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ロリコン教師は魔法で世界を救いたい  作者: ぺぐしる
第1章 ユリの薫る街
13/21

0C ロリコン教師と母親と。

本編第12話、リリアちゃん編その2です。

昔々、ある所に恐ろしい魔王がいました。

魔王は魔法を用い、手下を連れて人々を襲っていました。


手下の中でも、最も恐ろしいと言われているのは、「紅眼の魔女」と呼ばれる魔法使いでした。

透き通るように白い肌。

美しい白い髪の毛。

何物をも見通す真っ赤な瞳。

この世のものとは思えない美貌を持った魔女でした。


魔女は日光を嫌い、夜にしか活動しませんでした。


ある時、魔王を倒すべく勇者が立ち上がりました。

勇者は死闘の末、魔王を打ち滅ぼしました。


そこに立ちはだかったのが紅眼の魔女でした。


魔女は魔法によって、自分もろとも世界を焼き尽くしました。


見えない刃が幾度も人々を傷つけ、世界は破滅を迎えました。



昔話を語り終えると、リリアは俯いた。


「…知ってるでしょ?この昔話」


これはこの世界では非常によく知られた昔話だ。

確かに、言われてみれば条件に合致する。


カラコンで瞳を隠してたのはこういうわけか。


「リリアは紅眼の魔女なの?」


「そうよ。だから私のそばにいたら危ない」


リリアは俯いたまま、答える。


「…リリアは優しいね。僕を心配してくれるなんて」


リリアは僕をきっ、と睨んで、声を荒げた。


「そんなんじゃない!私はただ!…ただ」


彼女の目は、涙で潤んでいた。


「リリア!どうした!」


バン、と扉が開け放たれ、イツキさんが飛び込んでくる。

イツキさんは涙を流すリリアを見ると、肩を抱いて優しい言葉をかけた。


「アリオくん。今日はもう帰ってくれ」


イツキさんは、リリアを抱いたまま、静かに、けれども怒気を含んだ声で、俺にそう言った。


部屋に張り詰める異様な緊張感。


「…承知しました」


俺は必死でその言葉をひねり出し、失礼します、と部屋を出た。


俺は帰るしかなかった。

イツキさんのあの怒りよう。

俺は殺されるかもしれないな。


家を出ようとしたら、対物ライフルで頭を吹っ飛ばされるかもしれない。

でも、イツキさんが帰れと言っているのだから、俺には拒否することはできない。


これも、身から出た錆、というわけなのか。


☆☆☆


俺は、対物ライフルで頭を吹っ飛ばされることなく、無事に帰宅した。

父さんはすでに帰宅しており、俺が帰ると、お帰り、と声をかけてくれた。


ダイニングで遅めの昼食をとる。

窓から見える空は、真っ黒な雨雲に覆われていた。

朝はあんなに晴れていたのに。


「父さん」


「ん」


「僕…リリアを泣かせた」


「リリア…ってイツキさんとこの娘さんか?」


「一族郎等皆殺しにされるかもしれない」


父さんはいつもの通りガハハと大笑いして言った。


「あの温厚なイツキさんがそんなことするわけないだろう」


父さんはそう言うと、俺に書類を手渡す。


「そんな現実味のないことより、お前は目先の寺子屋入学のことを考えろ」


父さんが失敗を責めないでくれたのはありがたかった。

傷口に塩を塗りこまれるのは本当に辛い。


「…ん?名前が変わるのか。義務教育学校、ねえ。また大層な名前になったもんだ」


イツキさん、仕事早えな。

書類渡したのさっきなんだけどな。

前世の役所もこれくらい仕事が早かったら良かったのに。


イツキさんのワンマンプレーだからこそなせるわざなのだろうが。

…せめて教育改革を成功させてから死にたかったなあ。


「一度泣かせたくらいでクヨクヨするな。泣かせたらそれ以上に笑わせてやればいいんだ」


流石女誑しのロビン父さんっス。尊敬しまっス。


「子供を大人の汚い権力争いに巻き込んじゃいけないんだ。もしその気があるなら、イツキさんの方は俺がなんとかする。お前はリリアちゃんのことだけ考えてろ」


父さんはやっぱりガハハと笑って、ユリ根のぬか漬けを口に入れる。


その気…ってあれか。結婚したいとかそういうことか。

違うよ。断じて違うよ。


でも、なんだか心が楽になった気がした。


☆☆☆


ユリが咲き誇るリリー村に、雨が降りしきる。

辺りはもう真っ暗で、街灯と家々の明かりだけが頼りだ。

時計はすでに、22時を回っている。


そんな時間に、家の扉がノックされる。


「ったく。こんな時間に一体何の用にゃ…はいはーい、今開けるにゃ」


母さんは扉を開ける。


そこには、雨でずぶ濡れの白髪の少女…リリアが立っていた。


「…!ちょっと待ってるにゃ。今タオルと着替え用意するから」


母さんはクローゼットに急ぐ。


「リリア!」


俺はリリアに駆け寄る。

体は冷え切っていて、小刻みに震えている。


リリアは、俺の顔を見ると、床に崩れ落ちた。


カラコンはしていなかった。


「これを使うにゃ」


母さんはタオルをリリアに巻いて彼女を抱き上げ、風呂へと向かう。


「リリアがどうしてここに」


「お前のこと追いかけてきたんじゃないか?」


父さんはふざけているのか、ニヤニヤして俺を見る。


「俺が帰ってきたのは昼過ぎだよ」


どういうことだ。

なぜリリアはうちにやってきたのだろう。


イツキさんはこの事を知っているのか?


…いや。状況を見るに、おそらくイツキさんはこのことを知らない。

大人の男が5歳児の足の速さに追いつけないはずがないからだ。


とすれば、イツキさんはリリアが自宅にいないことに気づいていない、もしくはいないことに気づいて大騒ぎしているかのどちらか、ということになる。


ではなぜ、うちにやってきた?


◇◇◇


リリアと母さんが風呂から出てきた。

リリアは、母さんが小さい頃に使っていたであろうパジャマを着ている。


母さんは、リリアをダイニングの椅子に座らせると、リリアと向かい合うようにしてしゃがみこんだ。


「リリアちゃん、突然現れたからびっくりしたにゃ。どうしてうちに来たにゃ?」


「イツキさんと何かあったにゃ?」


リリアは、黙ったまま何も答えない。


「弱ったにゃ。イツキさんには連絡入れとくにゃ」


イツキさんに電話をかけようと母さんが立ち上がったとき、突然、リリアが口を開いた。


「どうして私を怖がらないんですか」


「…紅眼の魔女の昔話にゃ?」


母さんは、リリアの前にしゃがみ直して、尋ねる。


「私は紅眼の魔女かもしれないのに」


リリアは、俯きながら小さな声でつぶやく。


「じゃあさ、リリアちゃん」


母さんは、自分の猫耳をさわりながら、言う。


「私は耳が4つあるの。人とおんなじ形の耳と、猫の形の耳」


「リリアちゃんは、私が怖い?」


リリアは、ふるふると首を振る。


「私ね、小さい頃は自分の猫耳を嫌だと思ってたの。周りのみんなには猫耳がないのに、なんで私だけ、って。だけどね、今は気に入ってるんだ。だって、私の個性だもん。リリアちゃんの目も、髪も、私の猫耳と同じ、リリアちゃんの個性なんだよ」


「それに、あなたはアリオちゃんの友達でしょ?なら、私たちはあなたを守るよ」



母さんが喋り終わって、部屋の中は沈黙に包まれる。

雨が天井に打ち付ける音だけが響く。

しばらくして、リリアがぽつりぽつりと話し始めた。


「…アリオが初めてだったんです。私の目を見ても、驚かなかった人」


「父の権力を得ようと、いろんな人がたくさん、私のところに来ました」


「でも、誰も私を見ていなかった。私の目を見ると、みんなわたしから離れていった」


「父は、私にこれ…カラコンという、目に入れて眼の色を変える魔道具をくれました。でもそれは、私の眼が怖かったからだと思います」


「私には、味方なんていなかったんです。でも別段寂しいとは思わなかった。今日の昼までは」


「アリオは、私の目を見ても怖がらなかった。それでも仲良くしたいって言ってくれた」


「アリオが帰って、私は急に寂しくなった。わたしから離れて欲しくなかった」


いつのまにか、リリアの目からは、涙が溢れてきていた。


「あらら。あんまり泣いたら、せっかくの可愛い顔が台無しだにゃ」


母さんはそう言うと、リリアの顔に優しく触れて、指で彼女の涙を拭った。


「イツキさんには後で連絡しておくから、もう少しだけうちにいるといいにゃ」


リリアは、母さんに抱きついて、声が枯れるくらい泣いた。

母さんは、まるで自分の娘をあやすように、リリアを優しく抱きしめる。


「…好きなだけ泣くにゃ。わたしもアリオちゃんも、ロビンくんも、リリアちゃんの味方だよ」


母さんは、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、そう囁いた。



俺も父さんも、その様子をただ見ているしかなかった。



雨がざあざあと地面に打ち付ける音と、少女の泣き声だけが辺りに響いていた。

母は強し、ですね。


リリアちゃん編、もう少し続きます。

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