こはくの異変
「ん・・・あれ・・・私・・・」
目が覚めてからルナは自分がベッドで寝ていることに気付きボンヤリする頭で状況を確認する。隣には遥が寝ており、ルナはその寝顔を見て微笑んでからなんとなく察した。
「そっか・・・遥がベッドに運んでくれたのか・・・」
昨日の夕食の後にそのままくつろいでいたら寝てしまったルナをおそらく遥がベッドまで運んでくれたのだろう。穏やかに隣で寝ている遥の横顔にしばし見いってから、ルナは体を起こそうとしてーーー何やら自分と遥の間に大きなふくらみがあることに気づいた。
「こはく・・・寂しくてベッドに入ってきたのかな・・・」
たまにドラゴンであるこはくがベッドに侵入してくることがあるのでルナはそうだろうと思い布団をめくってーーー
「えっ・・・」
ーーー唖然としてしまった。布団をめくると、そこには女の子が一人寝ていたのだ。白い髪と幼いが整っている顔立ちはどこか鏡でみる自分の姿を幼くしたような姿にそっくりで、ルナは一瞬それが誰なのかわからずに呆然としてから、遥を揺すって言った。
「は、は、遥!この子一体・・・」
「ん・・・ルナ。どうかしたの?」
ルナの呼び掛けに遥は目をこすりながら体を起こして首を傾げてからルナの視線の先をみて、一瞬呆然としてから、こはくの寝床をみてから納得したように頷いて言った。
「そうか・・・こはくが人間の姿になったのか」
「に、人間の姿にって・・・クロさんと同じみたいに?」
「ドラゴンは一定の時期を過ぎると、そういう細かいことを覚えるらしいよ。しかし・・・やっぱりというか、ルナにそっくりだな」
遥はこはくとおぼしき子供の寝顔を見て微笑んでからその子が何も着てないことに気づいて布団をかけ直してから言った。
「とりあえず・・・ルナは朝食の支度をしてくれる?俺はこはくの服を作るから」
「わ、わかった・・・」
少し納得はできないものの、遥が問題ないというなら大丈夫だろうと思いルナは朝食の支度に台所に向かった。
そんなルナを見送ってから遥は手早くこはくの服を作った。ひとまず最低限着れるものを作ってから、あとはそのうち作ることにして遥はこはくを揺すって起こした。
「こはく。起きろ」
『ん・・・パパ?』
こはくは眠そうな表現をしながら返事をしたのだ。いつものように鳴くと思っていた遥はそれに少し驚きつつもこはくに言った。
「おはようこはく。体調はどうだ?」
『大丈夫だよ・・・なんか身体が変だけど、特に痛みとかはないし・・・』
「そうか・・・ならよかった」
そう言ってから遥は作った服をこはくに出して言った。
「とりあえず着替えだが・・・一人で着れるか?」
『着替え・・・私の?』
「そうだ。こはくが人間の姿になったから作ったんだが・・・」
『えっ・・・私が人間の姿に?』
その言葉に不思議そうに首を傾げてからこはくは自分の体を触ってから呟いた。
『本当だ・・・』
「おそらく、昨日のドラゴンとの戦いの後でドラゴン達の魔力を補充できたからだろうが・・・まさか話すことも可能になってるとはな」
遥の見立てでは昨日のドラゴンとの戦いで側にいたこはくが自然に還るドラゴンの魔力を浴びたことで、急激な成長を遂げたのだろうというものだったが・・・こはくは慣れないサイズの体を触って不思議そう首を傾げていた。
『なんか変な感じ・・・翼もないし』
「人間体のときはそうだろうな。とはいえ、おそらく元のドラゴンの姿にも戻れるだろうが・・・その姿にも慣れておく必要があるから今日はその姿でいるといい」
『うん・・・』
頷いきつつこはくは興味深そうに自分の体を眺めていたがーーー遥はとりあえず一人では無理そうな着替えを手伝うことにした。本来ならルナ以外の女性に触れられない遥なのだが、家族であるこはくにはその力は対象外なので普通に触ることができた。
まあ、もっとも・・・遥がルナ以外の女の子に興味がわくことはあり得ないので、まったく問題ないのだが・・・
『服おもしろーい』
着替えをしていると、こはくは楽しそうにそれをみて言ったが・・・遥はそんなこはくを見て微笑んだ。
「やっぱりというか・・・ルナにそっくりだな」
『ママに?』
「ああ。おそらく一番身近な存在だからだろうが・・・」
こはくの人間の姿はルナが幼い頃なら確実にそうだったであろうほどに愛らしいものだった。ロリコンではない遥でも思わず微笑んでしまうくらいに愛らしいこはくの姿に遥は昔のルナの写真がないことを少し残念に思いつつ簡単に着替えをさせてから髪を整えてあげたのだった。