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19 困惑

 夜が来て、俺達は四人一部屋に固まり、食事をとっていた。

 内装は入り口とほぼ変わらず、板張りの壁が所々ひび割れ、壁際には体を乗せると音が鳴るベッド。

 夕食は、主菜を小麦粉に包んで火を通したもので、これが格別にうまい。

 食事を終えると、いの一番にアリスがソフィアに話しかけた。


「ねえね、ここのご飯おいしいでしょ?」

「……はい。美味しかったです」

「でしょ? 実はね、この料理の発案者は何を隠そう私なんだ!」


 自慢気なアリスに対し、どう返答すればいいかわからないのか、愛想笑いを浮かべるソフィア。

 それを聞いてニヤニヤしながら口を挟むアルバ。


「初めてこれを焦がしたのもお前だろ。飯食わせてやるって言うからついてったら、失敗したから消費しろって何個も喰わせたのはどこのどいつだ?」

「……あのお兄さん怖いね。ソフィア、知り合いかい?」

「殺すぞ!」


 ……話好きなアルバでも、彼女の相手は厳しいらしい。

 アリスも、アルバの物騒な言葉は聞きなれているらしく、大きな声で笑って返す。

 そういえば、聞きそびれていたことがあった。


「アリスさん、アルバさんの小さい頃ってどんな感じだったんですか?」

「アリスおねえちゃんで構わないよ。えっとね、こいつの小さい頃かー……」

「おいラザレス。あんまり余計なこと聞くな。それと、アリスも変なこと言ったら承知しねえぞ」


 アルバは不愉快そうに口をとがらせつつも、カウンターとしてアリスの過去を考えているかのように黙り込む。

 だが、先に考え始めていたのはアリスなのだから、当然彼女のほうから口が開く。


「こいつは小さい頃から悪ガキだったよ。元々僕たちの街はあまり豊かじゃなかったんだけど、こいつ物見遊山で見物に来る富裕層からいっつも金スってた思いでしかないや」

「……あー、想像つきますね」

「そっ首撥ねるぞコラ」


 だが、実際についてしまうものは仕方がないだろう、と苦笑いで場を濁す。

 そんな時、考え込んでいたことがまとまったのか今度はアルバが口を開いた。


「思い出した! お前いっつも動物の皮とか剥いでたよな!」

「しょうがないじゃないか。毛皮って高級品だからシカの皮をなめして売れば金貨二枚は下らないよ? 肉だって美味しかったでしょ?」

「……その言葉で思い出した。そういや俺動物の血抜きとか手伝ったことあったな」


 そう言って気味が悪そうにせき込むアルバ。

 俺からするとむしろ良く忘れていたな、とすら思っていた。

 ……いや、無理やり忘れたのだろうか。


「……正直意外でした。アリスさんにそんな過去が……」

「まあ誰にでも意外な事実はあるものさ。こいつだって初告白の相手は僕だったし」

「あーあーあーあー! てめぇ、マジ殺す! 表出ろ皮ひん剥いてやっからよ!」

「結果は?」

「ラザレス、てめぇも死刑だ! まとめて表出ろ!」

「惨敗。我ながら悪いことしたと後悔してるくらいだよ」


 ……正直、想像はしてた。

 ギャーギャーと喚きだすアルバに、大きな声で笑い続けるアリス。

 だが、そんな時ソフィアが俺に耳打ちしてきた。


「ごめんなさい、先寝ますね」

「あ、うん。おやすみ、ソフィア」


 ……少しやかましすぎただろうか。

 俺としては心地よかったのだが、元々人とかかわるのがあまり好きじゃない彼女には居づらい場所になっていたのかもしれない。


 俺はそんな彼女の後姿を見送ると、アルバは相変わらず笑い続けるアリスを放って、こちらに向き直る。


「んで、あの嬢ちゃんって何なんだよ。なんとなく、お前ん連れってことは察したけどよ」

「彼女はソフィア。その、勇者です」

「……勇者? その、異界戦争で活躍した凄い奴のことだろ? それとあいつ、何の関係があるんだよ」

「多分、血縁かと。父さんも勇者の末裔を探せって言ってましたし……」

「……義兄さんが、ねぇ」


 アルバは顎に手を当て、俺のペンダントを眺める。

 そのペンダントは、なおも変わらず赤く光っていた。


「……勇者の登場に、今日の魔女。そして、生まれ変わりの賢者様、か」

「……何か、起こるんですかね? 魔女の人も、探してたのは俺らしいですし……」

「さあな? だがまずは、そんなことよりお前のことだな」


 アルバはふっとため息をついた後、俺の肩に手を添える。


「ラザレス、お前何歳だ?」

「……八歳です」

「あの子は?」

「十歳です」

「……あぁ、やっぱりそういうことか」

「そういうことだね」


 アルバとアリスが顔を見合わせてまたため息をつく。

 ……どういうことだろうか?


「お前さ、賢者って呼ばれてた頃の記憶持ってんのは百も承知なんだけどよ、もうちょい年下っぽくできねえの?」

「……というと?」

「簡単に言うと、ソフィアちゃんはちょっとした自己嫌悪になっちゃってるんだと思うんだ。二歳年下の男の子がこんなにすごい存在だったら、普通ショック受けない?」

「そんな、たった二歳差で……」

「それをその体で八年しか生きてねえお前が言うのか? いいか、ガキってのは一歳離れてるだけで気負っちまうもんなんだよ」

「要は、ラザレス君はもう少しソフィアちゃんを信頼してあげてもいいと思うんだ。彼女、見た感じ一人で抱え込む気質の人だからさ」


 ……そういえば、俺は魔女に襲われた時、とっさに『逃げろ』と言ってしまった。

 戦力差を考えての発言だったのだが、そのことが彼女に刺さってしまったのかもしれない。


「……わかりました。俺、彼女に謝ってきます!」

「……やっぱ義兄さんの息子だわ、アンタ」

「うーん、もうこの件は本人に任せたほうがいいと思うな。僕たち老兵は去り行くのみだよ」

「だな! まあ、頑張れよ!」


 ……若干二人とも口角が吊り上がっているのは気のせいだろうか。

 俺はそんな二人を背にして、ソフィアの部屋に向かった。

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