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11 看破

 俺はあの後ベテンブルグに連れられ、蒸し風呂に入っていた。

 前の世界ではお湯の中に体を入れていたため、正直少し新鮮だった。

 だが、これは中々きつい。十分くらいが限界だろうか?

 それに対してベテンブルグのほうは涼しそうに微笑みながら俺を見つめている。


「さて、ラザレス君。キミに一つ質問がある」

「なんでしょうか?」

「君はこの世界のものではないのだろう?」


 ……俺は突然のことに言葉が出なかった。

 一体いつ看破されていたのだろうか。


「……俺は、両親の体から生まれてきました」

「そういうことじゃない。君の意識は六歳のラザレス君のものではない。そうだろう?」

「……いつから気が付いていたんですか?」

「君が魔女について詳しく聞いていた時だね。シアンは確かに魔女だが、そんな彼女が一切魔女について話さなかったのはおかしいと思ってね。彼女はその問題から目をそむけるような軟弱ものではない」

「それは、単に幼いからじゃ……」

「いいや、こういった差別問題は悪であると教えるには小さい頃のほうがいい。幼い頃の価値観は一生変わらないものだからね」


 ……確かに、その意見は正しかった。

 俺も、幼い頃から魔族との差別問題に目を向けていれば、あの惨事は防げたのだろうか?

 イヤ、関係ナイ。

 アノ戦争ニ、オレノ意思ナド存在シナイ。


「だけど、君は魔女についてあまりにも無知だった。きっと、これは彼女が魔女が差別されているという事実から君を遠ざけたかったのだろう。大方、君を守るために」

「……それで、何が言いたいんですか?」

「聞かせてほしい。君という存在のことを」


 ……俺という存在?

 前の世界の俺を知りたいということなのだろうか?

 答えてもいいのだろうか。

 俺はこの男を信用してもいいのだろうか?

 ヤメロ。

 コイツモマタ、利用シヨウトシテイルダケダ。


「……すいません。今、あなたを信用していいかわからないんです」

「……まあ、無理にとは言わんさ。言いたくなければ沈黙を守り通してもいい」


 やはりまだ言えない。

 この罪は誰かに打ち明けることで軽くなるわけではない。

 それに、贖罪するのは俺一人でやるしかない。

 戦争で生き残ってしまったものの罰として。


「それで、君はどういった魔法を使えるんだい?」

「……えっと、諸事情で今この魔法しか使えないんです」


 俺は腰に巻いているタオルに魔力を込め、だんだんと硬くしていく。

 そして、鉄くらいになったらいったん止めて、ベテンブルグに差し出した。


「……それは」

「はい、魔法です。今はこれしかできませんが」

「なるほど。だが、その魔法は昔親密だった人も使えてね、その応用といっては何だが……」


 ベテンブルグは俺にタオルを返し軟化させると、そのまま腕に巻き始める。

 そして、それに魔力を込めろといった目に従うと、俺の腕に巻き付いたまま硬化し始めた。


「それで武器として扱える。まあ、魔法という立場上あまり使えないが、最終手段として考えておくといい」

「……でも、俺には剣術がありますから」

「だから、最終手段だというんだ。まあ、剣術ですべてことが進むのなら、望ましい限りだがね」


 ベテンブルグはそう言って高らかに笑う。

 確かに、この世界には魔族は見かけないためか、人間に対する脅威は少ない。そのためか、人間の賊はアルバとの旅の途中何度も見た。剣を振るう場面もあるだろう。

 まあ、アルバとその賊が知り合いだったため危機には陥らなかったのだが。


「それと、質問してもいいですか?」

「何かね?」

「呪いを解く方法……とかってご存知だったりしませんか?」

「……呪い? さあ、聞いたことがないな。すまないね、力になれなくて」


 ……この人が知らないというのなら、本当に知らないのだろう。

 だが、この世界で魔法の力が戻ったとしても使う場面が限られているため、あまり深く考える必要はないかもしれない。


「そうですか。それじゃあ失礼します」

「おや、私としてはもう少し君と話したいのだがね。そう、ソフィア君のこととか……」


 また、あの少女の話か。

 この男は随分と色恋沙汰に飢えているらしい。

 だが、この男は忘れてしまっている。


「……すいません、もう限界なんです」


 この場所が、蒸し風呂だということに。



 ‐‐‐



 俺は蒸し風呂から出てメイドが用意してくれた寝間着に着替え、そのまま彼女に自分の部屋に案内されていた。

 俺の部屋は三階の突き当りにあるらしく、一階のふろ場とは反対にある。

 そのため、長い時間明度と二人で他愛もない話をしながら歩いていた。


「ラザレス様、お風呂どうでしたか?」

「とても新鮮でした。それと、ラザレスでいいですよ。俺は居候ですし」

「なら、私に敬語もいりませんよ。私はこの家のメイドにすぎませんから」


 青髪のメイドはそう言ってくすくすと笑う。

 六歳の身としては大人には敬語を使いたいが、いらないというのなら普通に話すとしよう。


「ベテンブルグさんはいつもあんな感じなの?」

「ええ。あんな感じです。ラザレスも大変だったでしょう?」

「まあ、大変だったけど……」


 それよりも、彼の頭が良すぎて無駄に緊張してしまった。

 彼の態度はどこか俺のことを知り尽くしているような、そんな印象を受けてしまう。

 もう賢者と呼ばれた存在だってバレてしまってそうな、そんな感じさえする。


「ご主人様は話好きの上、大変頭脳明晰であられますので、疲れてしまうのも無理ないかと」

「えっと、メイドさんも最初はそうだったの?」

「メアで構いませんよ。ラザレス」


 そう言ってメイド……メアは俺のほうを向きながら笑顔で名乗ってくれた。

 彼女からすると六歳の少年に話しかけているのだから恋愛感情は持っていないのだろうが、元々女性に免疫がないためこんなことでもドキドキしてしまう。


「そうですね、私の場合は……まず最初に、ナンパされちゃいましたね」

「え!?」

「最初は考えたんですけど、奥様に悪いと思ったので断っちゃいました」

「……奥様がいるの?」


 初耳だった。

 夕食の時も姿を現さないと思えば、会話にも出てこない。

 だから、てっきりいないものと思ってしまっていた。


 メアのほうも不味いことを言ったらしく、汗をかいて明らかに動揺している。

 なるほど、これは触れてはいけない話題なのだろう。


「え、えっと。ここがラザレスの部屋です。その、御用があれば、お申し付けくださいね」

「あ、ああ。わかったよ」


 俺は動揺を隠すつもりがないのか、それとも隠し切れないのかといったメアの後姿を見送った後、静かに戸を閉めた。


 ……わからない。

 俺は、誰かを信頼してもいいのだろうか。

 両親以外の、誰かを。

 駄目ニキマッテイル。

 ミンナ、オマエヲウラギルノダカラ。


「……そうだよな」


 そう呟いて、俺はベッドにうずくまり、寝れない夜を過ごした。

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