プロローグ.「先輩との出会い」
桜舞い散るこの季節。新しい学校に入学の季節。そうつまり、出会いの季節の───春!
俺はこの季節が大っ嫌いだ!なぜかと聞かれると理由は腐るほど出てくる。
まずは花粉、俺がこの世で一番嫌いなのがこいつだ。重度な花粉症なためマスクは不可避である。そして目もとてつもなくかゆくなり目があけにくくなる。するとどうだろう、元から目付きが悪かったのが余計ひどくなり、睨んでいるつもりは無いのにいつも避けられる。
そして入学。俺はコミュ障で自分から喋りかけるなんてできるはずがない。ましてやそんな奴に友達もできるわけがない。しかし、周りはどんどん仲良くなりグループができていく。結局孤立してしまうのは目に見えている。
さて、この2つが合わさるとどうなると思うか。もしかしたら1人でいるかわいそうな人に声をかけようと思っている優しい人がいるかもしれない。もしそうやって喋りかけてくれたならば、俺は喜んで出迎える。だがしかし、花粉症でマスクをして唯一見えてる目が充血して睨んでいるような奴に誰が喋りかけに行くと思うか。いや喋りかけないだろう。
あぁ……俺の高校生活終わったな………。
そうやって落ち込んだ気分のまましっかりとマスクを装着し、今日の入学式のため家に一番近い高校───桜ノ宮高校へ歩いて向かう。
「ん…?」
重たい荷物を運んでいる小さなおばあさんを見つけた。
「あの、大丈夫ですか?手伝いますよ」
声をかけるとおばあさんはとても嬉しそうな顔をしてこっちを見た。
「あらあら、ありがとうねぇお兄ちゃん。私の家すぐそこなんだけど…よかったら持ってくれるかい?」
「えぇ、もちろんですよ」
そう言って俺は微笑んだ。
少しおばあさんと喋りながら歩いた。トメ子という名前だそうだ。
俺の出会いの季節───運命の相手はトメさんだったのかもしれない(泣)。
「わざわざここまでありがとうね、また遊びにおいでよ」
「いえいえ、気にしないでください」
時間を見ると、時刻は8時10分になっていた。まずい、集合時刻は20分だったはずだ。走らないと間に合わない───!
「じゃ、トメさん!そろそろ学校行ってきます!では!」
そしてトメさんの家を飛び出し猛ダッシュで学校へ向かった。
初日から遅刻とかしたらただでさえ印象悪いのがもっと悪くなってしまうぞ…!!!
それだけは駄目だと思い必死で走った。
残り5分───校門が見えてきた。
「お、なんとか間に合いそうだ!」
が、校門前に着くと門が閉まっていた。なぜだ…っ!
「そこの君!こっちおいで!」
後ろから来た長い黒髪の美人な女子生徒に声をかけられた。
今は時間がない、とにかくついていくことにした。
「君、新入生だよね?時間ヤバくないの?」
「いや、これだいぶヤバいっすよね?」
「だよねー!」
といい、走りながらけらけらとその女子生徒は笑った。
「あの、あなたは先輩…ですよね?どこに向かってるんですか?」
「そう、2年だよ!今はねー、遅刻して門が閉められてるときに入る抜け穴に向かってるよ!」
そう言って着いたのはフェンスの抜け穴だった。
ここがどこのフェンスなのかは全く分からないが、とりあえず学校の敷地内に入れることは確かなようだった。
森のような、いかにも学校の裏って感じのところだった。
「う……っ!」
どうやらヒノキが大量にあるようだ。くしゃみと目のかゆみが止まらない。
「君、花粉症なの?」
「あ、はい……」
「この学校花粉症にはだいぶきついよーマスクしてる人ばっかりだよぉ」
と言いながらこの先輩はまたけらけらと笑った。
「あっ、そろそろ教室行きます!」
「お、行ってらっしゃい!」
裏庭のようなところの隅の方のフェンスだったようで、校舎は森を少し抜けるとすぐ目の前にあった。
全速で1段飛ばしながら階段を駆け抜けていく。
そして最上階につき、ようやく自分のクラスにたどり着く。するとちょうどチャイムが鳴り響いた。
無事にちゃんと入学式には出席できた。遅刻もせず誰にも気にされなかった。
あの優しい先輩にはまたちゃんとお礼をしないと。
「あ…名前聞いてない」
しくじった、普通ならあそこで名前聞くのが普通の人なんだろうな…。
でもまぁ同じ学校だし、普通に生活してたらどっかで会えるだろう。
『続いて、生徒代表による、新入生を迎える言葉です』
長々とした入学式はまだ続く。隣同士が知り合いだとか、元同じ中学だとかで喋っている生徒もちらほらといる。しかし俺は引っ越してきた身で、知り合いなんて誰一人としていない。つまりぼっちなのである。
そんなこと考えている間に生徒代表の人がステージ上に出てきた。
「ん……?」
とても、見覚えがあった。ステージ上を堂々と歩き、光を浴び、きれいな黒髪がキラキラと光る。
「えー、皆さんご入学おめでとうございます。この桜舞う季節、皆さんの素敵な出会いがあり、ここから晴れやかな高校生活が始まることをお祈りしています。そして───」
そのまましばらくあの先輩は喋り続けた。ぼーっと眺めていて何も話が頭に入ってこなかった。
気づくと話はどうやら終盤になっていたようだ。
「それでは皆さん、楽しい高校生活を。生徒代表2年4組、藤原綾香」
どうやら名前が判明したようだった。