覚悟
「すぅ・・・すぅ・・・」
遥の膝の上で寝息をたてているルナの頭を愛しそうに優しく撫でて遥は笑みを浮かべていた。時刻は夜の9時を過ぎたくらいの時間ーーードラゴンとの戦闘を終えてから遥はルナと共に夕食をとってくつろいでいると、いつの間にかルナが眠そうにうとうとしていたので、優しく膝枕をしてあげると、一発で眠りに落ちたルナだった。
そんな可愛いルナを見つめて遥は思った。
(俺は・・・ルナのことが好きだ)
その気持ちは何よりも強い。今自分の膝の上で寝ているこの愛らしい想い人が誰よりも何よりも好きだと言えた。
あり得ないことだが・・・もし、今日遥が殺されていたら、この想い人を失っていたかもしれない。
そう考えるとーーー遥は物凄く恐怖していた。自身が死ぬことではなく、想い人を殺されていかもしれないことに対する恐怖だ。
(相手は雑魚とはいえドラゴンを味方にひきこんだ・・・)
ドラゴンの存在を知っていて、なおかつどのような手段をとったのかわからないが、2匹のドラゴンを味方にひきこんでいた。そして、遥を呼び出して、殺そうとした。
(それに・・・あのヒロインは一体・・・)
襲ってきた男の記憶を覗いた時に見たヒロインの姿に遥は疑問を抱いていた。ゲームでの姿をなんとなく知ってはいたがーーーそこではなく、ヒロインの異様な雰囲気に遥は得体のしれない恐怖を抱いていた。
(あの男はヒロインと出会ってから、盲信的なくらいにヒロインに執着していた。それまでの人格が嘘のように・・・)
恋をすれば人は変わると言うがーーー襲ってきた男の場合、根本的に何かが違うことがわかった。それは、きっと・・・
(ヒロインのチートか・・・)
ヒロインに前世の記憶があるのはほぼ間違いないだろう。そして、男から感じた洗脳に近いほどのヒロインへの執着と、その手の魔法特有の気配。考えられるとすれば、ヒロインのチートというのがもっとも妥当なところだろう。ゲームなどであるような洗脳系のものか・・・はたまた、異性を魅力するようなものなのかはわからないが・・・
(相手は、その手の力を持っている・・・と、なればそれを踏まえて対策をとる必要があるかもしれないな)
もし、ヒロインがその手の力を持っているとしたら・・・最悪、遥の知り合いもその力の影響を受けて寝返るかもしれない。幸いというか、相手は今日の襲撃できっと遥を殺せたと思いこんでいるかもしれないので、やるなら早めがいいだろう。
「うぅん・・・はるか・・・だいじょうぶ・・・」
そんな決意を固めていると、ルナが寝言でそんなことを呟いた。夢の中でもそんな心配をしてくれているルナに遥の心は先程までの切羽詰まったものからほぐされて、ほっこりと温かくなるが・・・こんなふうに夢の中でも心配されるほどにルナの心を煩わせていることに遥は少し罪悪感を感じていた。
「ありがとう・・・ルナ」
優しく頭を撫でてそう言うと、ルナは気持ちよさそうにすやすやと寝息をたてていたので、遥はそれを見て決意をした。
(よし・・・早めにこの件はけりをつけよう)
ルナをいつまでも煩わせているのは遥としても我慢できないが・・・それとは別に、不安要素は早めに処理するに限るということもあった。まあ、早めにけりをつけて、ルナとのイチャラブな生活をエンジョイしたい遥の思いとーーールナに害をなす存在を消すという気持ちは当然のようにあった。
(俺は・・・絶対にルナを守る)
そのためなら遥はどんなことでもするつもりだ。ルナの敵になるならどんな存在だろうと消してみせる。例えルナの祖国だろうとーーールナの害になるなら許すつもりはない。
(まずは襲ってきた男の魔力の残りからヒロインの力を無効化できる道具を作って・・・あとは、最初に消すべきは、あのアッシェ・ベルタとかいう首謀者かな?)
やることはいっぱいだが、まずはヒロインの力を無効化してから、ヒロインの回りを徐々に削っていくことが先決だろう。真っ先にヒロインを消してもいいが・・・戦争になって多くの民が傷ついたらルナが責任を感じるかもしれないので、暗殺や奇襲で徐々に弱体化させていくべきだろう。
だがとりあえず今は・・・
「すぅ・・・すぅ・・・」
遥の膝の上で気持ちよさそうに寝ている想い人を愛でることに注力するべきだろう。邪魔者の排除は明日からーーーまずは目の前の可愛いルナを脳内メモリーに保存しつつ、寝顔を眺めて癒されることにしようと決めた。