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18 既視感

 荒地を抜け、今度は所々に青々とした雑草が地面に広がっている土地に出た。

 俺はその間、アリスに髪の毛で弄ばれていた。

 だが、俺の視線は彼女ではなく、ソフィアにあった。

 先程から、眉一つ動かさずただ外を……オレンジ色に染まってきた空を眺めている。


 アリスもそれに気づいたのか、俺に耳打ちをしてくる。


「僕に任せておいてよ。君の彼女、元気にしてあげるからさ」

「……彼女じゃないです」

「照れなくたっていいんだよ。よくわかってるつもりさ」


 アリスは何かを察しているかのようにうんうんと首を縦に振る。

 彼女の表情からは、面白いおもちゃを見ているかのようなまぶしい視線が突き付けられる。


「……そういえば、この子の名前は?」

「ソフィアです。えっと、それで俺がラザレスです」

「ああ、君の名前はさっきアルバが言ってたからいいよ」

「……そういえば、アルバさんとアリスさんってどんな仲なんですか?」


 俺は彼女に仕返しとばかりに質問を返す。

 恋仲、のように見えなくもないが、実際どうなのだろうか。


「ああ、腐れ縁さ。子供のころからこのアリスお姉ちゃんが見てないとすぐ泣いちゃう泣き虫でね」

「アリス、その口閉じるか降りるか選べ」

「……アルバさんよりも年上なんですか?」

「そだよー。アルバが18で、僕が19。昔はいろいろ世話焼いてやったもんだ」


 ……驚いた。

 ソフィアより数センチ高いくらいの彼女が、あのアルバよりも年齢が上だとはみじんも思っていなかった。


「ラザレス。お前もこいつの口車に乗せられんじゃねえよ!」


 アルバが終始不愉快そうに俺たちの口を遮る。

 ……面白そうだから後で聞くことにしよう。


 黙らせられたアリスが、また暇を持て余したのか俺の髪をいじくっていると、アルバが背中越しに口を開いた。


「さて、降りろお前ら」

「えー? まだ何も話してないじゃーん」

「違ェよ、街についたんだよ。俺はベテンブルグの旦那に手紙出してくっから、お前ら馬一晩休ませられる宿探しとけ」

「なんで辺境伯に? もしかして、辺境伯とアルバの禁断の恋……!」


 キャーキャーと腕を振りながら顔を赤くしてはしゃぎだすアリス。

 そんな彼女を無視しつつ、俺達に話しかけてくる。


「旦那には俺から言っとく。ラザレス、お前はその子の隣にいてやれ」

「……わかりました」


 俺の返事に満足したのか、アルバはふっと笑って町の奥に入っていく。

 アリスのほうも落ち着いたのか、馬の手綱を引きながら街へと入っていく。


「ところでさ、二人はこの町に来るのは初めて?」

「はい。ソフィアもそうだよな?」

「……はい」


 ……やっぱり、勇者として魔女を倒せなかったことが余程心に響いているのだろうか。

 アリスが話しかけても、眉一つ動かさない。


 そんな時、アリスがソフィアを後ろから抱きしめた。


「もう、そんなに暗いんじゃ彼氏心配してしまうよ?」

「彼氏じゃ、ないです」

「ソフィアちゃん、何があったか知らないけど、相談したいことがあるならお姉ちゃんに言っておくれよ。アルバほどじゃないと思うけど、ある程度のことは言えると思うよー」

「……お気持ちだけで結構です」


 ……どうしてここまでかたくなに話さないのだろうか。

 アリスはそっとそんな彼女から手を引いて、今度はムニムニとほっぺを動かす。


「可愛いなぁ、もう! 遠慮しないで、お姉さんの胸に飛び込んでおいでよ!」

「アリスさん、ソフィア若干引いてますよ」

「……そうかい? じゃあ、名残惜しいけどやめるとしようか」


 アリスは言葉通り名残惜しいのか、さっと頬を撫でて手を離す。

 ソフィアも解放されたことに安堵したのか、ほっと息を吐いた。


 そして、またアリスは馬を引きながら歩いていく。

 道に敷かれた砂利が心地よい足音を聞かせてくれる。

 そんな道を見守るようにできている木造の家が立ち並んでいて、暖かい印象を受ける。


 だが、そんな時あることに気付いた。

 一度も通行人にあっていない。

 砂利道の音も、俺たちの分しか聞こえてこない。


 そんな時、アリスが振り向いてニッコリとほほ笑む。


「大丈夫だよ。最初は違和感を感じるかもしれないけど、彼らは優しいから」


 そう言ってアリスは近くの策に馬をつなぎ、看板に宿屋と書かれている家に入っていく。

 それと同時にベルの音が鳴ったが、中には誰もいないように感じる。

 だが、彼女は恐れることなく、ずんずんと中に入っていく。

 中の様子としては、小さなテーブルと椅子がいくつかあり、内装は、壁がひび割れていたり、どこか荒れているように感じた。


「久しぶり、店長さん。僕だよ、アリス」

「……ああ、久しぶり。君か」


 アリスの声に、どこかおどおどした感じの声が返ってくる。

 見ると、そこには耳のとがった青年が、こちらを見つめていた。


「……お、お客人?」

「うん。僕の友達。ラザレスと、ソフィアって言うんだ」

「初めまして。俺がラザレスで、こっちがソフィアです」

「……初めまして」


 二人がお辞儀をすると、それに一瞬びっくりした後、お辞儀を返してくれる。

 ……彼の様子は、まるで何かにおびえているかのようだった。


「空いてるかな? 馬小屋と、部屋二つ」

「ああ、空いてるよ。今日は客人もいないから、自由に使ってもいいからね」

「いいの? ありがとう!」


 アリスがはしゃぎながらフードを脱ぎカウンターの横にある階段を駆け上がっていく。

 フードを脱いだ彼女のクリーム色の髪からは、柔らかい匂いが漂ってくる。

 俺は呆然と彼女の後姿を見つめていると、店主が話しかけてきてくれた。


「……き、君たちも表の馬は休ませておくから、や、休むといいよ」

「はい。ありがとうございます」


 俺は彼に頭を下げた後、ソフィアの手をつないで階段を上がり、アリスを追いかけていく。

 そんな時、俺はどこか彼に対して既視感を覚えていた。

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