第一話 老婆と青年
短編とは、だいぶ話が変わりました。
でも、主人公の生い立ちだけ、そのままです。
恋愛物を書くつもりはなかったのですが、恋愛物になりました。
老婆の切ない乙女心を感じてくだされば、幸いです。
雨が降ったばかりの石畳の上を、子供達が無邪気に走り回っていく。
その声に、怯える貧しい身なりの老婆が一人、道の端を突然の雨でびしょ濡れになったまま、濡れたパンを抱えて、古いレンガ作りのアパートへ、静かに入っていった。
老婆は、小さな我が家にたどり着くと、濡れた暗い色のローブを脱いで、暖炉の前で冷たくなった手を、暖炉で暖めた。
老婆は、子供が苦手だった。
小さい頃、友達が出来なくて、いじめられてから。
老婆には、何故か、人に嫌われる習性があった。
老婆は、赤ん坊の頃に高熱を出したせいで、ひきつけを起こし、人の感情を理解出来なくなっていた。
特に、怒りの感情を感じとる事が苦手で、人からは、性格の悪い人間だと、すぐに誤解されて、人でなしだと嫌われるばかりの人生を送ってきた。
老婆に、悪気はなかった。
しかし、老婆は、自分が自閉症だという、発達障害を患っている事など、微塵も知らなかった。
この時代、まだ、当時の医者の中にも、自閉症などという言葉は知られていなかったからだ。
老婆は、願った。
いつか、友達が出来ますように。
しかし、もう、老婆には、高齢で、後がなかった。
なら、せめて、死ぬときまで、隣に居てくれる誰かが欲しい。
老婆は、そう願っていた。
「あ、すみません」
「とんでもない。ぶつかったのは私の方です、すみませんでした」
老婆から、よろめいて道端の人に少しぶつかってしまったのに、その青年は、自ら謝った。
青年は、近所に住む独身の医者だった。
「熱があるみたいですね……。荷物、持ちましょうか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
すると、老婆はまた、よろめいてしまった。
「ご自宅はどちらですか?お送りします」
「……すみません」
結局、老婆は、青年に自宅まで付き添って貰うことになった。
老婆は、恥ずかしかった。
こんなみすぼらしい身なりの自分に、こんな立派そうな青年に付き添ってもらって。
嬉しさや安心感より、老婆は、誠実な優しい青年に、恐れ多いという気持ちをいっぱい、胸に抱えていた。
何か、お礼をしなきゃ。
しかし、老婆は働けないので、家は貧しく、持って帰ってもらえるようなものがなかった。
「すみません、お礼をしたかったのだけれど、私は働けなくて、お礼に差し上げられる物がございません。申し訳ありません」
老婆は、青年に申し訳なさそうに謝った。
「とんでもない。また、何か困ったら、呼んで下さい。僕は、この町のすぐそばで、見習いの医者をしています、アーサー・アレンと言います。薬を持ってきますので、待っていて下さい。すぐにお持ちします」
老婆は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「お気持ちだけで結構です。お薬を頂いても、料金が払えないので……すみません」
「お金は結構です。僕の患者さんの一人になって下されば、僕の勉強にもなりますし」
「何から何まで、本当に恐れ入ります」
「じゃあ、僕は一旦、僕の勤めている病院へ行ってきますね」
「本当に、ありがとうございます」
「いえ」
老婆は、こんなことになるなんて、思ってもみなかった。
なんて、キラキラした、立派な青年。
老婆が若ければ、きっと、惚れていただろう。
「あぁ、神様。私なんかのために、あんなに心優しい青年と出会わせて下さり、誠に、ありがとうございます」
老婆は、初めて神に感謝した。
青年は、薬と食べ物を持ってきてくれた。
まるで、孫と祖母の様な歳の離れた二人だったが、青年はまるで頼り甲斐のある立派な一人前の男性で、老婆は何も出ない子供のようだった。
「すみません、本当にありがとうございます」
「薬、ちゃんと飲んでくださいね。では、僕はこれで」
テーブルの上に置かれた久しぶりのリンゴと、ミルクに、ハム。
老婆は、すぐにそれを平らげてしまった。
でも、どうやったらお礼が出来るかを、ずっと考えていた。
老婆は、今年で70歳だったが、思いきって、働こうと決めた。
青年に、どうしてもお礼がしたかったから。
でも、すぐに人間関係でトラブルを起こす老婆は、働くのが怖かった。
また、人から悪魔のように嫌われて、いじめられたら怖い。
老婆を不幸にしていたのは、言葉だった。
老婆は、上手くコミュニケーションが取れずに、言葉でいつも人から誤解を受けていた。
友達になりたくて、相手を誉めてみても、バカにされたと怒られたり、話が出来たのが嬉しくて微笑んだら、バカにしてると怒られたり……
とにかく、何をしても、何を言っても、相手を怒らせてしまうので、老婆は、人間が苦手だった。
人が好きなのに、人から嫌われるのが嫌で、恐ろしくて。
老婆は、耳も遠くて、目も悪かったので、更に、お互いのコミュニケーションは、上手くいかなかった。
しかし、この時代、コンタクトレンズや補聴器はなかった。
メガネも高価で、老婆にはとても買えなかった。
コンコン。
「フローレンスさん。こんにちは。その後、どうですか?」
青年は、それから、何度か老婆の家に訪ねて来てくれた。
「ありがとう、アレンさん。お陰でもう、すっかり元気になって、ついさっき、役場まで行ってきた所なのよ」
「役場にですか?」
「働こうと思って、仕事を探しに行ってたの」
「何か、急にお金が必要になったんですか?」
「いえいえ、そうじゃなくて、私は貧しいながらも、国から年金がもらえているから、生活は出来るんたけれど、どうしても、働きたい理由が出来ちゃって」
「それは、何ですか?」
「どうしても、アレンさんに、いつかお礼がしたくて……。少しでも良いから、働きたくて、仕事を探してたの。でも、70歳になる老婆をどこも雇ってくれる所は無くて……」
「……そうでしたか」
青年は、しばらく考えた。
「なら、フローレンスさんに、仕事があります」
「え?何?」
青年が教えてくれたのは、病院で出た遺体を洗って、引き渡すまでの間、遺体を預かる仕事だった。
「ご遺体を触るのは、平気ですか?」
「もちろん。生きてる人間とは、なかなかわかり合えないけど、死体なら平気だわ。私を嫌ったりしないもの」
「なら、良かった」
青年は、青年が働く病院の住所を書いた紙を渡し、その日は帰って行った。
まさか、青年が仕事を紹介してくれるだなんて、老婆は思わなかった。
でも、老婆は、青年の役に立てるなら、それだけで嬉しかった。
三日後。
「ここが、アレンさんの言ってた病院……」
そこは、教会と孤児院と病院が一緒になった古くから町にある建造物だった。
青年は、そこの孤児院の出身で、大人になって、その病院兼教会で働くようになっていた。
「フローレンスさん。よく来てくれましたね!」
「アレンさん。今日から、よろしくお願い致します」
「いえいえ、こちらこそ。じゃあ、案内しますね」
中に入ると、白衣を着た医者や看護師がいた。
神父やシスターもいた。
そして、孤児達も。
「おばちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
ここにいる子供達は、老婆は怖くなくてホッとした。
中は、とても優しい雰囲気に溢れていて、まるで、青年の心の中に入ったみたいな気持ちに老婆はなった。
そして、老婆は、一人の青年を紹介された。
「こちらが、棺職人のジョージ・ホワードさんです」
「はじめまして、フローレンスさん」
「はじめまして、ホワードさん」
老婆は、また、一人の立派なそうな青年に出会えて、恐れ多い気持ちになった。
ホワードは、アレンより背が高い、ホワードより少し年上の青年に見えた。
「ジョージは僕の幼なじみで、同じここの孤児院出身です」
「そうだったんですね。よろしくお願いします。ホワードさん」
「こちらこそ」
ホワードは、老婆の洗った死体を棺に納めるまでが仕事らしい。
後は、葬儀の時に、棺を入れる穴を掘るのも、ホワードの仕事だった。
老婆の仕事は、遺体を洗って、綺麗な服を着せる所まで。
時に髭剃りや、お化粧もしないといけないらしい。
「丁度、前、仕事をしてくれていた女性清掃員のホールさんが亡くなったばかりだったので、助かります。墓地は、普通の方はそれぞれの場所の墓地に。身寄りのない方は、教会の地下の共同墓地へ埋葬されます」
身寄りの無い人達────。
老婆は思った。
自分も死んだら、きっと、そういう場所に引き取られるんだと。
老婆は、地下の共同墓地に、心が惹かれた。
一人目の遺体は、病気で亡くなった若い女性だった。
度重なる手術の痕。
ガリガリに痩せた体。
最後位は美しくしてあげようと、まるで、お人形のように、大切に着飾らせた。
その遺体は、亡くなって三日でお葬式が行われ、病院からいなくなった。
老婆は、その見送った遺体を、いつまでも、愛おしく思った。
二人目の遺体は、交通事故で亡くなった少年の遺体だった。
首の骨が折れていたので、中々洗うのが難しかったが、綺麗に洗って、服を着せ、その時初めて、エンバーミングという言葉を知った。
アリス・クルスという女性のエンバーマーがやって来て、その亡骸を引き取りにやって来た。
何でも、両親がそれを望んだらしい。
エンバーミングとは、死体を腐らないように防腐処理する事だ。
アリスは、老婆の働いている病院にはいない、外部からやってきた女性だった。
アリスとジョージは、知り合いだった。
たまに、仕事で会うらしい。
三体目の遺体は、殺された男性の遺体だった。
バラバラにされた体を包帯で縛って、一つに繋げた。
葬儀は四日後に行われた。
老婆は、仕事が一段落して、病院の屋上にいた。
屋上からは、イギリスの町が見渡せた。
そこへ、ジョージがやって来る。
「おっと、珍しく休憩かい?」
「ホワードさんでしたか……。はい。ちょっと、町が見渡したくて……」
「何かあったのかい?」
「いえ。ただ、ご遺体がすぐいなくなってしまうのが、淋しくて……」
「フローレンスさんは、変わってるね。人の死体なんて、普通は嫌がるのに」
「ご遺体を見ると、私はホッとします。みんな、死に顔だけは、安らかだから。どんなに苦しんだ人でも……」
「そうだな」
「まるで、眠っているみたい。今にも起きそうな。私もいつか、あんな風に死ねるかしら?」
「どうしたんだい、急に」
「いえ、何でもありません。すみません。変なこと言って」
「いや」
「私の棺もいつか、ホワードさんが作ってくれるのかしら?」
「フローレンスさん……」
「あ、ごめんなさい。私ったら、また……」
そこに、風が一つ、ビューッと通り過ぎた。
「ここで働かせてもらうようになってから、まだ、共同墓地に入る人は、出てきてませんね」
「行ってみるかい?地下の共同墓地に」
「良いんですか?!」
老婆は、嬉しそうに目を輝かせた。
「もちろん」
コツコツコツコツ。
真っ暗な地下へと続く階段。
昔作られた墓地で、電気が通っていない。
懐中電灯とランタンを持って、二人で階段を降りていく。
地下は、天上の高い広い石で出来た空間だった。
墓地は、教会の地下だけではなく、町中の地下にまで延びていた。
まるで、地下は迷路。
一回迷ったら、二度と出られないだろう。
「まさか、こんなに広かったなんて……」
老婆は、驚きを隠せなかった。
「怖くないのかい?」
「少し……」
こんな真っ暗な場所に、眠らされるなんて、少し怖いし、淋しい。
老婆は、ふと、そう思った。
でも、こんなに暗い場所だからこそ、深く静かに眠れるのかもされないとも思った。
「俺は、初めてここに入った時、こんな仕事、二度としたくないと思ったものだよ」
「最初は、みんなそうなのかもしれないわね」
最初にこの墓地を掘った人達は、どんな気持ちでここを作ったのだろう。
老婆は、ここが作られたばかりの頃に、思いを馳せた。
ガタガタ。
すると、暗闇の中、大きな物音がした。
「誰だ!」
明かりに照らしてみると、目の前には、数人の男達がいた。
「久しぶりだな。棺職人、ジョージ」
「その声は、オリバー?!」
暗闇の中で、再会したらしいジョージの知り合い、オリバー。
オリバーは、地下墓地に、車で入り込み、荷台には複数の棺が運び出されようとしていた。
「ここで、何をしている!!関係者以外立ち入り禁止だぞ!!」
ジョージは、久しぶりにオリバーを見た時、直感した。
オリバーは、昔、猫や犬の死体を使って、オモチャを作っていた事があった。
(まさか、次は人間で……)
「ここを逃げたとしても、通報させてもらう!」
「だと思った。やれ!!」
オリバーの後ろに控えていたヤンキー共が、剣や銃を使い、襲いかかってくる。
車のライトだけが、頼りだが、視界はその他、暗闇に遮られたままだ。
ライトに当たれば、銃弾が飛んでくる。
「キャア!!」
「フローレンスさん!!」
(仕方ない……)
ジョージは、意を決して、暗闇の中で、秘かにどこからともなく、大きな鎌を出現させた。
「ホワードさん?!」
その大きな鎌で、野党共を刈っていくと、男達の魂がジョージの元に集まってきた。
「やはり、お前は死神だったのか、ジョージ!!」
そう言いながら、オリバーは車のハンドルをさばき、勢い良く一人で逃げて行った。
棺が一つだけ落ちていた。
中には、やはり、割りと新しい死体が入っていた。
「ホワードさん……」
見てしまったジョージの秘密に、ジョージもバツが悪そうしていた。
仕方無く、ジョージが倒した男達の体を、地下墓地の石畳の上に並べる。
全部で五つ。
そして、ジョージの手元には、光る魂が五つあった。
「寿命が来るまでの魂を、死神の鎌で刈っても、ただ、体は仮死状態になるだけで、死なない。ここで、魂を戻しても、また、オリバーの仲間だ、悪さをするに違いない」
「でも、一人、生き返らせてみて、話を聞けるかも……。もちろん。手足を縛ってからですけど……」
「まずは、クラーク神父に報告だな」
「え?」
「地下墓地には、様々な入り口がある。どこから入ったのか、突き止めないと……。それに、こんなチンピラ共が、脅した所で、居場所を吐くとも思えない」
「この状態を、どう説明する気ですか?ホワードさん」
「それは心配ご無用だ」
教会に戻ると、ジョージは、老婆を連れて、神父の執務室へ向かった。
コンコン。
「失礼します」
中へ入ると、白い服装に身を包んだ、美しい神父がそこに座っていた。
「どうしたんだい、ジョージ」
「今、少々、お時間、よろしいでしょうか?神父」
「もちろんだが……。二人の表情から察するに、何かあったようだね」
「はい」
ジョージは、包み隠さず、全てクラーク神父に地下墓地での事を告げた。
「そうか……」
神父は、ジョージが死神だったことに、驚きもしなかった。
「それで、五人の魂は?」
「この瓶の中に、全部入れてあります」
「それは、私が預かろう」
「はい」
ジョージが、魂の入った瓶を神父へ渡した。
すると、神父は、ジョージがやった時と同じように、その瓶を手の中へ消してしまった。
すると、その瞬間だけ、老婆には、神父の背中に白い翼と頭の上に金環が見えた。
それを隠さないで見せたのだろう、神父は老婆を見て、優しく微笑んだ。
「ご覧の通り、神父様は、天使様であらせられます。フローレンス、自己紹介を」
老婆は、促されるままに、慌てて自己紹介をした。
「今日から教会で、清掃員として働いているジャスミン・フローレンスと申します。近くに住んでおりまして、そのご縁で、見習い医者のアーサー・アレンさんにここでの仕事を紹介して頂きました。どうぞ、よろしくお願い申し上げます!」
「話は、アーサーから聞いているよ。安心したまえ」
「恐れ入ります」
「私は、ここで、神父を長年している、イーサン・クラークです。もし、ここで働いている時に、妙な出来事に遭遇したら、私やジョージに相談して下さい」
「承知いたしました」
「────それで、これからのオリバーの件は、どうなさいますか?神父」
「そのオリバーという輩、ジョージの幼なじみなんですか?」
「はい」
「なら、自宅のある場所もわかりますよね?」
「おそらく」
「では、これから、ジョージとジャスミンに、オリバーの捕縛を命じる」
「は!」
「かしこまりました!」
老婆は、清掃員としての、予想外の仕事に、驚きを隠せなかった。
時間はすっかり夜になっていた。
ジョージと老婆は、軽く食事を済ませて、オリバー捕縛へ向かった。
「そのままじゃ、フローレンスさんは動きにくそうだね。じゃあ」
夜空の星の下、空中を二人で飛んでいるだけでも老婆は驚きなのに、今度はジョージが、老婆に何やら呪文を唱えた。
「わ!」
すると、老婆は、何と20歳の時の姿になった。
「これから、戦闘が始まるかもしれないから、おまけだよ。ただし、朝になったら、魔法は解けるからね?」
「はい……」
「これから、ジャスミンって呼んで良い?フローレンスさん!」
「ええ、はい」
「わお!ジャスミン、やっぱり表を上げると可愛い!さ、頑張って、オリバーを捕まえようね!」
「はい……ホワードさん」
「俺の事も、ジョージでいいよ、ジャスミン」
「わかりました。ジョージさん」
「よし、じゃあ、早速、あの家だ!!」
二人は、イギリスの町を見下ろしながら、その町の東側にあったオリバーの家らしき建物の側に、降りていった。
四階建ての大きな屋敷が、そこにはあった。
屋敷というより、城に近い。
「何回言えば良いんだ、フレイヤ!お前の作った不味い飯など要らない!」
「そんな、お坊っちゃま。きちんとお食事を取らないと、お体に差し障ります」
「ほっとけ!」
バタン……。
そこへ、案内されたジョージとジャスミンが、やって来た。
「はじめまして。ホワイトエンブレム教会から参りました。地下墓地の管理を任されている、ジョージ・ホワードと、ジャスミン・フローレスと申します。実は、今日、許可無く、地下墓地に立ち入った件で、オリバー・モリスさんの元へ参りました」
「まぁ、坊っちゃまが、教会の地下墓地へ?!なんて事……!」
「まだ、警察には話は通してありません。会わせて頂けますか?」
「はい……。でも……」
部屋の中からは、怒号と物を投げる音が聞こえてくる。
「お構い無く。では、失礼いたします」
ガチャ。
二人が部屋に入ると、中には、オリバーとオリバーの彼女、デイジー・リードがいた。
「夜遅くに失礼致します」
「ジョージ!と、……あの時の老婆か?!お前、老婆を娘にする事も出きるんだな!」
「オリバー・モリス。勝手に教会の地下墓地に侵入した件で、話がある。教会まで、ご同行願おうか」
「警察でもあるまいし、お前の言うことに従う義理はない!」
「お前が敵に回したのは、警察より厄介な存在だ」
オリバーは、近くにあった銃で、なんと、彼女を人質に、部屋の外に出ることを要求してきた。
「人質を離せ、オリバー」
「早く出ていけ、ジョージ!俺の実験の邪魔はさせない!」
「キャア!」
人質にされたデイジーが、悲鳴を上げる。
すると、それを合図にするかのように、ドアが全部、一斉に開いた。
「待ってたぜ、ジョージ」
ジョージの昔の悪友たちが、一斉に屋敷から出てきた。
「すみません、ホワード様!フローレンス様!」
メイドのフレイヤまで、人質にして、ジョージとジャスミンは、沢山の町のチンピラに囲まれた。
「いつから、こんな輩とこんな付き合いを……」
「お前も知ってんじゃねえか!小さい頃からだよ!!」
屋敷中は、たった二人を追い詰める死の鬼ごっこが始まった。
「相手は死神だ!容赦は要らねえ!」
「了解!」
フレイヤとデイジー以外の屋敷中の人間が、全員、ジョージとジャスミンに襲いかかってくる。
ジョージは、早速、死神の鎌を取り出した。
「その鎌を手に入れろ!死神の鎌だ!」
どこからともなく、重しのついた鎖が飛んできて、ジョージの両手両足に絡み付く。
「わ!」
そして、それを男達が力付くで引っ張っていく。
四肢をそのまま引きちぎる気だ。
「ぐわ!」
「ジョージさん!」
ジャスミンが機転をきかせて、ジョージの鎌で鎖を斬る。
シャキーン、シャキーン。
「サンキュー、ジャスミン。今度は、反撃だ!」
ジャスミンは、初めて扱う銃で、男達を撃った。
パンパンパン!
何せ、さっき渡されたばかりの銃は、中々狙いが定まらない。
しかし、その中の一発が、男に当たった時、魂が体から出てきた。
「なんじゃ、そりゃ」
ジャスミンは、その魂を瓶の中に詰めて、次々に男達の魂を手に入れた。
ジョージも、負けてはおらず、フレイヤとデイジー以外の男達全ての魂を手に入れた。
「クソ……」
オリバーも、最後に魂を抜かれ、ジョージとジャスミンそれぞれの二つの瓶で、100個以上の魂が集まった。
デイジーは、腰が抜けて、その場から床に崩れ落ちた。
「終わったみたいね」
そこにやって来たのは、前、エンバーミングでお世話になった、アリス・クルスだった。
箒に乗ってやって来た白い軍服のような服を着たアリスは、何かの証明書らしきものをフレイヤに見せ、こう言った。
「イギリスの生死の治安を守る、白章刑軍だ。オリバー・モリスとその仲間達の魂を、死体窃盗の件で、寿命まで預かる事になった。この家は、数年前に両親がいなくなっているので、代わりにメイドのフレイヤ・グリーン、これにサインをして頂く」
「はい……」
フレイヤは、言われるがまま、それにサインをした。
「確かに……」
アリス・クルスは、その証明書を持って、夜空に消えていった。
「あの……、白章刑軍って……?」
ジョージは、微笑みながら言った。
「言っただろう?イギリスの生死の治安を守るのが、白章刑軍の仕事さ」
まさか、ただの教会の清掃員になるだけかと思いきや、魂の抜ける銃を渡され、白章刑軍という組織に入らされるだなんて……、ジャスミンは、夢にも思わなかった。
朝になると、ジャスミンは、老婆の姿に戻っていた。
「あの魔法は、逮捕した魂から、若さを抽出して唱える魔法なんだ。白章刑軍に許された、力の一つだ。気にしなくて良い。任務の時には、必ずかけてやるから。普段は、いつも通り暮らしてくれれば良い」
ジョージは、老婆にそう説明した。
そこに、アレンがやって来る。
「フローレンスさんも、ジョージも、どこへ行ってたんですか??昨日の夕食、ちゃんと取らずに出掛けたでしょ?夕食の時間は、もう、とっくに過ぎてるんですよ?」
「すみません」
「夕食を取って帰るのは、病院の決まりですよ!さ、もう、朝ですけど、暖めて置きましたから、早く食べて下さい」
その様子から、アレンは、ジョージやジャスミン、神父様の仕事を知らないようだった。
「どうして、アレンさんには、白章刑軍の事、秘密なんですか?」
老婆は、淋しそうにジョージに尋ねた。
「アーサーの親は、病気で死んだんだ。だから、アーサーは医者を目指している。でも、俺は死神だから、人がいつ死ぬのか、わかる。それなのに、一生懸命、医者として、患者を助けようとしているアーサーに、話が通じると思うか?」
「……」
「アーサーの事が好きでも、白章刑軍の事は秘密だぞ、ジャスミン。もちろん、若返った姿で会うことも……」
「ええ。わかってます。わかっていますとも……」
老婆は、自宅へ帰ると、鏡に写る老婆の姿の自分を見つめた。
第一話、読んでくださり、ありがとうございました。
評価やレビュー、待っております。
よろしくお願い申し上げます。
≪登場人物≫
◆ジャスミン・フローレンス(主人公)
70歳の老婆。病院で清掃員として働いている。
遺体が出た時だけ、納棺師(遺体を洗って飾る)の仕事をする。
◆アーサー・アレン
見習いの医者の青年。
元孤児院育ちで、病院で研修医として働いている。
◆ジョージ・ホワード
棺職人。正体は死神。
アーサーと同じ孤児院出身。
◆ローズ・ホール
高齢の女性清掃員。すでに死去。
元ホワイトエンブレム教会の一員。
◆アリス・クルス
エンバーマー(死体を腐らないように防腐処理する仕事をする人)。
正体は、魔女。白章刑軍(天界の警察)の一員。
◆オリバー・モリス
地下墓地荒らしの犯人。
金持ちの息子。ジョージの幼なじみ。
◆イーサン・クラーク
ホワイトエンブレム教会の神父。
正体は天使。美しい青年の姿をしている。
◆デイジー・リード
オリバーの女。
◆フレイヤ・グリーン
モリス家のメイド。