05 ロリコン、身バレする。
本編第5話です。
お願い、身バレは避けて有岡くん!あんたが今ここで身バレしたら、今後の人生はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、あんたはまだ生きていられるんだから!
次回、「ロリコン、身バレする。」 営業スマイル、スタンバイ!
イツキさんの演説が終わると、子供達は親に連れられて家へと帰っていった。
「アリオくん、ちょっといいかな」
イツキさんは、俺を呼び寄せる。
「君と少し話したいんだ。魔法使いなんてそう出会えるものじゃない。今後の参考にさせて欲しいんだ」
…俺は何か怪しい行動をとったろうか。仮にそうだとすれば非常にまずい。
イツキさんが何を考えているか分からない以上、俺の出自を知られるのは得策ではない。
相手はリリー村の土地と領民を治める領主。
領主の一声は、領民にとって絶対服従の命令。拒否権などあるはずもない。
なぜなら、領地も領民も、領主の持ち物だからだ。
使い捨てのカメラを処分するように、人間だって処分する。
それは歴史が証明していることだ。
俺が無力な村民である以上、領主に楯突くことは絶対に回避しなければならない。
…最優先事項は保身だ。
死んでは何もできない。死人に口無し、だ。
生存を確保した上でいろいろ探りをいれる。
「ロビン、チエリアさん。アリオくんは僕が送って行く。君たちは先に帰ってて」
イツキさんに促され、両親は先に家路につく。
「イツキくんはこっちね」
イツキさんは俺を【面談室】に迎え入れ、席に着くように促す。
失礼します、と声をかけ、席に着く。
「君は礼儀正しいね」
「両親からそういう風に教えられていますから」
「そっか」
彼は俺にボードと紙、それからボールペンを渡す。
「楽にしていいよ。アンケートに協力して欲しい。書きたくないところは書かなくていいから。空欄埋めながら待っててね。…僕はゼリー取ってくるからさ」
そう言って彼は部屋を後にする。
ボールペンをノックしてペン先を出すと、俺はアンケートに目を通す。
アンケートは実に簡単なものだった。
名前。年齢。職業。家族構成。それから恋人の有無。
これならば全て埋めても問題なさそうだ。
名前。
アリオだ。
年齢。
五ちゃい。
職業。
…無職、って書いておくか。
家族構成。
父と母。それ以外は知らない。
恋人の有無。
いない。
全て埋め終えたところに、お盆でゼリーとスプーンを2組ずつ持ったイツキさんが戻ってくる。
「あ、書き終わったね。お話も聞きたいんだけど、いいかな」
快諾する。
イツキさんは俺に向かい合って座る。
俺にゼリーを差し出し、食べながらでいいから、と微笑む。
俺はスプーンでゼリーを掬って口に入れる。
優しい甘みが口の中へ広がる。
すっごく美味しい。異世界の甘味、すごくいい。
「美味しいでしょ?それ。ユリの花びらが入ってるんだ」
へえ。ユリって美味しいんだなあ。初めて食べた。
「ところでさ、アリオくん。君さ、転生者でしょ」
思わずゼリーを吐き出す。
一体なぜバレた。
「この世界には、ゼリーなんて流通してないんだよ。さっき君はゼリーを食べたことあるような風だったし、現に僕のゼリーをなんの躊躇いもなく口に入れた」
変な汗が吹き出る。
まずい。バレた。速攻バレた。
「でも僕は、ゼリーだけじゃ判断材料として弱いと思った。それで、ノック式のボールペンを渡した。この世界にはボールペンなんて存在しないから、試すにはちょうどいいと思ったんだ。そうしたら君は、使い方を知っている風でペン先を出して書き始めた。僕は確信した。アリオくんが転生者だって。普通の子はこれじゃ書けない、ってほっぽり出すよ」
やばい。やばい。これは詰みましたわ。
完全に話の主導権を握られてしまいました。
こいつの俺TUEEEに協力しないと殺されるパターンですわ。
ああ、短い人生だった。さようなら、父さん。母さん。
いや、気を強く持つんだ。有岡真咲、30歳。
こいつはただの頭のおかしい保護者だ。
そう思えば怖くないはずだ。
頑張れ俺。
俺はビジネス用スマイルを顔にペーストして、動揺を隠す。
イツキさんは、だからといって何もしませんよ、と言って、自分の過去を話し始めた。
「…僕はね、ある地方都市で市役所の職員をやっていたんです。市民のためを思って一生懸命に働きました。ただ少し、恨みを買いすぎたんですよ」
イツキさんは、自分のユリ入りゼリーを一口食べて続ける。
「生活保護の審査をやっていた時期があったんです。僕は、生活保護の不正受給を発見した。上に報告して、支給をストップした。何年か経って、僕は違う部署に移りました。新しい部署にも馴染んできたときのことです。僕は家に帰るため夜道を歩いていました。すると僕が支給を止めた方が突然現れて、僕を刃物で刺したんです。それで死んじゃいました」
なんだそれ。
完全に逆恨みですやんか。
この人も理不尽な死に方してんだなあ。
ふむ。
俺がイツキさんのことを知りたいように、イツキさんも俺のことを知りたい、か。
自分が出自を明かすことで、俺にもそれに見合う情報を差し出させようとしているのだろう。
ここは乗っておこうか。
俺は自分の過去をかいつまんで話した。
教師だったこと。
不慮の事故から職を失い、社会的にも惨殺されて自殺を図ったこと。
「ずいぶんと不憫な亡くなり方をされたんですね」
同情された。
ところで、日本にはこんな言葉がある。
同情するなら金をくれ。
同情など要らん。俺は生存と自由を要求する。
「…さてアリオくん。いや、有岡真咲さん。本題に入りましょう」
イツキさんは、真面目な顔になった。
「実は、元教員のあなたに折り入ってお願いがあります。これは領主としての命令ではないですから、あなたは断ってもいいです」
面談室は、息がつまるような異様な緊張感に包まれる。
「あの子たちの、相談相手になってやってほしいんです」
領主のイツキさんも転生者だったようです。
早速弱みを握られたアリオくんですが、今後彼がどういう風に立ち回るのか。
ご期待ください。