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64 終戦

 俺たちは人気のなくなった城を出ると、目にまぶしい日の光が飛び込んでくる。

 途中にマニカはいなかった。そして、待ち構えているであろうメルキアデスもいない。

 このことが、魔核が消滅したことを物語っていた。


「……本当に、終わったんだな」

「……ああ」


 独り言ちに呟くと、ザールが頷いてくれた。

 ……だが、何故だろう。俺の胸の中のざわめきは、いまだに収まらない。


 その時、遠方から多くの人間がこちらへ向かってくるのに気付く。

 俺は一瞬彼らに身構えたが、その先頭にはメンティラが歩いていたため一度武器から手を放す。

 そして、しばらくしてメンティラがこちらに向けて走ってくると、誰かが彼の後を追いかけてきた。


「……終わったんだね」

「はい。……その、そちらの方は?」

「私はイゼル。イゼル国王を務めさせていただいている者だ。此度の活躍、誠に見事であった」


 イゼルと名乗った顔にしわだらけの年老いた男性は、眉をピクリとも動かさずに、俺たちに話しかけてくる。

 ザールは、その男性の態度に顔をゆがめたが、彼には悟られずに済んだ。


「……感謝の言葉も、ございません」

「いやはや、本当によい活躍であった」


 ……上から目線なのはともかく、褒められて悪い気はしない。

 そんな呑気なことを考えていると付け加えるようにイゼルの口が開いた。


「我々の指示なくして、よくぞここまで戦ってくれた」

「は……?」


 ザールが、彼の言葉に舌打ちをする。

 今度は、悟られるようにできる限り音を大きくして、だ。

 だが、それでも表情は変わらない。さすが、一国の王といったところか。


 そんな時、その言葉の意味をいまいちの見込めていないソフィアが、おずおずと口を開いた。


「あの……我々の指示、とは?」

「諸君らは我がイゼルの民。なれば、イゼルの民を導くのは私の仕事だ」

「それは、私たちは陛下の配下とでも言いたいのですか!?」

「彼らはともかく、ソフィア。貴様は違うのか?」


 ……口をつぐむソフィア。

 言いたいことはこうだ。


 彼は、この戦争の英雄をすり替えようとしている。

 俺たちがこの戦争での英雄であることは確かだが、彼はその英雄たちの指示をした、真の英雄になるつもりだ。


 不愉快だった。

 彼は一体何をしていた? ダリアの術にかかり、まんまと世界を滅ぼそうとする者の手伝いをしていただけではないか。

 だけど……。


「……わかりました。イゼル国王陛下。此度の勝利は、陛下のおかげにあります」

「そうか。貴様は聡明だな」

「ラザレス、貴様……!」

「ザール。こらえて」


 俺の態度に怒りを示すザールに、それをなだめてくれるメンティラ。

 俺だってここで彼を殴り飛ばしたい。だけど、それはできない。


「僕たちは勝ったんだ。もう戦う必要はないだろう?」

「……クソッ」

「ここでイゼル国王陛下に歯向かってここにいる人間を敵に回すことはないだろう?」


 メンティラの言葉に、黙り込むザール。

 ……メンティラの言うとおりだ。今は、戦う余力もなければ、利益もない。

 だけど、こんな奴を守るためにマニカやベテンブルグが死んだと考えると、やるせなくなる。


「さて、凱旋するとしよう。今日はこの四人の英雄をたたえ、城で宴を催すとしよう」


 国王の言葉に、わっと湧き上がる兵士たち。

 だけど、俺たちの心は曇ったままだった。



 ―――



 あの日から四年がたった。

 あの後、俺たちは世界の英雄と称えられたが、それも一年でブームが去ったのか、人々はいつも通りの生活に戻っていった。


 あれから特に変わったことといえば、ソフィアが正式にベテンブルグの後継者となった。

 一応書類上の類縁だったらしく、メイド……つまりメアの推薦あってか今では城に勤務していた。


 ザールは城で騎士団長として自身の剣の力を生かしている。

 本人曰く、腕がなまらないような仕事を探していたら、国王直々に推薦されたらしい。

 勿論どんなに彼が国王を蔑んでいても、断ったらどうなるかなど流石にわかるため、嫌々ながらもそこで働くこととなったらしいが、そういう割には少しだけ楽しそうだ。


 メンティラは、アリスやアルバを探すと言い残し、どこかへと消えてしまった。

 だけど、月一で俺のところに手紙が来るため、生きてはいるのだろう。


 そして、俺はというと街のはずれにある小屋でひっそりと暮らしていた。

 城での確執というのも嫌だし、何より……俺はまだ、あれで魔女がいなくなったとは思えない。

 そんなわけで、俺は魔核というものを調べてイゼルの図書館やこの小屋を行ったり来たりしていた。


 だけど、いまだに情報はつかめない。

 ザールやメンティラに聞いても、あれ以上の情報は知らないという。


 そんな時、ノックの音が小汚い小屋の中に響いた。

 突然の来客だったため、急いで服装を正し扉を開ける。

 そこには、騎士団長としてのザールがたっていた。


「これはこれは。騎士団長様。しがない私に何か用で?」

「やめろ気色悪い」

「……そこまで言うことないだろ」


 俺がぼやいていると、ザールは少し笑って「入るぞ」とだけ言い、俺の家に上がり込んでくる。

 そして、扉の陰からもう一人の気配を感じた。


「新米の騎士団員だ。気にするほどのことじゃない」

「……そうなのか?」

「ああ。『レン』。貴様も上がれ」

「え? あ、はい!」


 レンと呼ばれた騎士団員は、ぶかぶかの鉄兜を抑えながら、俺の家の中に入ってくる。

 彼の顔は鉄兜に覆われ、うまく見えないが、少年なのか声が高い。


「おい、俺の家だぞ」

「固いことを言うなラザレス。あまり外では聞かれたくない話題なんだ」

「……聞かれたくない?」

「ああ。……最近、子供を対象に行方不明者が増えてきている。そのことについて調査しに行った団員が戻ってきていない」

「そうなのか?」

「……そして、団員を探しに行った団員が持ってきたものが、これだ」


 そういってザールが手渡したのは、四年前のあの日に見た、魔核そのものだった。


「……これって」

「そういうことだ。……だから、お前に協力を仰ぎに来た」

「……わかった」


 ……ついに現れた手掛かりに、俺の胸は何者かに握られたかのように苦しくなる。

 もしかしたら、まだ彼らが生きているかもしれない。


 その思いだけが、俺の心の中を渦巻いていた。

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