電話越し
「あれ?携帯が・・・」
侍女二人と話していると珍しく携帯携帯が着信を知らせるように音を発した。それを不思議そうに見てからルナは静かに携帯を手に取り、画面を見て笑顔を浮かべた。
「遥だ・・・」
思わず頬を緩めてしまうのは愛しい人からの着信だったからだ。しかし遥から電話など今までほとんどないーーーというか、基本的にルナの側にいる遥が電話をすることはないのでほとんど初めてのことに少し驚きつつもなんとか表情を抑えて着信ボタンを押して耳の側に携帯を寄せて言った。
「もしもし遥?」
電話の最初の時には『もしもし』という言葉を使うと聞いていたので使ってみると、そこからはいつも側で聞いてるはずの遥の声が聞こえてきた。
『もしもしルナ?今大丈夫?』
「大丈夫だよ。どうかしたの?」
『うーん・・・いや、少しルナのことが心配で電話したんだけど・・・何か変わったことあった?』
何やら曖昧な感じの遥だが・・・ルナは特に何も思い付かずそのまま答えていた。
「変わったこと?特には・・・マリアとサラスが遊びに来てるだけだけど・・・」
『二人がいるのか・・・悪いがどっちかに一度変わってくれるか?』
「いいけど・・・」
不思議に思いつつもルナはこちらを不思議そうに見ている二人のうちマリアに視線を向けると携帯を向けて言った。
「マリア。遥から電話なんだけど・・・出てくれる?」
「電話とはなんですかお嬢様?」
「えっと・・・遠くの人と連絡をとる道具なんだけど・・・これに耳をあてて話してみてくれる?」
「はぁ・・・わかりました」
その言葉に首を傾げつつもマリアはルナから携帯を受けとると耳にあててみた。
「えっと・・・これでいいんですか?」
『ん?その声・・・マリアか?』
「えっ・・・そうですが・・・まさか遥様ですか・・・?」
電話というものを初めて体験しているマリアは遥の声が聞こえてきてかなり驚きの表情を浮かべていたが・・・そんなマリアに構わず遥は言った。
『なら丁度いい・・・少しルナから離れて屋内から外が見える場所に立ってくれるか?』
「・・・・色々聞きたいですが、わかりました」
そう言ってからマリアはルナに視線を向けると一礼してから部屋を出ていった。屋内で窓が見える場所ということで応接間に窓があることを思い出したマリアはそのまま応接間に入ると窓から外に視線を向けて言った。
「着きましたが・・・」
『そうか・・・上の方に何か見えるか?大きな影とか・・・』
「そう言われましても・・・」
何が言いたいのかわからずマリアは困惑気味に窓の外に視線を向けてからーーー唖然としてしまった。
遥の言う通り、上空に何やら大きな影が横切ったように見えたのだ。しかもそれは・・・
「・・・私の記憶違いでなければ、空に龍種とおぼしき影が見えました」
『・・・確かか?』
「はい・・・クロ様が去る時に一度似たような光景を見たのでおそらく間違いないかと・・・ただ、上をぐるぐる回っているだけですが・・・」
そのドラゴンの影のようなものは遥の家の付近を行っては帰っての繰り返しで・・・特にこちらに気がついている感じではなく、その付近に何かないかを探しているような感じで旋回しているようにマリアには見えた。
その答えに遥は少し安堵したような返事をした。
『そうか・・・なら、二人は今日は俺が帰るまでルナの側を離れないでくれ。いざとなったらアーカシアの別邸からアーカシア王国に助けを求めてルナを逃がしてくれ』
「・・・何か起こるのですか?」
『起こらないよ。だけど、念のためだ。』
マリアにはその言葉は本当にルナを案じていることがわかって・・・事情はわからないが少しそれに嬉しくなった。
「わかりました・・・あなたが、お嬢様の夫でよかったと思います」
『・・・?そんな当たり前のことに感謝は必要ないが・・・とにかく、俺が帰るまで側にいてくれ。頼んだ』
「わかりました」
『あ、それと・・・ルナには何も心配いらないとマリア達からも言ってくれ。それでも不安ならルナに俺のことを強く想って名前を呼んでくれと言ってくれ』
「それはいいですが・・・」
『じゃあ、頼む・・・あと、このまま切らずに携帯をルナに返してくれるか?』
その言葉にマリアは頷いてから元の場所に戻るとーーー少し心配そうな自分の主に微笑みながら言った。
「お嬢様。私への用件は終わったようなので遥様が変われとーーーどうぞ」
その言葉にルナは首を傾げつつも電話を受けとるともう一度耳もとに電話を当てて言った。
「遥・・・何かあったの?」
『大丈夫だよ。何にもないから。ただ、ルナは俺が今日帰るまで二人から離れないでくれれば大丈夫だよ』
優しくそう言う遥に・・・ルナは少し俯くと呟いた。
「・・・もしかして、私、また遥に迷惑かけてる?」
『なんでそう思うの?』
「だって・・・遥が何かを隠すのはいつも私のためだし・・・」
これまで遥が隠したことはすべてルナのためだった。またもや自分が迷惑をかけているのではと心配そうな表情を浮かべるルナだったが・・・そんなルナに優しく遥は言った。
『心配しなくても大丈夫だよ。でもそうだな・・・不安なら今日はルナがいつもより美味しいご飯を作って待ってて欲しいかな?』
「それはもちろんだけど・・・」
『なら大丈夫だよ。ルナの愛情の籠った手料理のためなら俺は早めに帰るから。まあどうしても信じられないなら今夜は少し長めにお話が必要になるかもだけど・・・どうする?』
「うぅ・・・ずるいよぅ・・・」
意地悪な質問に思わず頬を染めてしまうルナだったが・・・そんな様子を二人に見られたことでさらに可愛くなって遥が電話越しでなければ確実にベッドまでお持ち帰りしてペロリと食べたことは間違いないだろうくらいに可愛いルナがいたのは言うまでもないだろう。