~を~、そんな風に忘れちゃうの?』
『ほらいい加減、しっかりしないの~かあんた?』
『恋に落ちた、恩人がま~さか~おし~まいに~?』
『諦めたい?いやダメです、うちがいる限りさせない』
『諦めたい?絶対ダメです、助けを求めれば、ど~うでしょう~?』
『口達者のあなた、突然なんで今~、沈黙している?』
『行動の怪物、なんで今この~、優柔不断な姿を』
『目を逸らしながら、うちから隠そう~としているの?』
『悩んでいる、あなたを元気に~取りも~どしたい』
『諦めたい?いやダメです、うちがいる限りさせない』
『諦めたい?絶対ダメです、助けを求めれば、助けるよ~』
『愛している、あなたを落胆させな~い~』
『手を組んで、一緒にもうい~ちど~やってみ~ましょう~』
『諦めたい?いやダメです、うちがいる限りさせない』
『諦めたい?絶対ダメです、助けを求めれば力を貸す』
『諦めたい?その状態なら、うちの手伝いを頼んでくれ』
『諦めるな、お願いします、あなたなら絶対に、助けるよ~』
終了。
ハー、少し疲れてもうた。
いくらアスレティックでも、高度なトレーニングでは疲れる。
次の瞬間飯泉さんが長くパチパチと手を叩きはった。
「素晴らしい!昨日よりもパーフェクトやったで!」
うちの感想もそうやった。
「そうなの?」
と理理さんが聞きはった。
「そうや。理理ちゃんと虎子ちゃんが少し上達したように見えた」
「少しだけ?」
「まあ、もう既にダンスが結構上手なんで上達の余地があまりないんでな」
「へー、そうなのか」
プロの見解なんでうちが信じてはる。
「褒めてありがとう、飯泉さん」
丁寧にお辞儀をしはった。
飯泉さんは微笑んでサムズアップを見せはった。
「そう続けてくれたら完璧」
でしょうね。
「では、早速次のダンスの準備びをしとこ」
はい。昨日社長がやって来たので異例やったが、普通は練習が一つのダンスで終わりまへん。
これでもう数回別の曲のダンストレーニングをしはった。ここから去ったのはその後やった。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
今日も将斗を訪れはった。朝にも彼にスポーツ大会のことについて話すつもりで行きたかったが、歌のことで理由は増えた。
25階へ着いて、ドアのベルを鳴らしはった。
『もしもし、誰ですか?』
「うちです」
「虎子か。いいね!今すぐ開けるよ」
うちの声を聞いて元気になりはった彼がドアを開けてうちを入らせてくれた。
入った瞬間いつも通りに抱きしめた。
「ようこそ。来てくれて嬉しい」
暖かい腕でうちを迎えてくれた。
「ずっと会いたかった、君を」
暑い挨拶、とてもよろしい。
「はい、どうぞ」
暖かい笑顔を見せて呼び入れてくれた。
「おおきに」
入った後、並んで京都の夜景を広い窓から見つめてはった。
見つめながら将斗がうちの肩の周りに腕を回しはった。とても気持ち良かった。
「将斗、君と話したいことがたくさんあるの」
「奇遇だな。俺も同じだ」
ホー...何を話したいかね。
「そして、あの、話しながらケーキを食べようか?」
「ケーキ?」
「街を歩いてて新しいオシャレなケーキ屋を見つけた。窓口で展示されたケーキが美味しそうに見えて試したくなったから買ってみた」
「これもいい偶然です。君に言いたいことにピッタリ合う食べ物です」
「面白い。興味を持ってきた。じゃあ今すぐ食べましょうか」
「はい」
機嫌が上昇した二人が一緒に食堂へ行きはった。
あそこのテーブルに大きくて美味しそうなケーキが置いていた。
「イチゴとチョコレートのケーキです」
うわー、確かに美味しそう!
「先に座ってください。皿と銀食器を持ってくるから」
「うん」
先に座って将斗も座るのを待ってはった。
「ねえ、あの、『初回全日本少年スポーツ競争大会』というスポーツ大会を知っているの?」
「はい、知ってる。親父の会社の子会社がスポンサーの一つ」
さすが超大富豪一家。驚いてもない。
「よし。では、体操競技をするために選手として招待されたか、オープニングを歌いに歌手として招待されたかと言ったらどちらを信じるの?」
「えっマジ!?」
驚きすぎて数秒間静かでした。目が広くなり眉毛が上がった。
彼に答えさせるため自分は何も言いまへんでした。
「...まあ、虎子ならどちらも可能でしょう。でも選ぶなら前者の方かな」
「どちらも本当だと言ったらそれでも信じるの?」
「なっ...」
今度はアングリしはった。一瞬皿も落とすところやったがしっかりしてテーブルへ置いはった。
「...あの、君にはその才能があるから一応信じられるが、それは本当ならものすごい出来事だ。信じるかどうかには悩むんだ」
素直に答えてくれた。可愛い男や。
「なら焦らすのを止めて真相を明かそう。どちらも本当です。その大会に野沢虎子と篠宮女神が登場する」
「もう...君の凄さを言い表す正しい言葉が見当たらない」
驚きの笑顔をして、包丁でケーキを切り始めはった。
「おめでとうよ、虎子!君は最高だ!これを直ちに祝いましょう」
うちと自分に十分の一くらいの切れを渡した。
「ありがとうよ。祝うなら将斗と共に祝いたかった」
「でしょうね。長くて徹底的に祝って楽しもうよ」
円満な笑顔をしてお互いとの時間を楽しく過ごすつもりやった。
「いただきます」
「いただきまっす」
フォーク拾って一口食べてはった。このケーキはほんまに美味しかった。
「美味しい~~」
「好きで良かったね、虎子。いいもの買ったな」
「いいものだよ。全部食べたいほど美味しい。でも残念ながら多くても五分の一くらいしか食べることが出来ない」
「問題ないよ。俺はこのケーキを一日で食べ終わるつもりはなかった。残った分を二日以内に食べ終わるさ」
と笑って理解してくれた。
「さあ、具体的にどういう経緯でしたか教えてくれない?」
うちは喜んでそれをしはった。
「昨日はね、手紙をくれた。その手紙であのスポーツ大会に招待されたと書いてあります。体操競技するために招待されたと書いてあります。しかしなぜ、どうやってうちが見つけられて選ばれたか分かりませんが」
「なるほどね。実はこれについては答えることが出来るかも」
驚きはった。
「本当?」
「俺が知ってるのは、全国のトレーナー、教師などに個別に接近して、スポーツをする若者を全員探し出してた。開催側によるとそれは才能ある者を一人でも逃さないためだった」
「ホー、なるほど。徹底的にやってたな」
「そうだな。君はトーナメントに出る選手団に所属してないよね。こういうチームや団体の構成員だけが調べられたら君は多分呼ばれなかった。そして君の美しい体操が見せられなく、大会自体はつまらなくなってしまったんでしょう」
そうやったか。
「なら、自分はかなりラッキーですね」
「そうね」
お互いの目を見て笑いながらケーキを食べ続けはった。
「で、どうやってオープニングを歌うようになった?」
「社長さんはうちがこの大会に参加しているのでその役に最も適切だのようなことを言って、関係者にこの考えを提案すると言った。アスリートと歌手を兼任させるつもりでそうなるように働きかけると言った」
「ホホー、なるほど。確かにそう考えると君は最も適当だね。そのいいアイデアを評価してる」
「あの、そのアイデアが最初は彼の個人的な考えでして、うちにやって欲しいかと聞きました。それを受け入れるべきかとちょっと気になったが、結局は受け入れた。うちらは合意して、そのアイデアは現実になる見込みです」
「すぐ受け入れなかったの?」
「これについてね、議論になった。君の意見も聞きたい」
ここまでは喜びの雰囲気で語りはったが、今は声と顔が少し真剣になった。
「どんな議論?」
「仲間たち、ちえみさんと理理さんも組んで欲しいと言ったが、社長さんはダメだと断った。絶対ダメだと。理由は彼が言った通り、うちがあの大会に招待されたからこそ適切なので。ちょっと反論しようとしたが、うち一人だけがその恩をありがたく受け入れるべきと、時々一人は得するがその得は他の人と分け合うことが不可能だと説教された。うちはこのチャンスを与えられたことに実に感謝しているし、なぜ彼女たちが同じ利益を得るのは許されないかは分かるが、他人の幸せも考えるだけで叱られた」
話はまだ終わりやなかったが、ちょっと息をついて休みはった。
「うちはね、恵まれている人間です。裕福な家庭で育てられ、才能も美容も、ほとんどの人が欲しがるものがある。それくらいの自覚はある。でもこの恵まれているうちはどこまで恵まれ続けていいかは、やはり分からないのよ。そしてうちがまた得をしたが、その得を分け合いたかった人たちはなんの得もしなかった。うちの理想、夢は出来るだけ多くの人々は幸せになること、つまり人類最大の幸福です。でも既ににめっちゃ恵まれているうちが恩恵と利益を得続けることがその理想に反しているので、うちは偽善者か?と正直悩んでいる」
将斗は手を組みながら真剣な表情で静かにうちの悩み相談を聞き続けはった。
「社長さんの言うことはまだ覚えている。『みんなが全員、いつでも、常に得する楽園みたいな地域や社会はこの世に存在しない。それは人々の知識、能力、才能、得意、機会、運が全部個別で違うから』...それは正しくて現実だと分かっている。でもそれが理解しながらうちの恵まれたところを利用して円満に生きて、その上で全く違う理想を持つことでな...うちがどこかで間違っているのか?」
「...」
話を最後まで聞いてくれた将斗は、ようやく自分の意見を述べるところやった。
「深い話だったね。まず、相談してくれたありがとう」
「いいよ、別に」
「まずは歌の件を話そうか。君の理想の話はもっと複雑だから」
あれの方は比べて簡単でしょう。
「構わないよ」
「じゃあ早速行くよ。これに関して、あの社長は正しい。適切だからこそうたうべきなのは君だけです。恵まれているとは言え、君は実力があるからスカウトされた。恵まれているとしても、彼女たちよりあそこで歌うことに値しているんだ。この恩恵を君が正当にもらった」
そうか。これは一利ある。
でもまだ完全に納得できまへんでした。
「彼女たちが嫉妬する恐れがあるのも述べたが、中島さんはこう言った。『重要なのは嫉妬するかどうかではなく、仲間との友情が嫉妬によって潰れないほど強いかは重要だ』。最初は楽観的な思いをしたが、二人に直接伝えた時、羨ましいと言われ、やはり軽くても嫉妬していると感じた。彼女たちどっちもあの舞台に出たかったと感じて分かった。将斗はどう思うの?」
賢明な答えに期待しはった。
「嫉妬ねぇ...その感情には程度がある。『羨ましいなー』、『こりゃいいなー』、『自分も欲しかったなー』って程度なら大丈夫。誰でもそう思う時がある。しかし根に持つ、恨むタイプの嫉妬ならそれがヤバい。その二人が君を恨み始めたと思ってるの?」
首を横に振りはった。
「いいえ、ちえみさんと理理さんはそんなことしない。そう思って、信じているが、可能性はゼロではない。だってうちは人の内心をとても上手く読めない」
「人間が全員可能性がゼロでないものを心配したら、生きていられないでしょ。リラックスして。落雷や宝くじ当てる可能性のように低いなら考えすぎない方が良い」
楽観的な言い方でうちを気軽にしようとしはったが、完全に落ち着けまへんでした。
「それは分かる。でもやはりうちは最も恐れていることの一つは親しい人間に嫌われること」
「多くの人がそれを恐れている。だが真の家族や友達はそんなことを絶対しない。君にとって、依知川さんと里野さんは真の友達ですか?」
二回頷いはった。
「はい」
「なら無駄なネガティブな考えをしないで。元気であってくれ、虎子」
彼の親切な微笑みは助かりはった。
「...うん。ありがとう、将斗」
「よし、この疑問を解決出来たなら、次の話題に移しましょうか?」
「はい、そうしよう」
「君は偽善者か、間違ってるかと悩んでるって言ったんだな」
「そうです。将斗の意見は?」
「まあ、人は生まれを選べない。恵まれている環境に産まれたのは仕方ない。確かに数十億人が苦しくて、貧しく生きている同時にあんな高尚な理想を持つことが偽善だと思いかねないが、重要なのはこの先」
この先?
「どういう意味ですか?」
「いつかその理想を実現するために努力と貢献したら決して偽善じゃないと思ってる。財産を差し出せとは言わない。お金の使い方を知らない貧乏な人に大金をくれたらろくなことにはならない。だがこれから口だけでなく、行動でその理想を語ったら真の慈善になる。より大きい貢献をすればするほど、それまでどれだけ得しても恩恵を受けてもOKだよ、俺の意見では」
「なるほど。つまりボランティアしてと言っている?」
「まあそんなところだ。裕福な人間が道徳的で真っ当に生きてたらそれが俺にとって真の正義。自分が所有してる資源を世界をより良い場所にするために使う者は俺にとって真のいい人」
「ああそうですね。素敵なことを言ったのね。これでどういうことをすべきかはついに分かった」
「そのネガティブな考えをもうしないってことか?」
うちの悩みはもう大体解消や。これからもっと善良なことをすれば悩む必要は一切ないで。
「そう、そう。君のおかげでね。ありがとう」
「フフ、良かったね」
と笑いはった。
「ところで、前のエージェンシーの奴らの件、どうなった?中島さんから何か聞いたの?」
しまった!この件を完全に忘れてもうた!
多分中島さんが解決してくれたが、あの時確認したら良かった。
「すみません。これについて聞くのを完全に忘れてしまった」
「気にすんな。あいつらは小物だ。ちょっとだけ忘れてもしょうがない」
小物だとしても、うちのキャリアにとって危険やった。実は忘れたらあかんことやな、改めて分かった。
「でも大丈夫、俺は忘れなかった。今日はね、授業が終わったとすぐにあいつらの事務所に向かった。あの堀内さんと話をした。拳でね」
頼もしいと褒めたかったが、暴力を自慢するとはね...
「幸い奴は馬鹿じゃなかった。言われた通りに写真を消した、バックアップも。そうしなかったら俺がもっと恐ろしい制裁を与えてた」
そんな怖くて不愉快なことを聞きたくないと知っているのに...
「将斗」
「彼に精神と体両方をもって鋭い恐怖を思い知らせた。もう二度と俺たちに近づかない。確実に」
「将斗、うちのためにやっていたのは分かっているが、犯罪まで行かないで。彼らより品が万倍いいのに」
「犯罪、ねぇ...」
床を見下ろしながら数秒間何も言わなかった。目が読めないほど深く見えていた。
「実はそれを君のためだけにしなかった。あの写真が俺が油断したから撮られた。俺はもっと周りを注意すべきだった。いい勉強になって、これを絶対に忘れないためにやったんだ。俺が虎子をもっと上手く守りたくて守れるようになるためにやったんだ」
「将斗...」
やっていることが正しくない。それは良く知ってはる。でもこれほど愛されているのも知って、感動せずにはいられなかった。
一人の女としてこの男に恩返ししたかった。
「いつも君を頼りにしている。いつも、いつも...そして、やめたくない」
「安心してください、虎子。いつでも任せていいよ」
また心が将斗に完全に取られた。もう我慢も出来まへんでした。体も心も熱くなって来はった。
「今でもあっちに行こうか」
将斗は薄く微笑んで頷いはった。
「喜んで」
その次、お互いへの愛しい感情を深めはった。
最高の祝いを行った。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
楽しい、気持ちええことはいずれ必ず終わる。変えようがない。家に帰る時間が来てもうた。
また、筒井さんの運転手が将斗の依頼でうちを家まで運転してくれた。
「お父さん、お母さん、ただいまー」
「お帰り、虎子ちゃん」
挨拶して、迎えられた。この後すぐに部屋に行きはった。そこで体操の先生に事情を知らせはった。
ああ、なんという一日やった。喜んだり、悩んだり、悩むの止めたりし、そして未来を楽しみにしはった。人生が変わる一日になった気がしはった。
ええ方向にね、と信じて願ってはる。