43 数年後
あの夜から六年がたった。
俺の体も十四歳になり、ある程度は背も伸びて、昔に近づきつつある。
そして、六年間俺はこの国で多くのことを調べたが、砂漠の町で起こった出来事や、例の二人のことは一切出てこず、町の人も誰も知らなかった。
ちなみに、結局町の人に俺の知り合いは一人は一人もいなかったが、それでもかまわず彼らは俺のことを賢者と敬ってくれる。
経済のほうも俺の世界にあった本や、この世界にない食事や文化を伝えることで、国としてしっかり成り立つほどになっている。
それに、メルキアデスの態度を気に入った各国が改めて条約を結びなおし、関税自主権を取り戻していったのもあった。
そのおかげか、この国は魔女の国という割には、魔女以外の人も住み着くくらい、豊かであり、そしてこの世界になくてはならない国とたった六年で変貌していったのだ。
正直なところ、俺もこの国が誇らしくもあった。
魔女という不利な立場でこの国に根を生やし、たくましく生きようとしている。
同じ魔女としてでなくても、きっと俺はこの国が気に入っただろう。
そんなある日、俺はメルキアデスに呼び出され、彼の部屋で彼を待っていた。
彼は国王として多忙な時期であるらしく、以前のように俺に積極的に話しかけたりはしない。
とはいえ、俺はこの国では客としてもてなされているため、話しかければ相手はしてくれる。
俺はメルキアデスの部屋で手持ち無沙汰になり、服の裾をいじくっていると、急に部屋のドアが開いた。
そして、メルキアデスが息をつきながら部屋を突っ切り、ベッドに腰掛け、俺に顔を向けた。
「なんで俺の部屋にいるんだ? ラザレス」
「お前が呼んだんだろ? 国王様」
「……確かにそうだが、そう呼ばれるとなんだかむず痒いな。いつも通りメルキアデスで頼むよ」
メルキアデスは頭を掻きながら苦笑をこぼす。
……思えば、俺もここに来た時よりも彼に警戒心を抱かなくなった。
六年間もこの国にいるのだから当たり前だろうか?
「それで、なんで俺を呼んだんだ? もしかして、魔族のことか?」
「いや、その件じゃない。俺は明日、この国の代表として各国の首脳が集まる会談に呼ばれているんだ。それで、お前も護衛として来ないか?」
「……悪いが、俺はこの国の者じゃない。護衛としては無理だな」
「ああ、そうだったな。じゃあ、友人として、ってのはどうだ?」
……友人として、というのもどこか違和感がある。
確かに彼に警戒はしなくなったが、心から信じ切っているわけじゃない。
ザールの一言は、いまだに俺の心の中でつっかえていた。
「……わかった。それなら、ついて行ってもいいか?」
「ああ。誘ったのは俺なんだから、勿論だ」
メルキアデス安心したように微笑むと、同時にベッドから立ち上がる。
「悪いな。まだ用事が立て込んでいるんだ。くつろいでてくれてもかまわないぞ」
「冗談。男の部屋でくつろぐ趣味はないよ」
「はは、そうだな。それじゃ、また明日迎えに来るよ」
それだけ言うとメルキアデスは部屋から出ていくと、部屋の中に静寂に包まれる。
先ほどの言葉の通り、俺に男の部屋でくつろぐ趣味はないので、後を追うように部屋を出た後、俺の部屋に向かう。
部屋についた後、先ほどのメルキアデスのように息をついて、日記を手に取る。
……また、あちらの世界に戻れる。
その事実が、俺の胸をいっぱいにした。
勿論、帰れるなどと都合のいいことは考えちゃいない。
でも、もう一度ソフィアに会えることが、本当にうれしかった。
そんな時、俺の部屋のドアをたたく音がした。
「どうぞ」
「入るね」
ドアを開けると、そこにはマニカの姿があった。
彼女とも六年間の間に多少は和解し、こうして話ができる間柄になれた。
「ラザレスは明日ソフィアさんのとこに行くんでしょ?」
「ああ。マニカも来るんだったら俺からメルキアデスに言っておくけど?」
「ううん。そうじゃなくて、ちゃんと戻ってくるよね?」
「あー……多分。出来るなら俺はマーキュアス家の人間としてソフィアの隣にいたいけど、まだわからないかな」
「じゃあさ、ソフィアさんに伝えといて! 今度会ったら、三人でお話ししよって! あたしと、ソフィアさんと、アリスさんの三人で!」
……別に三人の中にいなかったからってショック受けてないし。
いいし、ハブられたって別に。拗ねてねーし。
「わかった。でも、それなら尚更マニカが言ったほうがいいんじゃないのか?」
「あたしはお母さんとお父さんが心配するから。まだ、この世界の人に心を許せないんだって」
「ああ、なるほど。まあ、難しいよな」
……むしろ、メルキアデスのほうが異常すぎるのだ。
彼は魔女であるという立場にもかかわらず、こちらの世界の人間と普通に接することができる。
だが、そこが彼に人がついて行く理由なのだろう。
「それじゃ、伝えることは伝えたからね。ばいばい」
「ああ、ばいばい。伝えとくよ」
……マニカも彼らに思うことはあったのだろう。
俺は彼女の後姿を見送った後、荷物をまとめ始めた。




