成長に安堵
「ふんふんふーん」
トントンと鼻唄混じりに手慣れた様子で具材を切るルナ。すっかり包丁の扱いにも慣れているが、具材を切るときに具材を抑えている左手につけられた結婚指輪を見ると自然と頬が緩む。指輪というものを生まれて初めてつけたが・・・思ったより圧迫感などはなく、自然と身体に馴染むような不思議な感覚に最初は戸惑いもあったが・・・それにもすっかり慣れた。
「これでよし・・・あとは・・・」
そう言ってルナは一度手を洗うと次の準備にかかる。慣れた手つきでスープを作るとそれを一口味見して・・・頷いた。
「・・・うん。大丈夫みたい。さてと・・・そろそろ来るかな?」
そんなことを呟くとキッチンに先日出来た扉からトントンというノックの音が聞こえてきたのでルナは扉を開けるとーーーそこには別荘の管理をしているマリアとサラスの二人が扉の前にはいた。
「お嬢様。本日はありがとうございます」
「いいのよ。二人には私達の家の様子を見て欲しかったし」
「はい。それにしても・・・本当に遥様は凄いですね」
挨拶をしてからマリアは扉を見ながら不思議そうにそう呟いた。
「私も魔法というものをあまりよくは知りませんが・・・まさかアーカシア王国の別邸と魔の森のお二人の家の扉を繋げるなんてことが出来るとは・・・」
「はい・・・本当に凄い方ですよね。別邸の回りにもなんだか凄い厳重な結界があるみたいですし・・・」
「・・・そうね。遥は凄いから」
遥を誉められてルナは嬉しそうに頬を染めてそう言った。そう・・・何故、別邸にいるはずの二人が遥とルナの家にいるのかといえば・・・簡単に言えば遥がルナのことを考えて魔法で別邸のある扉とキッチンにある外側へ出る使われてない扉を繋げたから現在このような状況がうまれている。
まあ、しばらくは二人で新婚さん気分を味わいたいのと、二人きりの時間を大事にするために魔の森での生活を選んだのは遥らしいが・・・遥がいないときにルナが寂しくないようにいつでも侍女二人に会えるようにそうしたことを気づいているルナは自分のためにここまでしてくれる遥にますます惚れてしまったのは言うまでもないだろう。
そんな甘々な雰囲気を察してなんとなく微笑ましげに見守っていた二人は・・・ふと、キッチンを見て首を傾げた。
「お嬢様・・・そちらの鍋は・・・」
「あ、そうそう・・・二人はお昼はまだよね?」
「はい。言われた通り本日は何も口にしておりませんが・・・」
「よかった。今、ご飯出来るから座って待っててくれる?」
その言葉に二人はポカーンとしてから・・・驚いた表情で言った。
「お、お嬢様・・・もしかして料理が・・・」
「うん。遥に習ったんだ」
嬉しそうにそう答えるルナだが・・・二人はただただ唖然としていた。もちろん、二人とてここでの暮らしで色々と学んでいるだろうとは思っていたが・・・まさか料理まで出来るようになってるとは思わず、そんな反応をしてしまった。
「お、お嬢様・・・良ければ私たちもお手伝いを・・・」
とはいえ、比較的ショックが少なかったサラスがそう提案するが・・・それに対してルナは首をふって言った。
「大丈夫だよ。あとは盛り付けだけだから。二人は座ってて」
「ですが・・・」
「・・・わかりました。ではお言葉に甘えさせていただきます」
「マリアさん・・・ですが・・・」
少し心配そうにしているサラスにマリアは首を横にふって言った。
「お嬢様が大丈夫だと言ってるのです。信じるのが私達の役目です。それにこの家はお嬢様と遥様の愛の巣なのですから、あまり無粋なことはできませんよ」
「あ、愛の巣なんてそんな・・・」
照れ照れでそう言うが嫌そうではないルナ。そんなマリアの言葉にサラスはしぶしぶながら頷いて席についた。
見慣れないデザインの家具にマリアとサラスは興味深そうに内装を見ていたが・・・ルナが料理をテーブルの上に置いたのでそちらに視線を向けてーーー思わず驚いてしまった。
「お嬢様、これは・・・」
「遥に習った簡単で美味しい野菜のスープだよ。上手に出来てればいいんだけど・・・」
そう・・・ルナが本日二人に出したのは遥に習った簡単野菜スープ。それを二人は眺めてからスプーンで恐る恐るスープを掬って一口食べる。
「美味しい・・・」
「本当に?良かった・・・」
お世辞ではなく、本当に美味しいと感じた二人だった。野菜の味がそのまま感じられるスープはどこか安心する味で・・・マリアは思わずルナに聞いていた。
「お嬢様。これはお嬢様がご自分でお作りになったんですか?」
「そうだけど・・・変かな?」
「いいえ・・・凄く美味しいですよ」
少し前まで料理なんてまるで出来ない貴族の令嬢だったルナからは考えられないくらいに美味しいスープに、マリアはどこか子供の成長を間近で見たような少し寂しいが、安心した気持ちになったのだった。