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54 善悪

 ソフィアはそのままこちらへ剣を持って仮面の人間を次々に切り裂いていく。

 その姿を見ているこの街の住人からは次々に歓声が上がっていく。

 だが、シルヴィアだけは眉一つ動かさず彼女の姿を見ていた。


「……お久しぶり、ソフィア」

「これは何のつもりですか? ノエル卿」

「見てわからないかしら? 反逆よ。私は賢者の法なんて胡散臭い宗教に従うつもりなんてさらさらないわ」

「そのために何の罪もない信徒を殺したというのですか?」

「そうね。こいつらを一匹ずつ全員殺さないと、宗教はなくならないもの」


 シルヴィアは敵の敵という意味では俺たちの見方だ。

 だが、今の彼女の発言に賛同することはできない。

 あまりにも、極端すぎるその考えに。


「変わりましたね、ノエル卿。あなたはもう少し賢い方かと思っていましたが」

「十分賢いわ、ソフィア」


 シルヴィアがクスリと笑うと、ソフィアが彼女に目掛けて飛んでくる。

 だが、それは何か落石のようなものが立ちふさがられてしまう。


「……シャルロット、さん」

「ごめんなさいソフィアさん。でも今は、シルヴィアを傷つけようとするあなたを見過ごせない」

「どいてください! ノエル卿は、この街を滅ぼそうとしたテロリストなんですよ!?」

「どけません。……ごめんなさい」


 シャルロットは一言そう告げると、右腕が彼女の体にめり込み近くの建物まで吹き飛ばされる。

 ……どうすればいい? 助けたい。でも、それだと協力者であるシルヴィアと敵対することになる。


 その時、ザールが手を肩において突然話しかけてきた。


「どうした? 助けに行かないのか?」

「……行きたいさ。だけど……」

「だけど、なんだ?」

「やっと協力者担ってくれそうな人が現れたのに、その人を裏切るわけには……」

「あいつと私たちの目的は違う。私たちは賢者の法を滅ぼすのではない。私たちの目的は、ダリアたった一人だ」


 俺はザールの言葉に顔を上げる。

 すると、彼はぐっと俺の背中を押して微笑んだ。


「行け。彼女と話したいんだろ?」

「……ああ!」


 俺は短剣を抜いてシャルロットのもとへ走っていく。

 勿論、俺じゃ戦力にならないかもしれない。

 そんなことはわかってる。


 でも、大好きな存在を見捨てて逃げることは、もうしたくないのだ。


「うあああああァァッ!」


 俺は腹の底から叫んでシャルロットの体を切りつける。

 すると、予想外の出来事に一瞬だけひるんだ。

 それは、確かに一瞬だったが、俺にとっては悠久のように感じられた。


「ソフィア、逃げるぞ!」

「え……? ラザレス?」

「早く、手をつかんで!」


 俺が右腕を彼女に差し出すが、それはシャルロットの巨体で阻まれてしまう。

 彼女の眼代わりになっている宝石には、俺の姿が映し出されていた。


「……何のつもりですか、ラザレスさん」

「俺はお前らとは手を組まない! 罪もない人を虐げるお前たちとは!」

「そうですか。残念です」


 シャルロットはそれだけ言うと、今度は俺の体に左腕をめり込ませた。

 その痛みは俺の想像を絶するもので、体の中の臓器がぐちゃぐちゃになるほどの衝撃だ。


 だけど、俺は吹き飛ばされそうになる体を足で踏ん張る。

 口の中から血が出てくるが、気にしている余裕はない。


 俺は短剣を構え、次に来る攻撃に備え、肩で呼吸をする。

 もう体はボロボロだ。次の攻撃は耐えられないだろうし、攻撃を与えても致命傷は無理だということは明らかだ。

 だから、俺の目的はもともと彼女を倒すことではなかった。


「ソフィア、逃げろッ!」

「……何、言ってるんですか? 私は、敵で……」

「いいから、逃げろって言ってんだよ!」


 俺の言葉に突き動かされるかのように、彼女が遠くへ走り出す音が聞こえる。

 ……これでいい。俺の目的は果たせた。

 そう安堵した瞬間、シャルロットの右腕が俺の鼻先まで来ていた。

 俺はそれをとっさに避けようとした。



 だが、血が足りなくなったのか急に意識が途切れそうになり、足がすくんでしまった。


 ……ああ。終わりか。

 だけど、最後に彼女を守れたから良かった。

 好きな人ができて、多くの友達ができて。

 人間になれて、本当に良かった。


 俺は瞼を閉じて彼女の拳を受け入れる準備をする。

 だが、衝撃はいつまでたっても俺の体に到達しないため、目を開けるとそこには片手でそれを受け止めているベテンブルグの姿があった。


「……まったく、世話の焼ける人だな、君は」

「ベテン、ブルグ……?」

「状況を見ず、感情に突き動かされ、自信を窮地にさらす。君も戦争に参加したのなら、これがいかほどかわからないわけではないだろう?」

「……ごめん」


「だけど、君の判断を過ちと笑うものがいたら、この私が説き伏せよう」


 そう語る彼の眼は、どことなく優しかった。

 俺はもうろうとする意識の中、シャルロットの両腕を即座に切り落とすベテンブルグの姿を最後に、意識を失ってしまった。

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