クロの見解
ルナとこはくが穏やかに過ごしている中ーーー遥はもう一度ドラゴンの国に来ていた。本当ならルナとイチャイチャしたり、こはくが大きくなったことでやることがいっぱいあるのだが・・・その前に面倒事を片付ける必要があったからだ。
「クロ。ありがとう」
『構わないよ。私は特に何もしていないしね』
クロの住んでいる洞窟に足を運んで遥はまずクロにお礼を言った。一晩男を預かってもらったのでまずはその処理のために来たが・・・その前に遥は少し気になることを聞いてみた。
「なあ、クロ。普通はドラゴンが生まれてから人間の姿になるのにどれくらい時間がかかるんだ?」
『ふむ・・・個体により異なるだろうが、早ければだいたい2、3年くらいだろうか?とはいえ、そうそう人間の姿になろうとするドラゴンはいないからね』
「そうか・・・」
やはりこはくの成長は異常なものなのだろうと、少しだけ感じた遥。白龍であるシロの子供というのと、人間である遥とルナが育てていることを踏まえてもその成長スピードが桁違いなのはわかった。
『それにしても・・・そんなことを聞くなんてどうかしたのかい?』
「まあな。実はこはくが今朝人間の姿になって、言葉を発したんだ」
そう言うとクロはしばらく驚いたような沈黙をみせてから言った。
『それは・・・凄いな。確かに早く成長するだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く言葉を発して人間の姿をとれるほどに成長するとは・・・』
「やはり異常な成長か?」
『ふむ・・・まあ、やはり原因はシロの魔力と遥の魔力が合わさったことだろうが・・・おそらくそこまで危ぶむことではないだろうね』
「危険はないと?」
『ああ。確かに私が知る限りにおいては前例はないが・・・おそらく君の魔力と育った環境で人間よりになっているだけだろう。これから先、こはくはおそらくドラゴンよりも人間としての生き方がメインになるだろうが・・・』
そこでクロは少しだけ躊躇ったように言葉を切ってから言った。
『我々ドラゴンは人間とは違い寿命がない。それは人間としてこはくが自我を持ったなら避けて通れない道だろう・・・こはく自身がそのことをわきまえた上で人間として生きるならいいだろうが・・・もし、そのことを自覚せずに生きていくならきっと彼女は沢山の悲しみを背負うことになるだろう』
ドラゴンというのは人間にしてみれば伝説上の生き物。寿命はなく、意図的に姿を変えなければ老いることもなく、死ぬときも自然に還るので、人間とは決定的に違う生き物なのは間違いない。
こはく自身がそのことをわかっていればいいが・・・もし、こはくがそのことを理解せずに人間として生きるなら彼女はきっと沢山の辛い経験や悲しい別れを経験するだろうと、クロは言った。
そんなクロの言葉に遥はため息をついて言った。
「まあ・・・確かに何も教えずに育てたらそうなるだろうな。でも、そこを教えて導いていくのも親の役目だからな」
『親の役目か・・・』
「例え友人の子供だろうと、種族が違っても、こはくは俺とルナの大切な子供だ。子供の幸福を願わない親なんていないだろ?」
そう、シロから託されただけではなくーーーもはや、こはくは遥とルナにとって大切な娘だ。なら、遥は親としてルナと共にこはくを導いて幸せになってもらうだけだと遥は言った。
そんな遥の言葉にクロは目を細めて孫の成長を喜ぶように呟いた。
『本当に・・・君は変わったね』
「そうか?」
『昔の君ならそんなことは言わなかっただろう。これも守るものが出来たからかな?』
遥としては最近何度となく言われているその言葉に今一つ納得できてない・・・というか、よくわからないというのが正直な感想だった。確かにルナと出会ってから沢山のことがあったが・・・遥としては、ルナを大切に思ってから自分が変わったとは思っていなかった。
ただ、昔なら興味がなかったことにも、ルナのためという大義名分がついたから色々と行っているだけなのだが・・・きっと、皆はそれを変わったというのだろう。
「まあ・・・とにかく、この男は俺が処理するよ。それと・・・こいつらに協力していたドラゴンは薄い赤と青色の兄弟ドラゴンだったんだが・・・」
『ふむ・・・多分、他の龍王の末端だろう。一応伝えておくが・・・おそらく、何も言わないだろうね。ドラゴンは弱い者には一切興味を持たないからね』
「そうか・・・とにかくありがとうクロ」
そうお礼を言ってから遥は男を担いでその場を後にした。
その後ろ姿をクロが微笑ましげに見つめていたことには気付かずに遥は早く終わらせるために急いだのだった。