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ロリコン教師は魔法で世界を救いたい  作者: ぺぐしる
第1章 ユリの薫る街
7/21

06 ロリコン、相談に乗る。

本編第6話です。


領主に身元がバレたアリオくん。

彼はこの先、どうなってしまうのでしょう。

「相談相手…ですか」


俺は、ユリの花入りゼリーを口に運びながら尋ねる。


「そう。相談相手です」


イツキさんは、左手でじゃんけんのチョキの手を作る。


「現状、僕の懸念材料は2つです」


「それについて、詳しくお聞かせ願えますか」


「勿論。そのつもりですよ」


イツキさんはスプーンを手に持ち、話し始める。


「一つは、私の娘…リリアのことです」


「…と言いますと、審査での一件…可能性が見えない、ということでしょうか」


イツキさんは首肯する。


「あの審査はもともと、私が鑑定魔法を使って個々の能力を総合的に判断し、将来的にどのような進路が予想されるかを本人や保護者の方にお伝えする、という趣旨のものです。ところが」


「リリアの場合、何らかの要因によって鑑定魔法が通じない、と」


「あるいは、リリア自身に何らかの問題があるという可能性も」


「だから、私にその問題を排除させたい、そういうわけでしょうか」


「ははは。あなたは頭が切れる。考えていることを全て読み取られているみたいだ」


イツキさんは笑顔を見せ、ユリの花入りゼリーを口に運ぶ。


「無理に探せ、とは言いません。一友人として、リリアを助けてやって欲しいんです」


「僕はリリアの父親です。…父親は、いくら頑張っても友達にはなれない」


「父親にしかできないことがあるのも、父親ではできないことがあるのも重々わかっているつもりです。だから、元教員の貴方に、リリアを託したい」


それは、子供のことを想う父親の心からの願いであり、悲痛な叫びでもあった。

子供のことが気がかりだ。その一心で、元教員の俺を頼っているのだろう。

俺を見つめるその顔は、紛れもなく父親の顔だった。


だから俺は、アリオではなく、有岡真咲として、イツキさんに尋ねた。


「イツキさん。気持ちはよくわかりました。…しかし、私は生徒に「ロリコン教師」なんて渾名をつけられた人間です。娘さんに手を出さないとも限らない。それでも私に、娘さんを託したいと思いますか?」


普通の人間…もとい、元いた世界のほぼ全ての人間は、「ロリコン」に対して非常に偏った見方を持っていた。

だから俺は職を失い、居場所を失い、死を選んだ。

イツキさんは…本当に俺に大切な娘さんを託してもいいというのだろうか。


「今の君は5歳児。リリアとは同い年なのだから、リリアに欲情したって何も問題はないでしょう。それに」


イツキさんは一度深呼吸をすると、受付おじさんスマイルを繰り出し、言った。


「リリアに何かあったら、一族郎等皆殺しにするだけですから」


心臓が止まりそうになる。


「冗談ですよ」


冗談になってない。心臓に悪い。

リリアには絶対に手を出さないと誓おう。


俺は、気持ちをリセットしようと、話を次に移す。


「もう一つの懸念材料というのは」


「マチちゃんです」


先ほどの笑顔とは打って変わって、深刻そうな表情になる。


「…アレは、非常に危険だ。リリアの問題よりもずっと深刻で、根が深い」


俺も、ゼリーを食べるのをやめる。

ここは切り替え時だ。


「マチちゃんは…煉獄魔法の素質を持ってる」


煉獄魔法。

別名、世界(ムンディ・)更新魔法(レノヴァーツィオ)

有史以来、最大最強の破壊力を持つ魔法として君臨し続ける魔法。

煉獄魔法が原因で破滅した国はいくつもある。

当時世界最強と謳われた国ですら、煉獄魔法の圧倒的火力の前に為す術もなかったという。

逆に言えば、煉獄魔法を使える兵士がいれば、その国は言うまでもなく世界最強の国家であるわけだ。


しかし、煉獄魔法は、飼い主にも平気で牙を剝く。

煉獄魔法の暴走によってその身を滅ぼした魔導士も国家も少なくない。

煉獄魔法の素質を持つ者はおよそ100年周期で現れるが、イツキさんの独自調査によるとここ300年以上も素質を持つ者は現れていない。

つまりそれは、マチが300年分の力を持っていたとしても不思議ではない、ということ。


ある宗教の聖書には、煉獄魔法の記述と思しき一節がある。


 “神の一薙ぎが木々を薙ぎ払い、家々を吹き飛ばし、地獄の炎でもって我らの大地を焼き尽くした。

 そして神は、戒めの毒を我らの大地に与えた。草花は枯れ果て、木々は朽ち、二度と芽吹くことはなかった。

 我らは光を失い、病に倒れた。”



「物騒な話ですね」


「僕は…マチちゃんとどう接して良いかわからない」


イツキさんはため息をつき、続ける。


「領主としての僕には、領民を守る義務がある。そのためには、マチちゃんを村から追い出すのが正しい選択なんだと思う。でも、人間として、人間をモノみたいに扱って良いはずはない」


俺は黙って聞いていた。


川口樹さん。

この人は間違いなく良い人だ。

良識もある。

まさに理想的な人間だろう。


でも、領主としては半人前以下だ。


ここは平成日本じゃない。


検査機器もない。

隔離施設もない。

その上相手は大量破壊兵器になる才能を持っている。


平成日本の常識を持ち込んじゃいけないこともあるはずだ。


ちびっ子一人の命と、領民全員の命。

どちらに価値があるかなんて、一目瞭然だろう。



しかし、領主はこの人だ。

この人がマチを追い出さずに対処したいと言ったら、俺はその枠の中で最善の方法を考えて行動するしかない。

領主の意思に背くわけには行かないのだ。

…殺されたくないし。


「俺に、10年ください」


「アリオくん…いや、有岡さん。何をなさるおつもりですか」


「10年間で、なんとかしてマチが煉獄魔法を完全に操作できるようにします。有事の際には、俺の魔法で、リリー村を、マチを守ります。だから、俺たちが15歳…成人するまでは、リリー村に居させてください」


「その後はどうするつもりですか」


「その時は、マチがどうしたいかを聞いてあげてください。その時には、この村にとって無害な存在になっているはずです」


「わかりました。こちらでも解決方法を色々と探ってみます。有岡さん。宜しくお願いしますね」


「領主様。俺は、ただのアリオですよ」


イツキさんは、ふふっと笑うと、立ち上がった。


「そうだね、アリオくん。じゃあ家まで送るよ」


そう言って、イツキさんが手を差し出す。


「ありがとうございます」


俺は、イツキさんの大きな手のひらを握って、家路についた。


ムンディ・レノヴァーツィオ、強そうですよね。(こなみかん)

これはラテン語で「世界の更新」という意味です。そのままですね。

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