共依存
朝食が終わると遥はやることがあるとすぐに出ていってしまった。ただ、今回はこはくは連れて行かなかったので家にはルナとこはくの二人が残っていた。
ドラゴンの頃のこはくと二人でいる時間は何度となくあったが・・・人間の姿になってからは初めてなので若干不安だったルナだったが・・・すぐにその不安は消えた。
『ママ。こう?』
「うん。上手よこはく」
見よう見まねで服をたたんだこはくにルナは笑顔で頷いた。家事をはじめたルナの手伝いがしたいとこはくが言い出したので一緒にやっているが・・・人間の姿になったばかりとは思えないほどにこはくは器用に手伝いをしてくれていた。
まあ、こはくが器用に手伝いを出来るのはこれまでドラゴンの姿の時にルナの側でやり方を見ていたからこそ、出来るのだが・・・そんなことは知らずに二人で仲良く家事を行ったのだった。
『ねぇ・・・ママ』
「どうかしたの?」
こはくの手伝いのお陰で予定より早く家事が終わってあとはお昼の準備だけになったので二人でくつろいでいると、こはくが不思議そうな表情で言った。
『ママはパパのどこが好きなの?』
いきなりのそんな言葉にルナは不意討ち気味にフリーズしてしまうが・・・なんとか平静を装って聞いてみた。
「いきなりどうしたの?」
『あのね・・・パパがママのことを大好きなのはわかるんだけど・・・ママがパパのこと大好きなのが少しわからなくって・・・』
こはくは白龍であるシロの魔力を基盤に、遥の魔力を取り込んでいる。それはつまり、遥の一部を共有していることにもなり、結果的に自然と遥の考えなどがわかるのだ。
その遥がルナのことを大好きな理由はこはくはなんとなくわかったのだが・・・ルナが遥のことを好きなのかよく分からずにそう聞いていた。
まあ、つまり子供が親にどうして結婚したのかを聞くようなものなのだが・・・ルナはその問いに少しだけ考えてから言った。
「遥は・・・パパはね。一人ぼっちだったママを救ってくれたの。そして、ママを愛してくれた・・・だからね、ママもパパのことが、その・・・好きなの」
子供にこんなことを言うのはいささか恥ずかしいが・・・ルナとしては嘘はつけないのでそう素直に答えていた。
実際、ルナを救ってくれたのはこの世界で遥だけだった。
絶望の淵にいて、そこに温かな光をくれて、ルナに見たことがない景色を見せてくれた遥。ヒーローなんて言葉では語れないくらいに遥は格好いい。物語の王子様のようにルナを救ってくれた遥にルナは心底惚れていた。
遥の愛情が強くて普段は見せていないが・・・ルナも遥に負けず劣らず遥に惚れていた。それはきっと人からみれば依存と言われるほどに深い愛ーーー実際、ルナが今左手につけている結婚指輪だってその証拠だろう。
この結婚指輪は、パートナーと家族以外の異性に触れることができないという効果があるそうだ。普通はそれに重いと感じるのだろうが・・・ルナは嬉しくなった。
遥以外の異性に触れることなどあり得ないが・・・遥がルナ以外の異性に触れることができないというのは心底安堵を覚えてしまう。
無論、遥が浮気をすることなどあり得ないのだが・・・ルナとしてはそういう物理的な証拠があることが何よりも嬉しかった。目に見える絆というのだろうか・・・これがあれば遥は自分から離れないという若干ズルい考えもあった。
他人からみればそれはかなり歪んだものに見えるのかもしれないが・・・ルナとしては他人にどう思われようと知ったことではなかった。ルナにとって本当に大切なのは遥だけ。もちろん友人や侍女など大切な人は他にもいるが・・・ルナにとってただ一人絶対的に大切なのは遥なのだ。
こんな自分を救ってくれて、愛してくれた遥がルナにとって一番なのだ。
そんな考えを読んだわけではないのだろうが・・・その答えにこはくは笑顔で言った。
『ママもパパが大好きなんだね!』
「・・・そうね」
娘の言葉に素直に頷くルナ。遥が帰ってきたら今日はもう少し素直に甘えてみようかと思いつつ二人は和やかな時間を過ごしたのだった。