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異世界人

「さて・・・これでよし」


男を縛ってから遥は一息ついた。別に疲れたわけではないが・・・色々と整理したいことがあったからだ。


『きゅーい?』

「ん?どうかしたのかこはく?」


見れば肩の上にいたこはくが、縛られた男の胸元を漁ってから何かを遥の元に持ってきた。


「これは・・・手紙か?」


見ればそれは何やら古めかしい手紙のようで・・・遥はそれを開いて思わず目を見開いた。


「日本語だと・・・どういうことだ」


懐かしい文字ーーーそれはまさしくこの世界からしたら異世界にあたる、地球の日本の文字。この世界では使われないはずの言葉に遥は眉を潜めるが・・・その後の内容を見てその疑問は消えた。


『時雨遥抹殺計画をアッシェ・ベルタ次期公爵が希望する』


アッシェ・ベルターーーどこかで聞いたような名前に遥は考え込むが・・・とりあえずその疑問を後にしてその後に続く文字を読んでいった。


『時雨遥は異世界人の可能性が高い。このままでは我らがキャロルに危害が加えられるのも時間の問題だろう。それを阻止するために何名かの龍種の取り込みに成功した。黒龍の手紙と偽ってこちらに呼び出すので、そこで始末せよ』


「・・・やっぱり、あれはクロの手紙じゃなかったのか」


なんとなく予想通りのことにため息をつく遥。手紙の主がクロではない可能性が高いことはなんとなく察していた。そもそもクロが手紙を出すこと自体が本来ならあり得ないことなので、何かあるだろうとは思っていたが・・・まさか自分の抹殺を企てていたとは思わず呆れてしまった。


『異世界人、時雨遥が死ねばおそらく魔の森の結界は解除される。そうしたら、奴の住みかから必要物質の調達と・・・悪役令嬢であるルナ・エルシア元公爵令嬢を連れ出して今度こそ殺せるはずだ。我らが姫たるキャロルを苦しめる存在は容赦なく殺すーーーー』


バキ!思わず地面にくぼみが出来るほどに地面を踏みしめていた遥。その表情はどこか笑っているように見えるが・・・全身からは殺意が滲んでいた。


「殺す?誰を・・・俺のルナを殺すだと・・・ふふ・・・」

『きゅ、きゅーきゅー!』


落ち着けーといわんばかりに必死に遥の頬を舐めるこはく。そんなこはくの努力のお陰で遥は少し落ち着くことができたが・・・殺意がなくなったわけではなかった。


「殺すね・・・いや、そもそもなんでルナが生きてることを知ってるんだ?」


そこは疑問だった。遥は別にルナの存在を他国に仄めかすようなことはしていない。とはいえ、ルナのことを『悪役令嬢』と呼んでいて、遥が異世界の人間だと知っているということは・・・


「相手も異世界出身か?」


それが妥当な考えだった。異世界出身ーーー異世界転移か転生なのかはわからいが、相手もいわゆる前世、地球の日本人としての記憶を持っていることがわかった。


『我らのチートを独占した時雨遥を決して許すな。その加護を得た悪役令嬢を決して許すな。彼女をーーーキャロルを守るのは我らの使命だ』


「チートを独占した?」


覚えのないことに首を捻るがーーー先ほどからキャロルという名前が妙に引っ掛かっていた。どこかで聞いたような嫌な響きに遥はしばらく考えてからーーーすとんと、降りてきた。


「そうか・・・ヒロインの名前だよこれ・・・」


乙女ゲーム『プリンセス・キャロル』のヒロインの名前はタイトル通りキャロルという名前だったはずだ。

しかしそうなるとーーーこの手紙の主のアッシェ・ベルタという人間と目の前に縛った男の二人は最低でも異世界人の可能性が高いということになる。


「アッシェ・ベルタ・・・アッシェ・ベルタ次期公爵・・・うーん・・・これもなんか聞き覚えあるような・・・」


何度か繰り返して呟いてからなんとか記憶の糸を辿ると、やがて現在思い出している事柄の項目から繋がってわかった。


「やっぱり・・・多分これって攻略キャラクターの名前だよね?」

『きゅい?』


首を傾げる遥にこはくも可愛らしく首を傾げていたが・・・それでも遥はなんとなくわかったことを頭の中で整理してから口にした。


「つまり、今日の呼び出しは罠で、本来は俺はこの男に殺されていて、その後でルナにも手を出そうとしたとーーー」


その考えだけで非常に頭にきたがーーーなんとか堪えて言葉を続けた。


「そして、この手紙の主と目の前の男は俺と同じく異世界出身の可能性が高くてーーーおそらく、乙女ゲームの知識も持っていると。そんなところか」


あとはヒロインだが・・・こればかりはわからなかった。手紙を読んでる限り、目の前男と手紙の主である攻略キャラクターからは異常なほどに愛されてるーーーというかもはや崇拝の域に達していそうだが・・・何をしたらここまで愛されるのか全く謎だった。もちろんルナを溺愛している遥が言っても説得力はないが・・・それはそれ、これはこれとわりきる。


「ルナは可愛いから仕方ない。うん」


それが真実なのは間違いなかった。そんな真実はともかく、家に残してきたルナが少し心配になる遥だった。いくら守りの結界がある上に手紙の感じだと相手は結界をこえることが出来ないとしても、心配は心配なので、一応確認の意味も込めて遥は携帯を取り出すとルナへと電話をかけるのだった。



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