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66 行方不明

 俺はあの後アリスに連れられて、近くの喫茶に寄ることになった。

 そして、店員に案内されるまま入り口に最も近い席に座り、研究用のコートを脱いでアリスの向かい側に座る。

 そのまま紅茶を店員に頼むと、俺は今一番聞きたかった質問を口にした。


「俺との約束は、どうしたんですか?」

「……ごめん」

「『ごめん』じゃねえよ。アンタがいなくなったせいで、ソフィアはずっと一人だったんだぞ」


 俺は声を荒げそうになるが、出来る限り声を低くして話を続ける。


「どうして、ソフィアを一人にしたんですか?」

「……あの後、ソフィアはイゼル国王直々に引き取られたんだ。誰かが、ソフィアが勇者だという情報を流したらしいんだ」

「その、誰かって?」

「わからない。でも、もしかしたら……」


 アリスはそれきり黙ってしまう。

 だが、話を途中で遮られてしまう形で黙られてしまったため、俺は不審よりも苛立ちのほうが勝ってしまう。


「もしかしたら、なんだってんです」

「……イゼル国王が、御者の人からの情報だって言ってたんだ。だから、その……」


「あの二人の、どちらかかもしれない」


 ……あの二人というのは、言うまでもない。

 アルバと、メンティラのどちらかということだろう。

 そういえば、俺が賢者だという情報を魔女の国に流したのも御者の人間という話だった。


「……それで、アリスさんは今何をしているんですか?」

「アルバを探しているんだ。……どうもきな臭いと思わないかい?」

「そうですね。けど、きな臭いのは貴方もですよ」


 俺は店員から運ばれてきた紅茶を受け取り、一口すする。


「アリスさん。四年前は一体何をしていたんですか?」

「僕は、その時イゼルにいたよ。……賢者の法は信仰してなかったけどね」

「信仰してない?」

「うん。僕は元々信仰心なんてかけらもないからね」


 ……確かに、ダリアの術は信仰心が元々ない奴にはかからない。

 だけど、それならなぜイゼルに留まったのだろうか?


「何故、そうまでしてイゼルに? 怖くなかったんですか?」

「下手に行動するよりは安全かと思ったんだ。……魔族にはなりたくないからね」


 ……そう言って顔を伏せるアリス。

 確かに四年前の出来事は異質だった。身を隠せるのなら、隠したほうがいいに決まっている。


「そうですか。それじゃあその言葉、信用しますね」

「……ありがとう」

「それで、アルバさんは見つかったんですか?」

「ううん。まだなんだ。死んじゃいないだろうけど、さすがに心配だからね」

「……もしかしたら、今回の事件に関係あるのかも」

「事件?」


 俺は彼女の言葉にうなずき、今起きている事件の話をすることにした。

 彼女もイゼルにいるのなら、無関係ではないはずだ。


「最近子供たちが行方不明になっているんです。多分俺たちは、魔族がかかわっていると踏んでいるんですけど」

「そうなの?」

「はい。何か、心当たりはありませんか?」

「……うーん。ごめんよ、思いつかなくて。もしかしたら、アルバがそれに巻き込まれてるかも……」

「そう考えざるを得ませんね」


 ……だが、アルバほどの剣の達人が、魔族にただ襲われただけとは考えにくい。

 俺は紅茶を飲み干し、ポケットから一枚の銀貨をテーブルに置いてコートを着る。


「それじゃあ、俺はこの辺で。……ちゃんと、ソフィアに謝ってくださいね」

「わかった。それじゃあね」


 俺は彼女から背を向けて、店員さんに軽く頭を下げて店から出る。

 そして、外に敷かれている石畳を踏みしめてその足で図書館に向かった。




 しばらくした後に、図書館で本を数冊借りた後図書館から出ると、すっかり外は暗くなってしまっていた。

 だが、この街は警備がしっかりしているおかげか、あまり危険を感じない。

 それどころか、店のあちこちから酔っぱらっているであろう男たちの声が上がるほどだ。


「……この街も、平和になったんだな」


 確かに、賢者の法に支配されていた昔と比べたら今のほうが潔白とは言えない。

 だけど、夜というものは元々潔白でないくらいのほうがちょうどいいのはずだ。


 俺は白い息を吐きながら、本を小脇に抱え来た道を戻っていく。

 その時、俺は小道から飛び出してきた人とぶつかってしまった。


「あ、すいません」

「ごめんなさい」


 俺はその声が存外若いことに驚き、顔を上げる。

 そこには、明らかに十歳くらいの少年がどこかへと走っていく途中だった。


「ちょっと待って、どこへ行くの?」

「行かなきゃいけないんだ。だって、僕たちのボスがいるから」

「……ボス?」


 もしかしたら、そいつが人さらいの正体かもしれない。

 ……なら、俺がするべき行動は一つだ。


「待って、お兄さんもついてっていいかい?」

「うん。ボスならきっと許してくれるよ!」


 元気よく答えてくれる少年。

 反対に、俺の不安は収まることなく膨らみ続ける。


 そして、町の小道を曲がりくねったその先に、少年少女たちが集まっていて、その中央には昼間会った女性……アリスが座っていた。

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