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50 仲間

 朝になった。

 俺たちは各々椅子に座り、テーブルを囲うように座っている。

 俺たちが全員無事ということは、どうやら彼らには見つかっていないらしい。


 メンティラが机の上に地図を広げると、ベテンブルグが口を開いた。


「さて、これから我々はわずかな戦力を求め、イゼルから隔離された地区、通称『慈愛の街』と言われる場所に行く」

「慈愛の街?」


 ……なんとも胡散臭い名前だ。

 言葉を発したのは俺だが、ほかの人もそう思っているらしく、眉を八の字にする。


「そうだ。身寄りがない者、職歴がない者、犯罪経歴のある者などを受け入れる、隔離地区。……ラザレスなら、この意味が分からないわけではないだろう?」

「……はい。言ってしまえば国家内で生きていくのが難しい人を隔離するってことでしょう?」

「その通り。もしかしたらそこに、賢者の法を信仰していない人がいるかもだ。まあ、可能性があるというだけだがね」


 ……もちろん、俺たちがいくのは隔離されたとはいえイゼル国内だ。

 恐怖はある。だが、そこへ行って殺されるのと、ダリアに四人では向かって殺されるのとじゃ、話に違いはない。


「その前に聞かせてください。……あなたたちは、何故俺を助けて、賢者の法に歯向かおうとしたのですか?」

「……ああ、すまない。言ってなかったね」


 ベテンブルグはモノクルをはずすと、俺の向かい側に席を移動させる。


「ラザレス。国家とはどうあるべきか、わかるかね?」

「……どうあるべき、とは?」

「簡単な質問だ。国王がただ人望があればいいのか、豊かであればいいのか。君はどう思う?」

「それは、人望のある国王が人々を導いて、豊かで幸せに暮らしていけるのが、理想の国家じゃないんですか?」

「そうだ。だが、それは永遠であってはならない」


 ……どういうことだ?

 永遠に続く幸せの、何が悪いというんだ?


「必要悪という言葉があるように、我々人間は幸せなだけでは堕落してしまう。それが自身の力でつかみ取ったものならまだしも、国家という檻の中で外敵を見ようともせず、ただ貪欲に幸せを貪る人間では、檻が壊れてしまったら生き残ることは難しいだろう」

「……だから、何が言いたいんですか」

「人間とは、滅びと再生を繰り返して前に進むものだ。君という神が現れ、永遠の安寧を与えて生きるというのなら、それは檻の中の獣と何も変わらない」


 ……彼の言っていることは正しい、と思う。

 だけど、滅びの中亡くなってしまった人はやりきれない。


「……まだ、不満があるという顔だね」

「ええ。納得できません。永遠の幸せが人間にとって害で、滅びこそ人間のあるべき姿なんて」

「なら、慈愛の街へ行けばいい。そこで甘やかされて生きた人間がどうなるか教えるとしよう」


 ベテンブルグがコップの中のココアを飲み干すと、メンティラに視線を送り、彼は馬車へ向かう。

 それを追いかけるようにベテンブルグが小屋を出た後、ザールが話しかけてきた。


「……貴様の弁論も間違ってはいない。だが、それはあまりにも視野が狭い」

「……」

「一度、見てみるといい。保護という名目で堕落させられた人間の姿を」


 ザールは大剣を持って、彼らの後を追う。

 俺もココアを飲み干した後、彼らの後を追った。




 メンティラが御者台に乗り込むと、各々馬車に乗り込んだ後、馬が歩みだす。

 今回は見つからないようにと、あまりスピードは出せない。


 俺は馬車の隅でため息をついて、森の中の景色を見る。

 その時、俺はベテンブルグに尋ねなければならないことを思い出した。


「……ベテンブルグ。一つ尋ねてもいいですか」

「いいとも。答えられることなら」

「毒を盛ったって、本当ですか?」

「本当なら、即日に絞首刑だ。私がここにいるということは、国家にとってどういう存在か、わかるかね?」


 ……邪魔者だから、排除されたということか。

 だが、彼の頭脳は賢者の法側でも惜しいため、数年でもかけて洗脳しようとでもしてたのだろうか。


「ノエル家や、イフ家は賢者の法を信仰しているのですか?」

「さあ?」

「さあって……会ってないんですか?」

「ああ。三大貴族がもし仲が良ければ、義兄弟の契りでもなんでも結んでとっとと一つになっているとも」

「はあ、そういうもんですか」

「そういうものだよ。だが、イフ家はともかくノエル家は信仰していない可能性もなくもない」

「どういうことですか?」

「彼女らはゴーレムだ。魔法については詳しくは知らないが、かかってない可能性もあるのだろう?」


 ……そういえば、確かに彼女らは人間ではない。

 だが、それなら彼女らはいったいどこにいるというんだ?


 俺が首をかしげていると、今度はザールが口を開く。


「だが、不仲なのだろう? もし貴様を蹴落とそうと思っているのなら、手を貸さない線も考えられる」

「いや、貸すとも。彼女は私を見下している。これはお互い様だが、私を蹴落とすなどたやすいと考えているのだよ」


 ベテンブルグが皮肉な笑みを浮かべる。

 その時、馬車が急に止まり、メンティラがこちらに顔をのぞかせる。


「どうした、メンティラ?」

「ベテンブルグ、ここは通れない。迂回していくルートはないかい?」


 彼が指をさすと、木々の隙間から銀色の鎧を身にまとった騎士と、少数の首輪をつながれた魔族がうろついていた。

 ……不味い、先読みされていた。


「……いや、迂回していったとしてもほかのところにも張り巡らされているのがオチだろう」

「なら、どうする?」

「……メンティラ。我々年寄りも、羽を伸ばす時が必要だとは思わないかね?」


 ベテンブルグがニヤリと笑い、レイピアを抜く。

 ザールもそれを見た後、深くため息をついて大剣を抜いた。


「まさか……」

「そのまさかだ。行こうか諸君、反撃の時間だ」

「……ふふ、ベテンブルグ。君という人は」


 メンティラが冷や汗をかきながら歯を食いしばり、無理やり笑みを作る。

 俺も、短剣を抜いて戦闘態勢に入る。


「行くぞ、諸君!」


 ベテンブルグの合図とともに、馬車は木々をかき分ける音をたてながら、その集団へと向かっていった。

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