思い・・・出した
「うーん・・・」
ルナと暮らし初めてから3日・・・時雨遥は鍋をかき混ぜながら考えこんでいた。
今晩の夕食のメニューに悩んでいるわけではなくーーー彼が考えているのはルナのこと。
ここ数日彼女と生活をともにして遥は頭の角に引っ掛かりを感じていた。あと一息で出てきそうなんだけど出てこないもどかしい感覚ーーー何を忘れているのか遥は時々暇をみつけては考えているんだが・・・
「全く思い出せないな・・・」
何か重要なことのような気がするのだが・・・ルナの壮絶な話を聞いてから何だか似たような話を聴いたことがあるような気がすると常々思っているんだがーーー
「婚約破棄ねぇ・・・」
そもそもにして元がただのオタク学生である遥からしたら婚約どころか女の子との浮いた話一つないので馴染みがないのは当たり前なのだが、しかし似たような話をどこかできいたような気がするこの不思議な感覚・・・
(婚約破棄・・・そういえばラノベでそういうのがあったよな)
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した主人公がバッドエンドを回避する話をなんとなく思い出すーーー
「ん?乙女ゲーム・・・」
ふと、そこに引っ掛かりを覚える。
乙女ゲーム、悪役令嬢、そしてルナ・・・・
「あ」
そこで遥は思い出す。
「そうか・・・どこかで聞いた話だと思ったけど、そうだったんだ・・・」
思い出せなかったのも当然だと内心で納得をする。
「俺が昔やった乙女ゲームにそんなのがあったんだよな確か・・・」
懸命に記憶に糸を手繰り寄せていく。何しろやったのはこの世界にくるより前だ。確かそう・・・ラノベで乙女ゲームに転生した悪役令嬢ものを読んでなんとなくの興味で買ってみた乙女ゲー・・・確かタイトルは『プリンセス・キャロル』だったかな?
内容はど直球で、主人公であるキャロルが攻略対象と恋をするんだけど、そこに立ちふさがる恋のライバルというか当て馬の悪役令嬢ーーーそのうちの一人の名前がルナ・エルシアという名前だったんだ。
しかも・・・
「確か夜会で婚約破棄してたんだっけ?」
攻略の有無に関わらずルナとの婚約破棄は必須のイベントとしてあったので、王子以外の他のキャラクターの攻略の時もスキップして読んだ記憶がある。
まあ、そもそも禁断の恋というか・・・婚約者いる相手にアプローチかける主人公に若干抵抗を覚えたけど、皆そういうのが好きなんだろうと思ってスルーしてた記憶がある。
そう考えると、最初にルナを発見した時に覚えた妙な既視感にも納得がいった。ヒロイン以外で出てくる希少な女の子キャラクターだった上に、キャラデザがかなり気に入って同人誌を書こうとしたくらいだったもんな。まあ、一時の盛り上がりですぐに冷めたから忘れてたけど・・・。
「流石に詳細なストーリーは・・・思い出せないな」
メインである王子のルートは確かにやったけど・・・ぶっちゃけ俺様系の王子にイラッとして半分くらい流し読みして「イイハナシダナー(棒読み)」といった感じに処理した記憶があるのでダメだった。
しかしそれにしても・・・
「だとしても・・・ルナはなんで婚約破棄されたんだ?」
ゲームのルナは確かに嫌がらせをしていたから婚約破棄されるのはなんとなく納得がいったけど・・・本人の話ではそもそもヒロインの名前すら知らないようだったし、何よりあんなに優しい子が嫉妬からそんな幼稚なことをするんだろうか?王子に惚れていたなら納得がいかないこともないが・・・
「・・・いや、そんな感じではなかったよな」
何よりルナに婚約破棄を突きつけた馬鹿王子なんかにルナが惚れる筈がないだろうとなかば無理やり決めつける。まあ、それ以外でも思うところはある遥だったが・・・そこで怪しくなってくるのは当然ーーー
「ヒロインが転生者パターンか・・・」
一番高いであろう可能性がそれだろうと遥は考える。
何しろ異世界転移を体験した遥がこの場にいる以上異世界転生している人間がいてもおかしくないだろう。そう考えてからーーー遥は徐々に頭にきていた。
あんな可愛いくて優しい子にこんな酷い仕打ちをした連中も、誰一人として彼女に手を差し伸べなかった連中も・・・どちらも愚者には変わりないが、いっそのこと今から国に行ってそいつら全員を皆殺しにしてこようかと考えてからーーー遥はため息をついた。
「いや・・・きっとルナはそんなこと望んでないだろう」
ここ数日一緒にいて彼女のことを多少なりとも理解できてきた遥には彼女がそんな報復を望むようなことはないと断言できた。
むしろそんなことをすれば好感度マイナスになりかねないと本気で思い、しかしバレなければーーーと考えてから頭を一度叩いて思考をリセットする。
「ダメだな・・・肝心なのはルナのことだ」
そう、そんなルナの価値をわからない連中なんぞよりもどうすればルナが少しでも幸せになれるかを考えないといけない。
おきてしまったことよりもこれからのことを・・・未来を見据えて行動するべきだろう。
「さしあたっては夕食をルナ好みのものを作って好感度を上げることにするか」
そう考えて遥は調理を再開した。