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51 疾風

 俺たちは集団の近くに寄った後、馬車から飛び降りて武器を構える。

 当然、不意打ちという形になるため、彼らの多くが俺たちの姿に動揺していた。


 ザールはそんな彼らに対して大きく剣を振ると、薙ぎ払うように炎が彼らの体を包む。

 だが、それでも彼らは俺たちに臆することなく、こちら側へ前進してくる。


 そんな彼らをぺテンブルグが一振りで何人もの首を落とす。

 ……人が死ぬのは見慣れてはいるが、中々にえげつない。


 そんな俺も短剣を抜いて、近くの一人に切りかかるが、それは防がれてしまう。

 それと同時に、昨日突き刺された腕の傷が、ずきずきと痛んでしまう。


「クソッ、まだ……!」


 俺は腕を抑えながら、敵の武器を狙って正確に剣を振る。

 しかし、彼らのほうが腕は確かなようで、そのすべてが見切られる。


 ……こいつらは強い。少なくとも、一人一人が十分な訓練を積んだ兵士たちよりも。

 そんな彼らをなぎ倒す、二人のほうが化け物じみているのだ。


 俺はようやく目の前の兵士の武器を地面に落とし、首元に短剣を突き立てる。

 だが、その時には彼らが半数以上片付けていた。


「ここで引くというのなら、我々も追いはしない。死ぬか生きるか、選べ」


 ザールが半数以下になった兵士たちに剣先を向けて警告するが、彼らはなおも変わらず突撃を続けてくる。

 しかし、そんな彼らもザールの炎にかき消され塵すら残らない。


 そんな時、ザールに向けて一人の少年が、木々の間から飛び出して剣を振り下ろした。

 だが、ザールはそれを見ようともせず後ろ手に剣で受け止めた。


「蛮勇だな。一人で何とかなる相手とでも思ったか?」

「やってみなければわかりませんよ。僕は、あなた達のような悪党に屈したりはしない」

「悪党、だと?」


 ベテンブルグが彼の言葉に思わず笑ってしまう。

 彼はそんなベテンブルグを睨みつけるが、彼の視線はベテンブルグの背中に突き刺さった。


「……僕は、フィアドーラ=イフ。イフ家の当主として、あなた方をここで抹殺します」

「みんなを幸せをするために、か?」

「その通りです。さあ、ここで死んでください」


 フィアドーラと名乗った金髪の少年は姿を消したと思うと、ザールの懐に潜り身長程ある槍をわき腹に突き刺す。

 だが、彼の体を貫通はせず、槍の先端が溶け始めた。


「やりますね。僕もここの兵士よりも腕は立つつもりでいたのですが」

「……御託は終わりか?」


 ザールが眼鏡越しにフィアドーラを睨む。

 その瞬間、フィアドーラは疾風のように距離を取り、近くの倒れた兵士から槍を取ると、もう一度構える。


「今のはほんの小手調べ。あなたが僕の本気にふさわしいかテストさせてもらいました」

「そうか。どうだった?」

「合格です。喜んでください」

「そうか」


 ザールはため息をつくと同時に、フィアドーラ以上のスピードで背後に回り、後ろ手に彼の首へ剣を突き立てる。


「貴様は早さに自信を持っているようだが、見せびらかす程上出来なものではないと自覚するべきだ」

「な……!?」

「死んでもらうぞ。貴様のようなものとは、二度と戦場で会いたくないものだ」


 ザールはそのまま剣を引き抜こうとすると、何者かに腕を抑えられる。

 見ると、そこには見知らぬ白髪が混じった中年がたっていた。


「駄目でしょうよ。こんな未来ある若者いじめちゃ」

「……貴様、何者だ」

「おっと、初めましてだったかい? それじゃあ挨拶しないといけないね」


 中年は頭をぼりぼりと掻いた後、ポケットに突っ込んでいた片手を彼の目の前でまっすぐに伸ばす。

 その瞬間、彼の体は溶けるように消えた後、ザールの背後へと回った。


「俺の名は『ニコライ』。賢者の法の枢機卿だよ。以後よろしく」

「……貴様、魔女か?」

「おお、勘がいいねえ。当たりだよ」


 ニコライはニヤニヤしながらザールの頭をなでようとする。

 だが、ザールは後ろへ飛んで回避すると、少し残念そうに腕をすくめてポケットへ戻す。


「でも、俺のは魔法じゃなくて呪術。だから、一つだけデメリットがあるんだ」

「それはなんだ!?」

「それはね……」


 ニコライは何かを思いついたかのような笑みを浮かべ、ポケットから取り出したナイフを急に空振りさせた。

 その時、刃は届いていないはずなのにザールの腕が急に切れた。


「教えてあげない、よ」

「なるほど。どうやら厄介な力らしいが……」


 ザールは完全に油断している男に向けて、大剣を一振りする。

 それと同時に森の中を焼き尽くすほどの炎が地面から燃え盛った。

 しかし、この炎は魔法によるもので、消化は容易いため気にすることはない。


 ……その時は、誰も彼もが彼を倒したと思った。

 だが、ザールの後ろから急に声が聞こえ、彼もさすがに驚いたようで振り向く。


「おいおい、危ないね。でもま、その力と俺の力、相性は俺のほうがいいみたいね」

「なんだと……?」

「もう行きなよ。俺はこの子を助けに来ただけだから」


 ニコライは顎で慈愛の街があるといわれている方向をさす。

 それと同時にフィアドーラを小脇に抱え、森の奥へと入っていく。

 だが、フィアドーラはそんな彼に不満を抱えているらしく、暴れて彼の腕から逃げようとする。


「枢機卿! 彼らを見逃すというのですか!?」

「見逃すも何も、君ボロ負けじゃないの。勝てないんだしとっとと逃げるとしようよ」


 その言葉と同時に、彼ら二人の姿が溶けてなくなる。

 その彼らの姿を見送ると同時に、周りには静寂が訪れた。

 辺りを見渡すと、ベテンブルグがあれほど大勢いた兵士を全て片付けてしまっていた。

 ベテンブルグは血に汚れたモノクルを布でふき取りながら、息をつくように言葉を吐き出した。


「イフ家も可哀そうだね。父君が死んでから残ったのは、無能な息子だけとは、他人の家庭とはいえ同情してしまうよ」

「だが、ニコライと名乗ったほうは本物だった。見逃されなかったら、もしかしたら……」

「ああ、負けていたとも。相手は枢機卿、賢者の法のナンバー2だ。侮れる相手ではないと思っていたが、あれほどとは……」


 彼らはそんなことを口々に言いながら、互いの武器についた血を拭き取っていく。

 そんな中、俺はそんな彼らを見ることしかできなかった。

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