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105 秘匿

 朝が来て、俺たちはぺスウェン国王のところに呼び出された。

 勿論、要件はわかっている。

 昨夜の二人組のことだろう。


「確か、ユウとリンネだったよな?」

「はい。ユウが私と剣を交えた方で、リンネがフードの方でした」

「……リンネ、か」


 ユウの方はともかくとして、リンネの方は確実に俺たちにとって障害になる。

 それに、目を見ただけで催眠するという力を、フィオドーラが手にすればさらに厄介だ。


 しかし、それは昨夜助けてくれたぺスウェン国王にも言える。

 彼は、未来を見せるというデメリットがあるが、近くにいれば対象の相手を強制的に眠らせることができる。

 リンネならともかく、彼の力を取られてしまったら本当になすすべがなくなるだろう。


「……ラザレス?」

「いや、なんでもないんだ。ごめん、どうかした?」

「いえ、もしかして疲れてますか?」

「疲れてないけど……そう見えた?」


 彼女がうなずく。

 まあ、彼女の言う通り多少は疲れを感じていたが、何も表面に出るほどではなかったつもりだ。

 だが、知らず知らずのうちに眉間にしわでもよっていただろうか。


「大丈夫だよ。本当につらくなったら、すぐにソフィアを頼らせてもらうから」

「……約束ですよ?」

「ああ。約束だ」


 正直、ソフィアは俺が想像していたよりもはるかに強かった。

 少なくとも、先代ベテンブルグと負けず劣らずなほどに。

 そんな彼女は俺の眼をじっと見た後、にこりと笑い指定の場所の部屋を開ける。

 そこには、客室と同党の部屋が広がっていて、ぺスウェン国王は机を挟んでその中央に座っていた。

 その隣には、マリアレットがたっていて、こちらに手をゆったりと振っている。

 ソフィアも振り返しそうになったが、御前であることを思い出し、パッと手を引っ込めた。


「楽にしていいんだよ。ここは僕の部屋だからね」


 ……余計に楽にできない、とソフィアの思いが背中越しに伝わる。

 だが、少なくとも彼の隣にいる女性は、不必要なほど楽にしていた。


「さて、まあ昨日の二人のことなんだけど……。まあ、君たちも察している通り見張りの兵士を出し抜いて一夜にして消えた」


 ……まあ、察しはついていた。

 だが、続きがあるようで、彼は開いた口を閉じようとはしていない。


「だけど、見張りの兵士によると、地下牢にも拘らず急な濃霧が広がったとの報告があった。これは、囚人たちも同様の言述をしているよ」


 それも、ある程度は予想はついている。

 だが、いつも現れるあの霧の正体は未だつかめないままだ。

 ダリアのものかと思ったが、まず色が違う上に、今彼女の力はフィオドーラのものだ。


「さて、ラザレス。君はこのことをどう思う?」

「……どうって?」

「……意外と察しが悪いね。言い換えよう。この力は、魔法か、呪術か、どっちだい?」

「魔法ではありません」

「なら呪術だね」


 彼は俺の言葉を信じると、すぐに決断を出してしまう。

 流石にソフィアも違和感を感じたのか、口を開いた。


「お待ちください! まだ、呪術と断定できるには……」

「もし呪術じゃないとしても、それは今の僕たちには想像も及ばないものだろう? なら、まずはこの力を『呪術である』と仮定したうえで話を進めた方が、不必要な混乱を招かずに済む」


 ……確かに、一度あの力が何なのか仮定しておけば、今後何らかの対処ができるはずだ。

 少なくとも、ソフィアの魔法に期待できないという情報を得ただけでも十分だ。


「さて、呪術となると……次は、どこまでの範囲において力を使えるか、だね」

「……範囲?」


 ソフィアが目を丸くして声を上げる。

 すると、国王は肩をすくめて息をついた。


「……なんだ、君はイゼルの者なのに呪術は使えないのかい?」

「みんな使える力じゃないんですよ、呪術って! それに、呪術の力は秘匿されていて……」

「そう、『秘匿』されているんだ。少なくとも、この国には伝わっていない。僕だって、四年前イゼルにいた時に、偶然地価の貯蔵庫で呪術の情報を得たに過ぎないんだ」

「……そうか、ならフォルセがまずイゼルを攻めた理由は、呪術を手に入れるため、ですか?」


 俺の言葉に、彼は満足げにうなずく。

 反対に、マリアレットはどこか不服そうに口を尖らせた。


「陛下ぁ、何で陛下が知っていることを私が調べなくてはならなかったんですか?」

「……いや、騙すようで悪いけど、あれは元々監視役だったんだ」

「監視役?」


 彼女が首を傾げる。

 国王はそんな彼女に軽く息をついて答えた。


「そう。君は『呪術の力を得る』という目的を開示することで、ラザレス君の立場的有利を作り上げ、信頼させることに成功した。まあ、あの状況ではラザレス君は信用せざるを得なかっただろうけどね」

「……まあ」

「何があったんです?」

「それは、まあおいおいと……」


 ソフィアが俺の方を向くが、話すと長くなりそうだ。

 今は彼の言葉を聞き、あとで話すとしよう。


「でも、ラザレス君はもしかしたらクロかもしれない。だからといって、リクは一度裏切ってしまっていて、もう彼は信用しないかもしれない。だから、場合によっては瞬時に撤退できる君を選んだんだ」

「……つまり、まんまと私をはめたわけですか?」

「半分はそうだけど……君も気になるだろ? 呪術」


 彼の意地の悪い言葉に、彼女は押し黙ってしまう。

 ……まあ、あれが演技だとしたら、今すぐにでも劇団に入ったほうがいいとは思うが。


「さて、話を戻そう。呪術には、範囲があるんだ。僕のなら、少なくとも半径二十歩以内には相手がいなくちゃならない。リン……あー、フードの子なら、目に入っていなくてはならない」

「……そして、俺なら触れられるものでなくてはならない」


 俺の付け足しに、彼はうなずく。

 そう、魔法と違い呪術は未完成な部分が多いのだ。

 魔法なら、一度魔力を籠めればどのくらい離れていようが魔法を放てるが、呪術は範囲が限定的になる。

 昔、ダリアの呪術から逃げたことがあるが、あれが最も理解しやすい例だろう。


「これで犯人は、君たちのそう遠くない場所にいて、それでいて呪術のことを知っているほどイゼルに詳しいものに限定された。この条件を踏まえて、ベテンブルグ君。犯人に心当たりは?」

「……すみません、ちょっとわかりかねます」


 その条件だと、俺もソフィアも含まれる。

 だから、安易な発言ができないのだろう。

 少なくとも、目の前にいる彼は俺よりはるかに頭がキレる。


「まあ、範囲というのは人によってまちまちだ。その点は最悪除いてもいい。呪術を知っている者に、一度限定するとしよう」


 彼の言葉に、マリアレットが急に顔を上げた。

 そんな彼女の様子に気が付いたのか、国王が彼女の顔を見る。


「……わかってしまったかもしれない」

「君がか?」

「ええ。ラザレス、君は以前この地下牢にいた時、もう一人いただろう?」

「……リゼのことか?」

「私はあの地下牢で、『呪術』と発言したのを覚えているか?」


 彼女の言葉が、次第に理解できてくる。

 呪術のことを知っていて、今まで俺の近くにいた者。


「まさか……」


 口では否定するが、彼女が犯人なら矛盾が段々と解消していく。

 マクトリアで俺の腕が切り落とされたとき、彼女は一体何をしていた?

 それに、一人の少女がお礼をするために俺を助けに来れるだろうか?


「……決まったね。少なくとも、今はその少女が一番怪しい」

「……」

「……ラザレス」


 ソフィアが心配そうに俺の顔を覗く。

 もしかしたら今俺たちは、マクトリアという敵の手中に、自身の民たちを置き去りにしてきたのかもしれない。


「さて、マリアレット。これから馬車で彼らはマクトリアに向かうそうだ。君も同行してきなよ」

「ええ。言われなくても」


 彼は机の中から一つの紙切れを取り出し、俺に手渡す。

 そこには馬車への地図が描かれていた。


 俺はそれを受け取ると同時に、馬車への道を走り出した。

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