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遥のチート

「・・・遅い!一体いつになったら報告に戻るんだ!」


とある貴族の自室にて、アッシェ・ベルタは苛立ちを含んだ声でそう言った。彼が待っているのは協力関係にある男、遥の抹殺を依頼したジルという男からの遥を殺したという報告だ。


予定時刻を過ぎても一向に来ない連絡にアッシェは歯軋りをして言った。


「この程度の仕事にいつまで時間をかければ気がすむんだ・・・まったく・・・!」


ドラゴンを2体も引き込んで、尚且つ遥を殺せる絶好のシチュエーションを作ったのに報告がまるでないことにアッシェは苛立ちを隠せなかった。


「僕のキャロルを害する害虫の駆除だぞ?そんな簡単なお使いさえ出来ないとはなんてなさけない・・・!」

「いやー、そもそもあの程度で殺せると思っている君の頭がおめでたいよ」


自分以外にいるはずのない部屋から返ってきた言葉にアッシェは後ろを向いてからーーー唖然として呟いた。


「時雨遥・・・」

「こんにちは。アッシェ・ベルタ・・・いや、その皮を被った偽物さん」


そこにいるのは紛れもなくアッシェが殺そうと企んでいた憎くき相手の異世界人である時雨遥本人だったのだ。

呆然としているアッシェに遥はなんてことないように言った。


「こんな手薄な警備で安心してるなんて・・・やっぱりこの国はダメだね」

「何故・・・貴様が生きてるんだ!」

「何故って、わからない?君の計画が全部無駄に終わったからだけど?」

「そんな馬鹿な・・・」


あり得ないことに呆然とするアッシェに遥は手元の大きな袋をアッシェの目の前に放り投げて言った。


「忘れ物を届けにきたついでに君を殺そうと思ってきたんだけど・・・何か遺言はあるかい?」


アッシェはその言葉を聞きながら放り投げられた袋の中身を確認するとーーーそこには綺麗に折り畳まれた協力関係にある男、ジルが安らかな顔をして縛られていた。

それを見てアッシェは失敗したことを改めて突きつけられて、歯軋りををして呟いた。


「化け物め・・・貴様が僕のキャロルを害そうとしたのが悪いのだろう!」

「化け物ね・・・まあ、好きに呼んでくれて構わないよ。どのみち君に未来はないから」

「ふざけるな!」


そう言ってからアッシェは壁に飾ってある剣を手に取って鞘から抜くとそれを遥に向かって勢いよく振り下ろした。


「おっと・・・危ない」


それを軽やかに避ける遥。癇癪をおこした子供のようにアッシェは剣を振り回すが・・・その全てを遥は余裕でかわしていた。


「くそ!死ね!!」


渾身の一撃。大きく振りかぶった剣をアッシェは振り下ろしたがーーーそれは遥ではなく地面に横たわっているジルに振り下ろされて、鮮血を放ちながらジルは綺麗に斬れた。

そんなジルの様子を見てもアッシェは剣を止めることはなかった。その目には強い憎しみがあり、血に濡れた剣を再び遥に向けて刺そうとーーー


「まったく・・・仲間の死を見てもこの反応。やっぱり君達は壊れてるね」


したが、それは遥の蹴りにより阻止された。思いっきり握っていた手を蹴りて痛みで剣を離したアッシェ。そんなアッシェの剣を遥は足に力をいれて真っ二つに折ってから呆然とするアッシェに視線を向けて言った。


「それで?これで終わり?」

「・・・!くそが!」


遥の言葉にアッシェは拳を突き出して遥を殴ろうとするがーーー遥はそれを余裕で見切ってから突き出された手を捻り、背負い投げの要領で強かに地面に叩きつけた。


「がっ・・・!」


呼吸に一瞬つまるアッシェを遥は上から抑えて言った。


「お前らが俺だけを狙ったなら別にここまでしようとは思わなかったよ」

「・・・・化け物め!貴様がチートを独占して僕のキャロルに手を出そうとしたのが悪いのだろう!」

「チートを独占ねぇ・・・じゃあ、聞くが俺のチートはなんだと思う?」


その言葉にアッシェは言葉に詰まった。遥がチートを持っているであろうことは知っていたが・・・その内容まではわからなかったからだ。

そんなアッシェに遥はため息をついて言った。


「誰からそんなホラを聞いたのかは知らないけど・・・俺にはそこまで色んなチートはないよ」

「・・・嘘をつくな!じゃあ、何故この世界にないものを作りだせる!何故こんなに強いんだ!」

「敵にそれを聞く馬鹿がいるの?まあ、これから消える君に冥土の土産に一つだけ教えてあげるよ。」


そう言ってから遥はアッシェの頭を掴んで言った。


「『神通力』文字通り神様にも通じる力のことだね。俺は自分の力の一つをそう呼んでる。万能の力。望んだことを神様みたいにできる力だとね」

「じ、神通力だと・・・」

「さて・・・君はこれから消えるわけだけど、正確にはアッシェ・ベルタに転生した君だけを俺はこの力で消すつもりなんだ。何か最後に遺言はあるかい?」

「・・・ま、待ってくれ。僕は好きな人を守るために仕方なく・・・」

「そっか・・・じゃあ、これから君が消されるもの仕方ないことだよね。俺も好きな人が害されそうになったから仕方なく(・・・・)君を消す。まあ、せいぜいあの世で後悔しなよ」

「まっ・・・」


何かを言いかけたアッシェに遥は笑顔で言った。


「さよなら・・・アッシェ・ベルタの中の人」



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