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99 血液

 俺達はリク達ぺスウェン騎士団とは異なり、駐兵の援護と、まだ避難していない市民の保護という役割のため、一度騎士団と別れて行動していた。

 街の中はすでに多くの建物ががれきと化し、生き残っている人は見当たらない。

 避難したか、それとも……。


 嫌な考えが脳裏をよぎり、振り払うために頭を横に振る。

 何のために俺は奴の手を取った。失いたくないから、賢者(化け物)になったんだろ?

 なら、最初から諦めたくない。諦めてなるものか。


 その時、頭上から突然水の塊が降ってきた。


「……ッ!」


 俺は隣にいるソフィアを抱え、咄嗟に横に飛ぶ。

 ……地面に残っていないところを見ると、多分魔法によるものだろう。

 だが、今ここで水をかぶるのは流石にまずい。


「クソッ、外した!」

「まだだ、撃ちまくれ!」

「我らが平等のために!」


 がれきとなった建物の上に、数人のフードをかぶった男たちが、互いを激励しあっている。

 それと同時に、今度は先ほどよりも大きな水が降ってくる。

 それを、俺は左手で受け止めて、瞬時に凍らせる。


「……え?」


 それと同時に、魔力を込めた左手でそれを勝ち割り、破片を彼らに飛ばす。

 そして、彼らに着弾したと同時に、その破片から火柱を上げる。


「が、あああああっ!」


 体中を包み込む炎に、それぞれ形容しがたい悲鳴を上げる。

 俺はそれを一瞥したのち、周りの様子を見る。


 流石に今の異常な光景に周りに隠れていたであろう者たちがどよめき始める。

 ……その瞬間、俺は気付いた。


 フィオドーラは、賢者の法ではない。


 もし彼が賢者の方なら、俺が賢者の力を取り戻したことを報告するはずだ。

 だが、彼は確かダリアの力も使っていた。

 そうなると、賢者の法ともつながっていない可能性の方が高い。


「……ラザレス、その力」

「ああ。俺の力だよ。化け物としての、本来の力」


 自嘲すると、ソフィアは心配そうに顔を見上げる。

 俺はそんな彼女に微笑むと同時に、周囲からの気配に気がつく。


 その瞬間、何かが俺は空から飛来してきた。

 それをを、歯を食いしばりながら先ほどの氷の破片で受け止める。


「ザールゥゥゥゥゥゥ!」

「……お前は」


 見ると、以前殺したはずのグレアムが、俺の持っている氷に噛みついていた。

 俺はその異常な光景に息をのんでいると、ソフィアが剣で彼の体を切り裂き、そのまま右腕を落とす。

 だが、それすらも彼は意に介した様子はなく、そのまま顎の力で氷をかみ砕いた。


「ザールゥ! てめぇ、今日こそぶっ殺す!」

「俺がザールに見えるか!?」

「うるせぇ、テメェもザールだろう!? なら、殺す! 殺してやるよォ!」


 俺は氷を手放し、それと同時に右足で彼の横腹を蹴り上げる。

 だが、彼はそれさえも踏みとどまり、俺の右足をつかみ、口に運んでいく。

 俺は掴まれている右足に魔力を流し、彼の体を凍り付かせる。

 といっても、それに気付かれたのか咄嗟に離され、凍り付いたのは彼の左腕だけだが。


「なぁ、ザール。死んでくれよ。なぁ、死ねよ。俺のためにさぁ。死んでくれよ」

「……ザールは、もう死んだ」

「『死んだ』? ハハ、アハハハ! 生きてんじゃん! おい、目の前にさぁ!」


 ……以前会った時よりも、遥かにどこかおかしい気配がする。

 俺は彼の動向に身構えていると、急に彼はうずくまり、先ほどとは打って変わって泣き始めた。


「……うぅ、ザール。なんで、俺の前に立つ。何故、俺を笑う」

「グレアム……?」

「わかったよ。殺してやる。殺してやるから、待ってろ。待ってろよぉ!」


 彼は突然懐から取り出した小瓶の中に入っている錠剤を、そのまま口に何錠か放り込む。

 すると、深い息をついたとともに、彼の眼がまっすぐとこちらを見る。


「……ソフィア。君は住民の避難を先導してくれ」

「え? でも、ラザレス……」

「いいから。大丈夫だよ」


 俺は彼女の背中を押すと、グレアムに向き直る。

 ……彼にとって、ザールというものはとてつもなく大きな存在だったのだろう。

 あるいは、彼を恨むことによって自身が認められない現実から逃避していたのだろうか。


 しかし、今彼はいない。

 だから、逃避する手段として薬を選んだのだろう。


 だったら、今殺す。殺してやる。

 俺の祖母の敵討ちではない。彼にかける、最後の慈悲として。


「こいよ、グレアム。テメェの好きなところから殺していってやる」

「……舐めるな、私は賢者の法司祭、グレアムだぞォ! グレアムなんだァ!」


 そう叫びながら、俺の首筋にかみついてくる。

 だが、俺の首筋にかみついた瞬間、歯から全身が凍り付き、それと同時に俺の右腕が彼の腹を殴打する。

 すると、彼の体はバラバラに砕け散ると同時に、死体が魔力となって消え去る。


「……動くな」


 そんな彼に気を取られていると、今度は俺の首筋から、野太刀が飛び出てくる。

 見なくとも、誰だかわかる。


「フォルセ先代国王」

「……ザールが死んだというのは本当か?」

「ああ」

「冥福を祈ろう。戦友として、彼には最大の敬意を」

「……ああ」


 俺はその言葉とともに振り向き、そのまま彼の体に左腕で殴りつける。

 だが、彼は目をつむりながらそれを避け、そのまま俺の左腕を切り落とそうと一閃する。

 しかし、咄嗟に俺が背後に飛んだため、右腕の二の舞からは逃れられた。


「……グレアムをああしたのはお前か?」

「あいつは、自分からああなったのだ。お前に殺されてから、いつもうわ言のようにザールと言っていた」

「……そうか」

「そして、もう一つ貴様に聞こう」


「お前は人間か?」

「化け物だよ。お前と同じ」


 そう言い終えると、俺は一度息をついて、俺は地面の雪に電流を流し、また水蒸気を作る。

 だが、彼は野太刀を一閃すると、彼の周りを包んでいた水蒸気がどこかへと吹き飛ばされてしまう。


「……私を雑魚と一緒にするな」

「ああ。アンタは雑魚じゃない。そんなことは、俺が知ってる」


「だから、アンタを生かしておくわけにはいかない」


 残っている水蒸気を俺の右腕に集め、剣の形の氷を作り出す。

 すると、先ほどよりも彼の表情が鋭くなった。


「それが、賢者の力とやらか」

「ああ。今度は、アンタを殺して見せる」

「ハッ、笑わせるな。貴様の剣技が、私に通用するとでも?」

「やってみるか?」


 勿論、彼の言う通り俺の剣技では到底かなわない。

 だけど、もう俺は以前とは違う。

 ……違ってしまう。


 俺は思い切り右腕を振り上げ、彼の体を一閃するが、野太刀に受け止められてしまう。

 その瞬間、俺の右腕を構成していた氷が砕け散り、俺の体は前のめりになってしまう。


 だが、そんなことは想定済みだ。

 そのまま背後に飛び、砕け散った氷片から彼の体を囲うように火柱を上げる。

 不意打ちのようになってしまうが、もとより正面から行って彼に対して勝算など一割たりともない。


 だが、彼の声は確実に俺の背後から聞こえてきた。


「……遅い」

「……なッ!?」


 そう言うと、彼の剣が俺の体を貫いた。

 その衝撃で俺は口から血を吐いてしまう。

 背中が熱い。まるで、燃えているかのように。


 だが、俺に勝ったとしても俺の魔法からは逃げられない。


「なッ、がああああァッ!」


 突然、背後から彼の叫び声が聞こえる。

 彼は、背後から貫いた際に俺の返り血を浴びていたはずだ。

 血液は、魔女にとっては魔力を作り出す大切な物質。

 つまり、予め魔力を籠めなくとも魔法に変えられる、唯一無二の『武器』でもあるのだ。


「……あんまり舐めてくれるなよ、フォルセ先代国王」

「ぐ、きさ、まァ!」


 俺は倒れている彼に近づきながら、傷跡を治癒魔法で癒す。

 だが、突然足元が揺れたような感覚とともに、俺は膝をついてしまう。

 その瞬間、俺の目の前からフォルセ先代国王の姿が消えてしまっていた。

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