閑話 龍王の会話
ドラゴンの国、黒龍のクロの住みかよりも西にある火山にクロは訪れていた。
『赤龍、起きてるか?』
火口に向かってそう呼び掛けるクロ。すると、煮えたぎるマグマの中から返事が返ってきた。
『・・・何の用だ黒龍』
『君に話があってきたのだが・・・姿くらいみせたらどうだ?』
『ふん・・・』
クロの呼び掛けに対して赤龍は鼻をならしてからしばらくすると、火口から姿を表した。
全身が鮮やかな赤い鱗に覆われたドラゴンは翼をはためかせてからマグマの上に立った状態で言った。
『これでいいか?』
『ああ。にしても君は相変わらずこんな暑い場所を好んで・・・たまには外に出たらどうだ?』
『ふん。俺はここが好きなんだよ。それでお前はそんな下らないことを言いにきたのか?』
妙に機嫌が悪いように見える赤龍だが、普段からこんな態度なのでクロは特に気にした様子もなく言った。
『用件は一つだよ。おそらく君のところのドラゴン2体が遥の逆鱗に触れて消されたことを伝えにきたんだよ』
『・・・ほう。あの坊主が怒ったのか。原因はなんだ?』
『遥の嫁が害されそうになったから・・・かな?』
そう言うと赤龍は少しだけ首を傾げて言った。
『あいつにそんな奴いたのか?』
『最近になって結婚したんだよ。君も結婚式に呼ばれてたはずだろ?』
赤龍との面識もある遥なので、一応声をかけてはいるはずだろうと問うと、赤龍は面倒そうに言った。
『俺との再戦の話じゃないから無視したかもな』
『君はまだ遥との戦いを望むのかい?』
『当然だろ。俺に傷をつけた奴なんて他のドラゴン以外だとあいつだけだしな』
過去に一度遥と戦ったことがある赤龍は遥との再戦だけを望んでいたので、結婚式に呼ばれていても、その話を聞き流していたのだ。
そんな脳筋な思考をする赤龍にクロはため息をついて言った。
『まったく・・・少しは自分の手下がやられたことに悲しみや怒りをみせたらどうだい?』
『ふん・・・弱い奴に興味はない。それに、あの坊主が本気で怒ったならどのみち生きてるわけがないからな』
赤龍はドラゴンの中でも典型的な強さこそが正義というタイプのドラゴンなので、負けた手下には何の興味もなかった。遥が怒ったというなら、生きてるわけがないことくらい判断はつくが・・・しかし、赤龍は少しだけ不思議そうに言った。
『しかし・・・あの坊主が本当にたかだか雌のために本気になったのか?俺が知ってる坊主とはかなり印象が違う気がするが・・・』
前回遥と会ったのは約2年前。その時に赤龍は一度遥と戦って引き分けたが・・・実力的には遥はまだ余力を残しているようだったのだ。戦うこと自体があまり好きではなく、どちらかというと真面目な白龍・・・シロと気が合うような性格だと赤龍もなんとなくわかっているので、思わずそう疑問を口にするとクロはため息混じりに言った。
『まあ、そもそも彼は他人に興味がないからね。そんな彼をあそこまで変えた彼の妻は本当に凄いと思うよ』
クロが知っている時雨遥という人間はどこまでも他人に対しては興味を持たないような性格だった。どれだけ親しく見えてもどこかで他人と距離を置いてるというか・・・極力人と関わるのを避けているように思えた。
いや・・・他人を怖がっているようにすら感じたのだ。
そんな遥が一人の女性をあり得ないほどに愛したと聞いたときにはクロですら驚いたくらいだ。
遥を変えた凄い人物・・・彼の妻であるルナにクロは心から感謝をしていた。クロからすれば孫のような遥が幸せそうにしているのはクロとしても嬉しいことなので、そのことに微笑みながら言った。
『遥は変わった・・・きっと、守るものが出来たから前よりも強くなっているよ』
『ほう・・・なら、近々もう一度再戦をしなくちゃな』
クロの言葉にニヤリと好戦的に笑う赤龍。そんな彼をやれやれと見てからクロはその場を後にした。