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23 三大貴族

 あの後、騒ぎは嘘だったかのような、静かな朝を迎えた。

 もし、あの出来事があったと証明しろと言われたら、俺の右腕の傷くらいだろうか。

 だが、もう右腕は動かしてはいけないといわれているため、それもできないのだが。


 俺は左手で昨日と同じ小麦粉を練った主食を食べる。

 中には卵、ハム、そしてレタスと、至って普通のものだ。

 だが、左手で食わなくてはいけないため、物凄く食いづらい。


 そんなこんなで悪戦苦闘していると、今朝のことを一番に話したのは、アルバだった。


「そんで、ラザレス。そいつは本当に戦争を起こすって言ったんだよな」

「はい」

「……あいつら、いったい何者なんだよ」

「……すみません、俺にもわからないんです」


 俺のいた世界にはあんな奴らはいなかった。

 いや、それどころかダリアのような魔法は存在しなかった。

 火、水、雷、風。

 この四つが、魔力を形にするうえで適していると言われていた。

 だが、もし水だとしてもあのような靄は聞いたことがない。

 ましてや、人を瞬時に移動させる魔法なんて……。


「ともかく、僕は食べ終わっちゃったからアリスちゃん起こしてくるよ。早く起こすのはかわいそうだけど、悠長にできる時間はないからさ」

「頼む。それと、戻ったら大事な話があるんだ」

「……わかったよ。それじゃ、行ってくる」


 アリスが席を立ち、階段を上っていく。

 俺はそんな彼女の後姿を見送った後、アルバに視線を戻した。


「……これからどうするんですか?」

「ノエル家という貴族に今後どうするか相談しに行く。三大貴族の中で最も強い権力を持っているのがあの家だからな」

「三大貴族?」

「知らねえのか? ノエル家、イフ家、そしてベテンブルグ家。この三つがいま世界で最も有力な貴族だ」

「……ベテンブルグさんってすごい人だったんですね」

「ああ、そりゃもうとびっきりの大物だ。もし誰かを天才と称えるのなら、あの人しかいねえだろうよ」


 ……確かに、彼は俺と会って数日で魔女ということに気付いたという事例もある。

 だからだろうか。俺が彼を警戒していたのは。

 自分よりも遥かに頭が良いと感じ、手を明かせなかったのは。


 俺はマグカップに入っているミルクを飲み干した後、「ごちそうさまでした」と言うとほぼ同時に、寝ぼけ眼でソフィアが俺の隣の椅子に座る。


「おはようございます」

「おはよう。よく眠れた?」

「はい、おかげさまで。初めて快眠という言葉の意味を知りました」

「それは良かった」


 俺の言葉に、ソフィアは微笑んでくれる。

 ……この表情が、本当の彼女そのものだったのだろう。

 勇者という重荷は、それほどまでに彼女を追い詰めていた。


「んー? どうしたんだ? スコット義兄さんの息子ラザレスは、随分と彼女と仲がよさそうじゃねえか?」

「彼女じゃなくて、友達です。それに、昨日のことまだ怒ってますからね」

「……そこで友達って言い切っちゃうのが、義兄さんの息子である証拠だよな」

「それと、お忘れですか? 俺は賢者でいた年を含めたら、この場所で最年長ですよ?」

「うわ、可愛くねぇ。そういやお前、実年齢は……」


 話が続いてしまいそうな雰囲気を押しとどめるため、アリスが咳払いをする。


「……大事な話、あるんだよね?」

「お、おお。そうだったな」


 正直なところ、ここで助け舟を出してくれるのがアリスだとは思わなかった。

 それはアルバも同じらしく、俺と同じように面食らっている。


「さて、お前たちはこれから一度ノエル家に行って魔女から宣戦布告を受けたことを報告しろ。こんな大事、俺たちの手には負えねえからな」

「……お前たち? アルバは行かないのかい?」

「ああ、ちょっとした野暮用があるんだ。心配すんなよ、御者は俺の優秀な後輩に頼んである」


 ……アルバが抜けるのは不安だが、アリスの戦闘能力の高さは既に知っている。

 それに、まだ本格的に戦争が始まったわけではないため、馬車で移動するくらいならそこまで危険はないはずだ。


「そしてもう一つ、アルバ。お前は賢者……つまり魔女だということを誰にも言うな」

「……隠し通せ、ということですか?」

「いや、違う。聞かれたらそうだと答えろ、聞かれない限り自分からは言うな。ベテンブルグの旦那辺りには隠し事は逆効果だ。すぐバレる」

「ベテンブルグを高く評価してるんですね」

「高くというか、妥当な評価だ。あの人の頭の良さは筋金入りだ。探偵でも目指したほうが稼げたんじゃないかと思うくらいにはな」


 ……確かに、スコットを除けば彼以外俺の周りで気付いたものはいない。

 それに、もとより彼に隠し通せることなどないと分かっている。


「それと、もし魔女に出会ったら一目散に逃げろ。それが、たとえ誰かに飼われている奴隷だとしてもだ」

「それは……」

「あいつらにとって今回の戦争は自身の価値を世界に示す大きなチャンスだ。俺達の味方に付く可能性は低いと考えたほうがいい」

「でも、誰もがその戦争に乗り気なわけじゃ……!」

「じゃあ聞くぞ。お前……賢者であるお前は乗り気で戦争に参加したのか?」

「そんな訳が……!」

「ないよな? いい機会だから教えてやるよ。戦争は乗り気だの乗り気じゃないなんて問題じゃない。起こるべくして起き、巻き込まれるべくして巻き込まれる。そこに気分の問題なんて入り込む余地なんてねえ。出来るのは、死ぬかもしれないという覚悟を決めることだけだ」


 ……巻き込まれるべくして巻き込まれる?

 なら、あの日死んだ俺以外の生命は、死ぬべくして死んだとでも言いたいのか?


「不満の言葉なら、この言葉を言った人に吐け。これは受け売りだ」

「……誰ですか?」

「わかんねえか? お前がよく知る、大好きな人だよ」


「スコット。スコット=マーキュアス。お前の父だ」

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