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ドラゴンの国

「ふー・・・流石に久しぶりに来ると疲れるな」


大きく身体をほぐしながら息を吐く遥。そんな遥を労るように肩に乗った子供のドラゴンであるこはくはペロリと遥の頬を舐めてから『きゅー』と可愛らしく鳴いた。そんなこはくの頭を撫でてから遥はため息まじりに呟いた。


「まったく・・・クロの奴、わざわざこっちから出向けなんて無茶を言って・・・まあ、仕方ないとはいえルナの側を離れる時間が増えるの嫌なのに」


遥としては正直何があろうともルナの側に一秒でも長くいたいのに現実はなかなか思うようにはいかない。まあ、もしもの備えは色々してあるのでルナが狙われることは全く心配していないが・・・ただ側にいれないのは非常に不愉快なので速効で用件を片付けようと思った。


『きゅー!』

「・・・だね。こはくも早く家に帰りたいもんな」


その遥の言葉に小さなドラゴンは可愛らしく同意するように『きゅー』と鳴いた。そんなこはくに若干癒されつつも遥は先を急いだ。



『ドラゴンの国に白龍の子供を連れて一度来い』・・・そんな内容の手紙がクロ名義で届いたのは遥とルナの結婚式から1週間以上経ってからだった。

詳しくはそれ以上は書かれていなかったが・・・クロからの言葉ならあまり無下にも出来ない上に遥にこんな手紙を寄越すなんてことを考えると無視できないことなので不本意ながら遥はドラゴンの国にこはくと二人で向かっていた。

本当はルナも連れて行きたかったが・・・


「流石にこの長距離はルナにはキツイだろうしね」


ドラゴンの国があるのはこの世界の裏側ーーー異世界と異世界の狭間のような場所に存在するそれは人間からしたら絶対に行けない場所であり、異世界の恩恵を受けている遥ですら多少疲れてしまうほどに遠い場所なのだ。

転移系の魔法はドラゴンの国に張られている結界により無効化されている上に認識阻害の魔法もかけられているので索敵も困難な場所だがーーー


「うーん・・・こっちかな」


ーーー遥なら認識阻害の術式は意味をなさないので、特に問題はなかった。まあ、とはいえ転移魔法の無効化はかなり面倒なので近くまで細かい移動魔法で向かっているわけなのだが・・・普段はあまり使わない短距離の移動魔法の行使が多少体力に影響しているのは事実だった。


「はぁ・・・やっぱり、今度、移動魔法無効化を無効化する道具を作ろうかな・・・」


さらりとチートじみたことを呟いて遥は先を急いだ。

そうして何度も細かい転移を続けていると、やがて霧が深くなってきた。認識阻害の魔法の一部であるそれを頼りに進むとーーーやがて霧が晴れて、深い谷が見える絶景の場所にたどり着いた。


「ようやく着いた・・・」


そう、この場所こそドラゴンの国と呼ばれる場所なのだ。深い谷といくつもの岩肌は人間が落ちれば確実に死ぬであろう場所なのだがーーードラゴンという種族にとってはかなりいい場所らしいのだ。

足場と言えないほどに尖った岩肌を遥は器用に渡っていく。


「さて・・・確かクロの住みかは・・・」


記憶を頼りに進むとやがて上からでも確認できる程に大きな洞窟を見つけたので遥はこはくを抱き上げるとゆっくりと落ちていった。

常人なら自殺に見えそうな光景だが・・・まあ、チートという加護がある遥からすればこの程度で死ぬわけもなく、器用に地面に降りることができた。辺りには上から落ちてきたであろう何かの肉片らしきものや骨がそこいらに転がっており、思わずため息をついた。


「まったく・・・相変わらず趣味が悪い・・・」


ルナを連れてこなくて正解だと思うほどに気色の悪い光景だが、遥はそれを恐れることなく洞窟へと入っていった。


暗い洞窟の中を己の視力を頼りに進んでいくと、やがて奥の一際大きな空間の場所へと着いた。ここがクロの住みかなのだがーーー


「いないか・・・」


呼び出しの本人であるクロの姿は見えず、どうしたものかと思っていた遥だったがーーー次の瞬間、反射的に身体を横に動かしていた。

ぶん!と、先ほどまで遥がいた場所には見れば大きな剣が縦から振り下ろされており、それを使っている人物は意外そうな表情を浮かべていた。


「あれ?避けられちゃったか・・・」

「いきなり背後から襲ってきての一言がそれなのか?」

「はは、避けたんだから別にいいだろ?」


そう言ったのは若い青年だった。遥より年上に見えるその青年は剣を構えなおすとニヤリと不敵に笑って言った。


「君が時雨遥だよね?悪いけど死んでもらうよ」

「理由を聞いても?」

「もちろん、キャロルのためさ」


キャロルという言葉に遥はどこかで聞いたような気がすると思って記憶を辿ろうとするがーーーそれを許さないように男は襲いかかってきた。

右、左、上、下、まさに縦横無尽に襲いかかってくる剣だがーーー


「・・・なんで当たらないんだ?」


ーーー男の言葉通り、そのどれもを遥は悠々とかわしていた。

こはくを肩に乗せている上に、真っ暗な洞窟という最悪のロケーションのはずなのに、遥はその不利なはずの状況でも平然としていた。

次第に苛立ちを含み始めた男は剣の動きも雑になってきたがーーーそれを見逃す遥ではなく一気に肉薄すると男の服を掴むと合気道の要領で見事に男の身体を地面に叩きつけた。


「がっ!」


一瞬呼吸がつまり、男は勢いで握っていた剣を手放してしまったが、それを見た遥は男の身体をそのまま膝で抑えこんでから腕を捻っていつでも折れる状態にしてから男に質問した。


「おい、何故俺を殺そうとした?」

「・・・教えると・・・思ったか・・・」

「いや。一応聞いてみただけだ」


そう言ってから遥は男の腕をそのまま逆方向に捻り一気にへし折った。


「ぎゃ!」


いい音がしたと同時に地面に寝転がる男が苦悶の表情を浮かべていたがーーーいきなり襲われて慈悲をかけるほど甘くない遥はそのまま男の意識を奪うために眠りの魔法を使って、男を無力化してからため息をついた。


「やれやれ・・・また、面倒なことみたいだな・・・」







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