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21 宣戦布告

 朝が来た。

 窓から見る空は、青空が雲に覆われ、ほとんど曇りと言っても差し支えないほどだ。

 何故だか、頭の中もすっきりしている。

 まるで、今まで俺を蝕んでいた靄が、晴れたかのように。


 俺は昨日散々いじくり倒してくれた男を体の上から押しのけ、窓を開けて空気を取り入れる。

 ……この部屋にベッドはなぜか一つしかないため、一緒に寝ることになったのだが、アルバの寝相によって俺は何度ベッドから落とされたかわからない。

 それに、いびきもうるさいため昨日の夜は快眠とはお世辞にも言えなかった。


 とはいえ、いつまでも幼子のように布団の中で惰眠をむさぼるわけにはいかない。

 ……いや、実際に体は幼子だが。


 俺は部屋の扉を開けて、廊下へ歩き出す。

 ……まだ、誰もいないのだろうか。不自然なほど静かだ。

 日は登り始めているため、一人くらい起きていてもおかしくないはずだが。


「……とりあえず、顔を洗うか」


 目が覚めたばかりなので当たり前だが、頭がぼんやりして何も考えられない。

 それどころか、今にも廊下に倒れてそのまま寝てしまいそうだ。


 俺は手すりにつかまり一段一段慎重に階段を下りて、カウンターの横にある扉の先の井戸で、バケツ一杯の水を汲み上げ顔を洗う。

 冷たい水が顔の芯まで冷やし、ぼんやりしていた頭が急速にはっきりしてくる。


「……喉も乾いたな」


 俺はもう一度バケツで水を汲みなおし、手ですくって水を飲み干す。

 その時、後ろから昨日散々聞かされた声が聞こえてきた。


「おはよ、ラザレス君! 朝早いねー」

「そういうアリスさんこそ。おはようございます」

「まあ、職業柄ね。早起きしなきゃ獲物が起きちゃうから、自然と身につくんだよ」

「獲物って言うと、昨日アルバさんが言ってた動物とかのことですか?」

「そうだね。アルバは昔のことのように言ってるけど、実はまだ続けてるんだ。まあ、頼まれれば、だけどね」

「アルバさんはそのこと知ってるんですか?」

「さあ? 僕たちお互いの仕事のことは話さないからさ。会っても仕事の愚痴や喧嘩ばっかりだよ」


 そう言うアリスの表情は、まるで困った弟について話すかのようで、少しだけおかしかった。


「仲良いんですね」

「そう見えるかい?」

「ええ、とても」

「……でもそれは、君とソフィアちゃんにも言えるんじゃないかな?」


 ……しまった。

 彼女たちの関係を口にすると、必ずこう言ったカウンターが来る。

 どうも、こういった駆け引きには弱い。


「そういえば、ソフィアはどうしたんですか?」

「ああ、まだ部屋で寝てるよ。僕もさっきまでは部屋に居たんだけど、君の足音が聞こえてね」

「それも職業柄ですか?」

「うん、そうだよ。でも君、もう少し階段は慎重に下りたほうがいいんじゃないかな? 焦って転んだりしたら大変だよ?」

「……は?」


 ……何を言っているんだ?

 俺は一段一段慎重に下りた。

 それに、先ほどまでは手すりを使わないと降りられないほど頭が回っていなかったのだ。


「……アリスさん。すぐにソフィアのとこに行きましょう」

「どうしたの、急に」

「落ち着いて聞いてください。俺は、階段を慎重に下りました。手すりを使って、慎重にです」

「え?」


 俺は落ちている木の棒を拾って硬化魔法を使う。

 短剣は部屋に置いてきてしまったため、今はこれしかない。

 それに、勘違いだったとしても子供の遊びで言い訳ができる。

 そんな時、俺の背後……つまり、本来ならだれもいない場所から、声が聞こえてきた。


「その前に、私の質問に答えてもらおう」

「……え?」

「安心しろ、敵対の意思はない」


 振り返ると、赤髪の眼鏡が特徴的な男が、こちらを睨んでいた。

 その目からは、単純な怒りに交じり、殺意が混じっている。

 そんな彼に、俺は本能的に棒先を向ける。


「……賢者、お前はその程度で私が倒せるとでも?」

「倒せないだろうな。だけど、お前は敵対の意思はないといった」

「ない。だが、お前たちの言う魔女としてなら、お前たちに告げることはある」


「最後通牒だ。我々の仲間になれ、賢者」

「……その前に教えろ。お前たちの目的は?」

「この世界を滅ぼし、我々のものとする。ただそれだけだ」


 ……そういった彼の表情からは、何も読み取れない。

 レンズの先からは、怒りに満ちた目で俺を睨み続ける。


「……俺は賢者じゃない。ラザレス=マーキュアスだ」

「その言葉、覆す気は無いな?」

「ああ。もしここで俺が仲間になったとしても、ここでみんなを逃がす気はないんだろう?」

「無論。私の目的はお前に対する最後通牒。それが破棄になったというのなら」


「ラザレス。お前には消えてもらう」


 男はどこからか取り出した背丈ほどの剣を俺に向けて振り下ろす。

 俺もとっさに棒を構え防ぐが、剣の重量に耐え切れず、棒にひびが入ってしまう。


「流石は賢者。いい反応だ」

「……お前は誰だ。俺がいた世界に、お前のような者はいなかった」

「知っているはずだ。貴様にはとるに足らぬ存在ではあったがな」


 ……男の口調は一見冷ややかだが、一言一言に怒りが込められている。

 わからない。俺はいつ彼に怒りを抱かれたのだろうか。

 だが、ちょっとやそっとのことでは、この怒りは説明がつかない。


 男の乱暴な太刀筋を一身に受け止める木の棒。

 だが、それも男の怒りを受け止められず、真っ二つに切れてしまった。

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