才能
「ただいまー」
ここ最近になり慣れてきたその台詞を言うとエプロンを着けたルナが出迎えてくれた。
「おかえりなさい遥」
「うん。ただいまルナ」
誰かに出迎えてもらえることの嬉しさと、エプロンを着けて出迎えてくれたルナの新妻感満載の愛らしさに思わず笑みを浮かべてしまう遥。そんな遥の笑顔に首を傾げながらもルナは内心遥が帰ってきたことに嬉しさを感じつつもそれを表情に出さないように言った。
「ご飯もう少しで出来るから少し待っててね」
まあ、そんなルナの内心をも見抜くことが出来るほどにルナの心を深く理解している遥はなんとなくそれがわかりつつもその言葉に嬉しそうに言った。
「ありがとう。ルナのご飯美味しいから楽しみだよ」
「まだまだ遥より下手だけどね・・・」
「そんなことないよ」
謙遜するルナだが、現時点でもかなり料理の腕は向上している。少し前まで全くの素人・・・どころか全くわからない貴族令嬢だったルナがここまで料理の腕が上がったことに夫としてかなり鼻が高い遥はそれを惜しみなく伝えるが・・・やはりどこかまだ納得できていないような様子のルナの頭に手をおいて優しくなでて言った。
「ルナは本当に凄いよ。こんな短期間でここまで料理上手になるなんて才能があるんだと思うよ」
「私に料理の才能なんて・・・」
「うん。料理の才能ではなくて・・・お嫁さんの才能かな?」
「お、お嫁さんの才能?」
「正確には、俺専用のお嫁さんの才能だよ」
そう言われてルナはお嫁さんという単語に照れて顔を背けるが・・・その横顔に嬉しそうな笑みが隠しきれずに浮かんでおり、そしてそんな可愛い反応のルナを遥が放置するわけもなく結果的に遥は反射的にルナを抱き締めていた。
「は、遥?」
戸惑ったような声を出すルナだが、遥に抱き締められるのが嫌なわけもなく、それを自然に受け入れており、そんなルナに心底愛しそうに遥は言った。
「大好きだよルナ」
「・・・!?い、いきなりどうしたの・・?」
毎日のように言われている言葉なのだが・・・遥のそれは何度聞いても慣れないような嬉しさを感じるルナ。おそらく遥の真剣な様子や、心からルナを愛しく感じているような行動からもたらされるのであろうが・・・そんなルナの様子を可愛く感じつつも遥は優しく微笑んで言った。
「好きな人に好きだと言うのは当たり前のことだよ。ましてルナがまた可愛い反応するからついね・・・」
「か、可愛いって・・・」
ぼっ!と顔が赤くなるルナ。今までの人生において人から可愛いと言われたのも面と向かって愛を囁かれたのも遥だけなので比べようもないが・・・何度言われてもやはり慣れることがなく初々しい反応をしてしまう。
「ルナは俺の可愛いお嫁さんだ。そんな可愛いお嫁さんを愛することは別におかしくないでしょ?」
「わ、私は可愛いくなんて・・・」
「可愛いんだよ。ルナは世界一可愛い。でも俺の言葉が信じられないようなら仕方ない・・・別の方法で納得してもらうしかないかな」
「べ、別の方法?」
恐る恐るそう聞いてくるルナに・・・遥は優しい笑顔で言った。
「もちろん言葉がダメなら・・・行動で示すだけだよ」
その言葉にルナはなんとなくこれから起こるであろう行動が読めてしまいーーーまあ、嬉し恥ずかしいイチャラブ展開になることが読めてしまったのでなんとか逃げるための口実を作ろうと口をひらく。
「で、でも私まだ夕食の準備の最中で・・・」
「多少遅れても大丈夫だよ」
「で、でもでも、遥も疲れてるだろうし・・・」
「可愛いルナが見れるなら俺はすぐに元気になれるよ」
「えっと・・・あとは・・・」
完全に逃げ道が消えてしまうルナ。別に遥とイチャイチャするのはルナとしては嫌ではないどころかむしろ嬉しいのだが・・・こんな展開の時の遥はルナが涙目で恥ずかしがるまでルナを離さないことが容易に想像できてしまいーーーそんな少しSな遥のことが好きではあるルナだが、しかしこのままでは本当に夕食が遅くなってしまいかねないのでなんとか逃げ道を探そうと視線を泳がせるが・・・そんな可愛い反応をすでに楽しみ始めている遥はわざと少し困ったような表情を浮かべてみせて言った。
「ルナは俺とイチャイチャするのは嫌かな?」
「い、嫌とかではなくて・・・わ、わかったから。もう大丈夫だから」
「本当に?でもルナはまだ本当に理解してるかわからないし・・・これは少しお仕置きーーーもとい、行動で示さないといけないよね」
明らかにお仕置きと言われてしまったがそんなルナを逃がさないように遥はルナをお姫様抱っこで捕まえて部屋へと消えて行った。このあと二人の間に何があったか・・・説明不要ではあるだろうが、強いて言うならひたすらにイチャイチャして過ごして夕食の時間が遅くなってしまったとだけ言っておこう。
もちろんルナが嫌がることはしない遥だが・・・可愛いルナに我慢出来るかどうかは別の問題なので、紳士な遥は優しくルナに丁寧に説明したのは言うまでもないだろう。