44 再会
次の日の昼、俺の部屋の戸が叩かれた。
俺は荷物を持って、扉を開く。
そして、そこには二人の兵士と、メルキアデスがたっていた。
「……行くのか?」
「ああ。支度はもう済んだか?」
「昨日のうちに済ませておいた。それより、後ろの人たちは?」
「ああ、護衛だ。野党に襲われるとも限らんしな」
メルキアデスが彼らを後ろ指で刺す。
それと同時に、二人の兵士が同時に頭を下げた。
「いいよ、楽にして。俺はもう賢者じゃないんだからさ」
「いえ、国王陛下のご友人にあらせられる御方に、ご無礼などとんでもありません!」
「自分も、同じ思いであります!」
……緊張をほぐそうとしたら、むしろ不必要に緊張させてしまった気がする。
「さて、それじゃあ行くか!」
俺たちは馬車に揺られて、六年前に来た道を戻っていた。
……いや、戻っているのは俺だけだ。御者を含めて四人はどうなのか知らない。
だが、変わったことがある。昔は岩だらけだったのに、今となっては森が生い茂る豊かな場所になっていた。
「なあメルキアデス。なんでこんなとこに国なんか建てたんだ? もっと陸地の真ん中のほうでもよくないか?」
「ああ。それはだな、魔核が位置している場所がここなんだ。だが、この世界の人は魔核を知らないからな。俺たちが僭越ながら管理させてもらってる」
「なるほどな。だけど、魔核の維持って魔力が必須なんだろ? なんで今まで崩壊しなかったんだ?」
「さあ? 大方魔力を持っている奴が維持していたんだろ」
……魔力を持っている奴?
この世界に魔力を持っているのは魔女と勇者しかいない。
魔女はこの世界の扱いから考えてまずありえないだろう。なら、ソフィアが?
だが、勇者と魔女は……。
「そういえば、一つ聞き忘れていたことがあったんだが、いいか?」
「ああ、何でも聞いてくれ。答えられることならなんでも答えるぞ」
「魔女の王として、お前は……戦争を起こす気はあるのか?」
「……さてな。お前のためにもそんなことはない、と断定したいが、民がどう思うか」
「……そうか」
「奴隷として、今も人間にとらわれている者もいる。そんな彼らを見過ごすことはできない」
……その言葉は、暗に、これからこの国がどうするかを示唆していた。
だが、俺としては、両国には争ってほしくはない。
「なあ、メルキアデス。両者共存の道は……」
俺がそう言いかけると、遮るように馬車が大きく揺れる。
その揺れで、俺の体は大きく弾き飛ばされ、地面にたたきつけられた。
「なんだ!?」
メルキアデスがとっさに叫ぶ。
それと同時に衛兵二人が俺をかばうように武器を構えると、木々の間から、以前見た魔族が、次々に姿を現した。
「魔族!?」
「そんな、何故!?」
衛兵が口々に叫ぶ。
その言葉は明らかに動揺を伴っていて、恐怖も少なからず混じっていた。
それもそうだろう。魔族は剣術を極めしものでも一歩間違えれば死に至る。それを知っている俺の世界のものならなおさらだ。
「メルキアデスッ!」
「……ッ! ああ、逃げるぞ!」
メルキアデスは俺の手を引き上げ馬車に乗せると、馬の嘶く声が耳をつんざく。
そこには、石でできた槍かなにかで、体を貫かれた馬の姿があった。
「クソっ! こいつら……!」
「……メルキアデス。お前は国に戻れ。応援を呼んで来い」
「ラザレス、お前は……!?」
俺は彼に振り返った後、短剣を取り出して彼らに向ける。
言葉はないが、俺の意思は十分に伝わったはずだ。
「馬鹿、それじゃあ俺たちがここに来た意味が……!」
「……夢なんだよ。誰かの力になることが」
「何言ってる! あんたは十分……!」
魔族の一匹が、俺たちの会話に割り込むように俺に飛びつく。
俺はそれを迎え撃つように短剣を向けるが、彼らの武器のほうがリーチが長いため、肩を貫かれてしまう。
「ガァッ……!」
「クソっ、やるしかねぇか!」
メルキアデスがその言葉を吐くと同時に、こぶしを打ち付けて雷を発生させる。
それはダリアのように正体不明のものではなく、見慣れた正当な魔法だった。
メルキアデスは拳を魔族に向けて振ると、それに連動するように雷撃が彼らの体を襲う。
そして、それをもろに食らった魔族の一匹が、地面に顔を伏せた。
「よっしゃ!」
「まだだ、まだ来る!」
俺は叫ぶながら近くの魔族に肩から短剣を振り下ろし、そのまま首に突き刺す。
すると、それは断末魔を上げた後、先ほどの奴と同様地面に付した。
多分、追い詰めた獲物が抵抗するとは思わなかったのだろう。
だが、もうこれで俺の腕は限界だ。
「どうする、メルキアデス!」
「わからん、だが逃げて国に連れて行くわけにもいかない!」
俺が声を張り上げると、それが威嚇に伝わったのか、余計に耳障りな声を上げながらやりを出たら目に振り回しながら突撃してくる。
だが、彼らの腕力は人間のそれでは敵うものではない。太刀筋は出たら目でも、侮ったら即死だ。
だが、その時……。
「……迎えに上がりました。魔女の国の王よ」
一振りの斬撃で、空間ごと切り裂かれたかのような風圧が俺たちの体を通り抜ける。
それと同時に、魔族のほとんどが、横に真っ二つになる。
それも、たった一振りでだ。
一瞬言葉が出ずに戸惑っていたが、我に返った後、その声の主の顔を見る。
そこには、銀色の鎧を身にまとったソフィアの姿があった。




