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 間話 屋上での出来事

 俺は誰もが寝静まった夜、屋根に上って座っていた。

 空を見ると、心が落ち着く。

 小さいころから、俺は屋根に上るのが好きだった。


 ……孤児院の奴らにはよく怒られた。

 落ちたら危ない。でも、そんなことはわかっている。

 そのことでよく言い合いになったものだ。

 だが、まあ、その時間が楽しかったのはあった。


 でも、そんな時間は永久には続かなかった。

 別れは誰にでもあるものだ。それは、俺だって例外じゃない。

 ……そうだ。別れは、誰にだってある。


「やめよう。この話は、もう……」


 思い出したくもない。

 俺は孤児院にいたとき、ある日俺は……。


「……何してるんですか?」


 不意に俺の後ろから何者かに話しかけられて、落ちそうになってしまう。

 俺は何とか踏ん張って後ろを振り向くと、そこにはソフィアがこちらを見下していた。


「ああ、ソフィア。危ないよ?」

「先にいた人が何言ってるんですか」

「俺は慣れてるからいいんだよ」


 俺の言い分にため息をつくソフィア。

 そのあと、凍り付くような沈黙が流れる。


 いつもなら気まずいと思うのだが、星空の下だとそうは思わない。

 いつも一人で見ていた星を、誰かが隣で見ているだけ。その違いしかないのだから、違和感は感じなかった。


「……ラザレスは何をしているんですか?」

「星を見てるんだ。ほら、奇麗だなって」

「奇麗、ですか?」


 俺の言葉に首をかしげるソフィア。

 確かに、子供からしたら俺の言葉は変なのだろう。

 ……だけど、大人になったら見る機会なんてない。夢よりも、星よりも、現実を見なくてはならない。地面を見つめる日だってある。


「ソフィアは空を見るのは好き?」

「……別に。好きも嫌いもありません」

「そっか。うん、それが普通なんだろうね」


 彼女にはこういったが、別に俺はこの趣味を自虐するつもりはない。

 趣味なんて人それぞれだ。それを批判するのは、野暮というものだろう。


「空ってさ、たまにこの世界の天井のように見えない?」

「はあ。天井ですか」

「そう、天井。もしくは絵。雲も太陽もそこにあるのに、やけに平面的に見える。ソフィアはどうかな?」

「私は、それも別に……」


 ソフィアは怪訝な顔をして、俺の隣に座る。

 そして、俺のように空を見るが、どうやら理解を得ることはできなかったらしい。


「うん。きっとそれが正常なんだと思う。この世界の空は一つだけど、同じ見え方をしている人は、きっとどこにもいないんだ」

「それは、どうでしょうか?」

「……少し、誰も知らないおとぎ話をしてもいいかな?」


 俺は立ち上がって、少し高い煙突に座る。

 煙突の穴はかなり小さく、落ちることはないだろう。



 ―――



 あるところに、星を見るのが好きな一人の少年がいました。

 彼は、たった一人の友達と、両親と妹に囲まれて、幸せに暮らしていました。


 ですが、ある時悪い人が、その子たちを襲いました。

 両親は彼らに殺されてしまいましたが、少年とその妹。そして、友達だけは生き残りました。


 ですが、彼らはまだ子供。道に迷っていると、ある時優しそうなおばあさんがこちらに手招きしているのが見えました。


「こっちだよ。こっちに来れば、ご飯もお菓子も、みんなほしいものだってあげるよ」


 少年たちはそのおばあさんのところに住むことになりました。

 おばあさんの家に着くと、少年たちと似たような子供が、いっぱいおりました。

 お父さんお母さんに捨てられた子や、はぐれてしまった子。

 そして、同じようにお父さんたちを殺されてしまった子もいました。


 次の日から、少年たちは一生懸命勉強して、一杯ご飯を食べて、幸せに暮らしました。

 妹は友達もできて、少年の友達も、みんなの人気者です。

 ですがただ一人、少年だけが馴染めません。

 その少年は、みんなの嫌われ者だったのです。


 ある日、友達が言いました。


「どうしてみんなと仲良くしないの?」と。


 少年はその質問に困ったように答えます。


「君と星空があるから、いいんだ」と。


 少年の言葉は、まぎれもない本心でした。


 次の日、なんと、みんながいなくなってしまっていました。

 あまりに突然のことで、少年は大慌てです。

 色々な街を探したり、森の中を探したり、たくさん探しました。


 ですが、少年にはみんながいなくなってしまった理由は、少しだけ心当たりがありました。

「自分だけが、みんなと違うから」。そう言って、少年は泣いて、泣き続けて、最後には疲れて寝てしまいます。


 そして、目を覚ますとそこには一面の星空がありました。

 妹も友達もいなくなってしまった彼の目の前には、いつも変わらず凛々と煌めく星空が、彼を優しく見つめていました。


 おしまい。


 ―――



 俺はその少年の話を言い終えると、また同じ場所に座りなおした。


「どうだった?」

「どうだったって、その少年はどこがみんなと違ったんですか?」

「……そうだね、その少年はみんなより少しだけ頭がよかったんだ」

「頭がよかったから、置いてけぼりにされたと?」


 ……いいようによっては、その少年は置いてけぼりになった。

 ただ頭がいいだけで、ただ誰よりも兵士としての適性があっただけで。

 人殺シノ才能ガ、アッタダケデ。


 その少年は、子供たちを……。


「それに、その終わり方は切なすぎます。おとぎ話なんだから、もっと明るくても……」

「そうかな? じゃあ、終わり方は君が決めていいよ」

「え?」

「うん、楽しみにしてる。それじゃあ、俺は中に戻るから、君も体が冷えないうちに戻りなよ」


 俺は空いていた窓に垂らしていたロープを伝って、中に戻る。

 そして、もう一度空を見た後に、自分の部屋へと戻った。


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