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ぼくは信長  作者: ほすてふ


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一揆

 惣村というのは百姓が身を守るために集まり自治を行う地縁的組織である。

 何から身を守るかといえばわかりやすいものは盗賊などの襲ってくる集団、、わかりにくいものでは権力などである。


 利便性を考えれば家は農地ごとにある方が都合がよい。毎日田畑の世話をするのだから最も近いものは農地である方がいいのは当然のことだ。

 しかし盗賊がはびこり悪党が横領し戦乱で焼け出される、そんな時代を経ることで、まずは命を守るために集まって協力するという考えに至るのは自然な話だろう。利便性を優先した結果命を落としていては本末転倒も甚だしい。


 集まった結果村落ができる。

 外敵に対しまとまって当たり、内部での諍いを治めるための決まり事と相談のための寄り合いを構成する。

 つまり政治である。

 やっていることは規模こそ違えど、武家領主などと同じことだ。実際、惣村から地侍が生まれることもよくある。

 朝廷や幕府のまつりごとが百姓にまで届いていなかった結果、百姓が自らまつりごとを始めたのだった。


 そして身を守るために、構成員に対して害を与えた者に対する復讐や、水利権のために他の村落を攻撃したり、近隣の別の惣村と一揆してより大きな相手と争う、さらには領主と交渉して年貢の聴衆を惣村でまとめて請け負うなど硬軟織り交ぜた手段を使う。

 市に買い出しに出た先で村のものが殺されたので復讐のためにあらゆる伝と実力を行使して村のものを殺した武士を殺した、なんて話もある。

 つまり外交である。

 やっていることは武士と変わらない。いや、武士を参考にしている面も大きいだろうが。



 彼らは往々にして協力するために寺社などを中心として起請文を記す。

 神や仏と約束してお互い裏切らないことを誓うのだ。

 身内で結束することで閉鎖的になる。

 自分たちの価値観が正しいと思い込む。他の価値観を得られないからだ。

 盲目的になるとも言い換えられる。



 話を続ける。

 本願寺派の一揆では、従わなければ破門としたうえで、信長は仏敵であるとし、さらに進んで死ねば極楽に行ける、退けば無間地獄におちると煽っている。


 そしてそうやって煽られているのは惣村の百姓であった。


 閉鎖的で盲目的になっている惣村に、坊主という信用されやすい立場にいる者が入り込み、教化する。

 はじめは気にしない者がいたとしても、共に行動する者がすすめてくればそのうちに染まる。

 そしてその教えが惣村の中心になってしまうのだ。

 盲目的で価値観が偏りがちの集団の考えを支配してしまうのである。

 その段階で従わなければ破門と言われてしまえばどうなるだろうか。


 信仰が厚いものはそんな脅しなど必要なく従うだろう。

 そうでもないものは?

 惣村からつまはじきにされることを恐れ従うのだ。

 そして惣村が染まり、さらには一揆した別の惣村もまた同じように従っていることを見ればみんなそうなのだ、当たり前なのだという思いが強くなる。


 こうして死を恐れない百姓兵が出来上がるのだ。

 彼らは仏敵信長、つまりぼくを滅ぼすまで命を懸ける。

 一揆衆が異様にしぶといのはこういった仕掛けがあったのだった。


 この仕組みに思い至った時、ぼくは吐き気すら覚えた。

 ぼくは仏敵と呼ばれたが、ここまで邪悪に徹することができる奴らのほうがよほど非道ではないか。


 こうなったからには、もはや是非はない。

 こちらがそう思わずとも、向こうがそう信じこんでいるのならば、不倶戴天の関係である。


 夢破れた今、ぼくが滅んでもいいかも、と魔が差したことはあるが。

 結果起きることを想像すると、それは最悪の選択肢である。


 坊主に先導された百姓の手で、天下を統治する武士が討たれるということ。そんな実績を積ませてしまうことになる。

 そうなれば武家の権威は失われ、百姓が武士の争いに絡んでくるだろう。そうなればこの日本は今以上の地獄となる。

 今の世をよくしようというのではなく、死後極楽に行くために他者を滅ぼそうという論理で動く勢力が台頭するのだ。世の中の秩序は悪化にしか向かうまい。


 本願寺派の一揆はその先駆けである。


 そんな未来を迎えることを、ぼくは認めることができない。

 かつて目指したものの真逆の世界の到来を自分の死をきっかけに引き起こすことは。

 あまり腑抜けているわけにはいかないようだ。

 出来ることをやっていこう。

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