龍の贈り物
「誰かと思ったら・・・来てたんだねクロ」
用事で出掛けていた遥だったが、家のまわりの結界に大きな反応があったので急いで戻ってくると、客間に馴染み深い顔の人物がいたので思わずそう声をかけた。
そんな遥の声に反応してルナとクロは遥に視線を向けて、ルナは少し嬉しそうに言った。
「遥。おかえりなさい」
「ああ。ただいまルナ」
ルナの顔を見て表情を柔らかくする遥を見てクロは少し驚いた様子を見せてから言った。
『お邪魔してるよ遥。久しぶりだね』
「ああ。というか、クロが家を訪ねるなんてどうかしたのか?」
『遥に用事があってね。ついでに結婚したと聞いたから奥方の顔を見にきたのだが・・・』
「なるほど・・・クロの相手をしてくれてありがとうルナ」
そう優しくルナに微笑みをかける遥。そんな遥の笑顔に少し照れながもルナはお茶をいれてくると言って客間から出ていった。残されたのは遥とクロの二人・・・とりあえず遥が椅子に座るとクロは面白そうな表情で言った。
『ずいぶんと奥方にご執心のようだね』
「そうか?嫁を愛することに何も問題はないだろ?」
『嫁を愛するね・・・昔の君からは想像も出来ない言葉だけど、何が君をそこまで変えたんだろうね』
「ロバートにも言われたが・・・別に俺は変わってないだろ?」
正直、遥からすればルナへの態度をみてここまで言われることがよくわからなかった。変わったと言われるが・・・別に遥からすれば変わったというよりも大切なものが出来てそれにごく当たり前に愛情を向けているだけなのだが・・・そんな遥の不思議そうな様子にクロは苦笑気味に言った。
『そうだね。元々君は他人への興味が薄いだけで、本質はそうなんだろうけど・・・やはり他人から見れば変わったと言われるのは仕方ないだろうね』
「はぁ・・・それで?わざわざ俺の嫁をみるためだけに訪ねたんじゃないんだろ?」
『それも一応気になったことではあるけどね。本題は別にあるよ』
そう言ってからクロは何もないところから何かを取り出すとそれを遥の前に置いた。
「これは・・・タマゴか?」
見ればそれは少し大きめの何かのタマゴのようだが・・・そのタマゴが何か分からず首を傾げているとクロは言った。
『これは龍王の一人の白龍・・・シロのタマゴだ』
「シロの?」
龍王ーーーそれは龍種の中でも特別な血統と破格の力をもつドラゴンに与えられる名前で、目の前のクロ・・・黒龍であるクロも龍王の一人ではあるが、何故クロが白龍であるシロのタマゴを持っているのか分からずに首を傾げた。白龍であるシロとも一応知り合いではある遥だが・・・しかし、何故本人ではなくクロがそのタマゴを持ってきたのだろうと思っているとクロは表情を変えて言った。
『実はな・・・先日、シロが殺されたのだ』
「殺された?しかもシロが?」
信じられない言葉に思わず眉をひそめる。冗談ではなく強い白龍のシロが殺されたというのはあまりにも現実味がなく遥がそんな反応をするのも仕方ないことだった。
ドラゴンには寿命という概念はない。ドラゴンが終わる時は、基本的には誰かに殺されるか、自らの体を自然と一体にさせて自身が自然に溶け込むことだけなのだが・・・白龍であるシロを殺せる存在などこの世界にはほとんど存在しない。遥であれば出来なくはないが・・・むろん理由もなしに知り合いを殺すことはしないので、だからこそ余計に表情が固くなる。
『相手はドラゴンスレイヤーの剣を持っていたからね。幸い私が隙をついて殺したが・・・』
ドラゴンスレイヤー・・・なんとなく存在は知っている。ドラゴンを殺すことに特化した剣だという。ただ、それを使える人間はこの世界には存在しないだろう。ドラゴンスレイヤーの適正はかなり限られた条件な上に、普通の人間なら持つだけで身体を焼かれて死に絶えるだろうからだ。それを無視して使えるとなると、遥と同じように異世界から転移、または転生した人間だろうが・・・どのみちクロが殺したのなら問題はないだろうが・・・
「・・・それで?なんで俺のところにシロのタマゴを持ってきたんだ?」
『シロからの最後の頼みだったからだよ』
「シロの?」
『遥にこの子を託したい・・・そう死に際に言われてしまえば私が反対する理由はないからね。迷惑かもしれないが・・・友人からの最後の頼みとして受け取って欲しい』
シロとは確かに友人ではあったが・・・でもだからこそ同じ龍種であるクロではなく遥に頼んだことが気になるが、流石にこれで断ることは出来ずに遥はため息をついて言った。
「わかったよ。それで、このタマゴはあとどれくらいで生まれるんだ?」
『2、3日くらいかな?よろしく頼むよ』
そんな感じに少し厄介なことを押し付けられたが・・・流石に友人からの最後の頼みを無下にするほど鬼ではないので遥はため息をつきながら頷いた。
そうこうしているとルナがお茶を持って戻ってきたのでそのあとはルナの可愛さについて遥が語り、それをルナが恥ずかしそうに止めるて、それを孫をみるように温かく見まもるクロという図ができたが、和やかに時間は過ぎた。