原子のメッセージ
空を超えて,
ラララ 星の彼方.
君がいつも口ずさむ歌.
私が「ほら,アトムが飛んでいるよ.」と青空を指差したから,通り過ぎる英雄を二人で眺めた.
空を見つめて,静かに笑う君の横顔.
私が恋をした人.
私が愛している人.
今では少なくなった,人類の一人.
AIが発達してアンドロイドが増え,人類だった人々の多くは意識をデータ化し,仮想世界で暮らしている.
現実世界を保つために,そして仮想世界を壊さぬために,アンドロイド達はそれまで人類がやっていたように働いている.
「人類は現実世界に殆ど居なくなってしまったけれど,そんな中で互いに人類である僕と君が出会えたのってとっても素敵だよね.」
真っ直ぐ私を見て君が言った.
「本当に出会えて良かった.好きだよ.」
「ありがとう」
と私は返す.
死ぬまで一緒にいようねだなんて,他人が聞いたら引きそうなセリフだったけど,君の愛をとても深く感じて嬉しかった.
でもごめんね.
死ぬまで一緒にいれないよ.
私は死にはしないから,
私は老いもしないから.
ずっと隠してきた.
私もみんなと同じアンドロイド.
私にプログラムされた任務は,
『地球最後の人類に愛されること』
本当はもう,人類は君一人だけ.
でもそんな残酷なこと,私には言えないよ.
私が人類じゃないと分かっても,君は私を変わらず愛してくれるのかな.
【警告】
【バッテリーが不足しています.】
【直ちに交換して下さい】
バッテリーを交換するの,忘れてた.
今まで一度も忘れたことなかったのに,なんでだろうね.
近頃ずっと,君のことばかり考えていたからかな.
恋愛は甘くて,甘くて,甘過ぎてちょっとムッとしちゃうけれど,君がくれたこの特別な感情は,機械の私には勿体ない大切な宝物.
私の正体を知って,君の愛が憎しみに変わり,私をスクラップにしたとしても,ただの鉄屑になったとしても,君を愛し続けるよ.
「あ,アトムが帰ってきたよ.」
空を見つめて君が言う.
「あのさ.」
そう声を出して.
あぁ,もう体が動かないや.
私を君が見つめてる.
いつもいつも,言えなかったけれど,
プログラムなんかじゃなくて,
最後に心から好きだよって,
ただ一言,それだけ言いたかっ
【バッテリーを交換して下さい】