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愛しいから

「ここ最近遥の様子がおかしいような気がするの・・・」

『はぁ・・・』


電話をかけているルナのどこか真剣な様子に、若干何事かと思った相手のアーカシア王国第二王子の側遣え&婚約者のマイヤは生返事をする。別にいきなり電話をかけてきたルナに唖然としたのではなくーーー単純に、何と答えればいいのかわからずにそう返していた。

着々と遥がルナのために準備をしていることを知っているマイヤからすればどこまで言っていいものか考えものだが・・・遥に固く口止めされているのを思い出して少し考えてから言った。


『とりあえず・・・私に相談するよりも直接遥さんに聞いた方がいいのでは・・・?』

「それが・・・全然教えてくれないの」


遥が毎日忙しそうに出掛けていることに気づいたルナが質問しても返ってくる返答はいつも「そのうち教えるからまだ内緒だよ」というはぐらかした答えと優しげな微笑みのみ・・・そこから踏み込んで聞こうとするといつも遥は自分のペースに巻き込んで、気がつくと何故か遥とイチャイチャしていてはぐらされてしまうというなんとも甘々な展開をなんとかするためにルナは現在、こうして不馴れな携帯電話で友人であるマイヤに相談しているのだが・・・


「マイヤなら何か知っているかと思って・・・」

『うーん・・・とりあえず遥さんにも何かお考えがあるのでしょうし、遥さんから何か言われるまでは待った方がいいのではないでしょうか』

「でも・・・遥が今忙しそうにしてるのって、多分また私のことだと思うし・・・」


これまで遥と生活を共にしてきて、遥が隠し事をするのは初めてのことだし、何よりその原因がまた自分だったら申し訳ないという気持ちでいっぱいのルナーーーなんとも言えないが、もどかしい気持ちが隠せずに友人に電話をして少しでも手懸かりを得ようという懸命な様子に若干乙女心を刺激されつつもマイヤは宥めるように言った。


『遥さんが頑張っているのがルナさんのためなら、黙って待ってあげるのもいい奥さんの甲斐性ではないでしょうか。それに・・・』

「それに?」

『好きな人のために・・・ルナさんのために何かを頑張っている遥さんのことを私達がとやかく言うものではありませんよ。何があっても旦那のことを信じて待つーーーそれが私達女に出来ることですよ』

「はい・・・」


そこで電話をきってからルナはベッドに寝転んでため息をついた。なんとなくマイヤの言うこともわかるルナだがーーーそれとは別に、やっぱり遥が自分に隠し事をしていることがなんとなく気に入らないという気持ちが小さな棘のように刺さっていた。


(私・・・どうしちゃったのかな?)


遥だって人間なんだし、隠し事の一つや二つあることは当たり前なんだろうが・・・それでもそんな気持ちになってしまうことに疑問を感じる。


(遥に出会うまでこんなに色んな感情があるなんて知らなかった)


遥に出会ってからルナの心はカラフルに色づいた。それは本当に様々な感情ーーー喜怒哀楽はもとより、誰かを好きになることの喜びと悲しみ・・・幸せな気持ちと不安な気持ちが混じったようで、でもそれすらも全てひっくるめて遥のことが好きだという気持ちーーー底なしの穴に落ちているようにルナの心は遥に深く染まっていく。


(遥に出会ってからどんどん私が私じゃなくなるような不思議な気持ち・・・変だけど嫌じゃないようなよくわからない感覚・・・)


溢れる気持ちは大波のようにルナの心に波紋を呼びーーーそこまで考えてため息をついてからルナは飲み物でも淹れて気分を変えようとキッチンへ向かった。


「あれ・・・遥?」


その途中ーーーリビングを通ると、ソファーの上に遥がいるのがわかった。帰ってきたいたことに驚きつつもルナは遥に近づくが・・・いつもならルナが近付くと必ず気配を察知して先手を打ってくるはずの遥が全く反応しないことに疑問を抱いてそっと横顔をみると・・・


「寝てる・・・」


すやすやとソファーに寄りかかりながら眠る遥の姿が。いつもならこんな時間に寝てることがない遥なのだが・・・


(疲れてるのかな・・・)


ぐっすりと眠る遥の横顔をしばらく見つめていると、ルナはなんとなくイタズラ心を刺激されて遥の無防備な寝顔にゆっくりと手を当ててみた。


「すぅ・・・すぅ・・・」


最初は軽く触れるくらいに、そして徐々にそれを強くしていく。


(遥・・・寝顔が可愛い・・・)


隣で毎日一緒に寝ていても、いつもは自分の寝顔ばかり見られて恥ずかしい思いをしているルナは無防備な遥の寝顔にしばしみとれてから・・・少しくらいなら動かしても大丈夫だよねという気持ちでそっと遥の隣に座るとそのまま遥の身体を自分の方へと倒してーーー膝枕の体勢を取った。


「すぅ・・・すぅ・・・」


静かに寝息をたてる遥の頭を優しく撫でるルナーーー遥の頭を撫でてルナは心から遥のことを愛しく思った。



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