03 ロリコン、外出する。
本編第3話です。
いつもよりもちょっと長めです。
世間の人々は、ロリコンを忌み嫌う。
それはなぜか。
彼らが、ロリコンを性犯罪者の集団だと思っているからだ。
しかし我々は、幼い少女を辱めたいなどと思ってはいないのだ。
「ロリコン」を漢字で書くと「老理婚」となる。
この言葉には、「老いてもなお、この世の理に背かず交わした契りを永久に守り続ける」という意味が込められている。
その起源は明らかにされていないが、古くは源氏物語に登場する「光源氏」も老理婚の精神を持ち合わせていたとされる。
ロリコンは性犯罪者などではなく、年齢という壁に阻まれながらもその人を愛し、世間から奇異の目や罵声を浴びせられても屈さず、そこにある愛を永久に突き通す人々なのだ。
☆☆☆
アリオ、5歳です。
公立中学校で教師をしていたら、ロリコンの嫌疑をかけられ、あれよあれよと言う間に失職。
苦しさに耐えかねて自殺したところ、異世界に転生してしまいました!きゃは☆
今日はお待ちかね、可能性審査の日。
テンションは最高潮。俺は元気に家を飛び出す。
両親に伴われ、審査会場の役場に向かう。
素晴らしい!
風も!
空も!
そして空気も!
全てが新鮮だ!
5年も引きこもり生活を強いられていたのだ。
今日は思い切り外を満喫しよう。
道端には、街灯が立ち並んでいる。
…異世界ものラノベではよくありがちな設定として、基本的なインフラが全く存在しないというのがあるが、幸か不幸か、この世界には電気が存在していた。
電線は見えないので、きっと地面に埋められているのだろう。
実は我が家にも電気や上下水道が引かれていて、意外と普通に暮らしていた。
水洗トイレもあるし、IHコンロもある。お風呂だってある。
テレビやパソコンはないのに、そういうものだけ存在している。
頑張れ技術者。娯楽を生み出してくれ!
整ったインフラ設備の秘密はどうやら、領主のカワグチ男爵が握っているようだ。
彼の日本風の名前から察するに、カワグチ男爵はきっと内政チート系の転生者なのだろう。
きっとラノベみたいに俺TUEEEEEEEしてたんだろうなあ。
別にチートで無双したかったわけではないが、ちょっと羨ましい。
でも、少なくとも5年は電気も下水もなし、飲み水は川から、なんて生活をしなきゃいけない…なんて、現代暮らしの長い俺にはきっと無理だっただろう。
俺の代わりに犠牲になってくれたカワグチ男爵に感謝を述べたい。
☆☆☆
役場に到着すると、すでにそこには何組かの親子が集結していた。
「おお、ロビンの家のアリオくん。もうみんな集まってるよ、ついてきて」
日本人顔の優しそうな中年男性が、俺に向かって手招きする。
その男性は他の子供達も呼び寄せ、自己紹介を始めた。
「はじめまして。私はイツキ=カワグチ。この村の責任者です」
…お前が領主かよ。役場の担当者か何かかと思ったわ。
子供達は飛び退き、地に伏せる。
自らの命すらどうにでもできてしまうほどの権力を持った人間が目の前にいることがわかったのだ。
至って普通の反応だと言えよう。
当然俺も地に伏せている。いきなり殺されてはかなわない。
「やめてくれ、僕はそんな大層な人間じゃないんだ」
領主…もといイツキさんは子供達を起こすと、優しいおじさんスマイルを繰り出した。
「君たちはリリー村の同期なんだ。これもきっと何かの縁。仲良くするといいよ」
子供たちは、はい!と子供らしい返事をする。
イツキさんは、審査の準備があるから待っててね、と言って何処かへ行ってしまった。
俺たちの中で一番最初に口を開いたのは、立派な桜色のロングヘアをポニーテールにした、活発そうな女の子だった。
恥ずかしそうにはしているけれど、この子はきっと楽しいことが大好きで、何にでもチャレンジしていくタイプだ。ソースは俺の教師の勘。
「わたし、アピアっていいます。おうちはお花屋さんなの」
そう言ってぺこりとお辞儀をする。
アピアの自己紹介を皮切りに、子供たちは次々に自己紹介をしていく。
「わたしはソラ。こっちは妹のマチ。双子なんだ。おうちはトキオ雑貨店だよ」
綺麗なスカイブルーの髪の毛の双子だ。
お姉ちゃんのソラちゃんはボブカットでボーイッシュな印象。きっと優等生タイプだ。
妹ちゃん、マチちゃんは多分静かに闘志を燃やすタイプ。無気力そうなのはエネルギーを貯めている証拠だ。セミロングヘアで、右目に泣きぼくろがある。
「オレはラフィ。とうちゃんは探検家なんだ」
ツンツン頭の、活動的なやんちゃ坊主といった印象の男の子。
こういうタイプはピンチの時助けてくれるんだ。
「クローバーです。おかあさんとおとうさんは学校の先生」
ちょっとくせっ毛っぽい、栗色の髪の毛。前髪をピンで留めている。
ゆるふわ森ガール系。誰にでもやさしくて人気があるタイプ。
静かになる役場。
ここで俺は、まだ自己紹介をすませていない女の子がいることに気がついた。
息をするのも忘れそうになるほど美しい白髪をハーフアップでまとめた女の子だ。
どうやら、恥ずかしがってなかなか口を開けないらしい。
よし。元教師の俺、有岡真咲…じゃない。アリオだった。ここは一肌脱ごう。
「ぼくはアリオ。ユリが好きなんだ。よろしくね」
みんなに向かってお辞儀をしてから、白髪の子にニコッと笑顔を向ける。
「…わたし、リリア。よろしく」
一言ではあったが、全員が無事に自己紹介を済ませたところに、イツキさんが戻ってきた。
「準備ができたよ。そいじゃ、始めようか。みんな並んでね」
俺たち7人は、イツキさんに向かって横一列に並んだ。
…そういえば、イツキさんの娘さんがこの中にいるはずだけど。
自分の家のことを言ってないのはリリアだけか。
ってことはリリアが領主の娘ってことなのかな。
はー。僕も老理婚になりたい。
さて、リリー村の子供たちは、自己紹介で自分の親の職業を示していますね。
彼らは生まれて以来ずっと家に閉じ込められてきた子供たちです。家族以外と接する機会はほとんどありません。なので、自己紹介といっても、相手がどんな情報を望んでいるか、何を話していいかがわからず、自分を表すわかりやすい方法として、自分の親が何をやっているかを示した、というわけです。
念のために書いておきますが、本文中の「老理婚」のくだりは、完全にわたしの思いつきです。
くれぐれも本気になさらぬよう。笑