おかまちゃん。
3人でランチを囲みながら、おかまちゃんと呼ばれる人物を待つ。どんな人がやって来るんだろう。何か話さなければいけない気がしたけれど、そればかりが気になって話が浮かばない。
「おかまちゃんが気になる?」
ニヤリと悪戯な笑みを浮かべてチカさんが訊ねてくる。コクリと頷くと
「おかまちゃんはねぇ、とってもパワフルよ。会ったらその勢いに圧倒されちゃうかも。ねっ、宮下さん?」
「そうね。おかまちゃんは底抜けに明るい毒舌家だから。」
そう言うと2人は顔を見合わせてフフフッと笑った。不安感が増していく。私は自己主張の強い人に嫌われやすいのだ。おかまちゃんに嫌われてけちょんけちょんに貶されたらどうしよう。不安を抱えたままランチを摂っていると私達が乗ってきたエレベーターが開き、180センチはありそうなひげ面のワイルドな男性がカラカラとキャリーケースを引いて入ってきた。
「チカぁ、宮っち。お待たせ。」
チカさんと宮下さんに声を掛けると、私の方をジッと見ながら近付いてきた。
「この子が話してた子?」
「そうよ。」
チカさんが答える。
「ふぅん。ちょっとこっち向いてみて。」
私の真横に立つと両手で頭に触れ、続いて顎を引き上げる。
「綺麗な肌ね。」
続いて伸びきった前髪を後ろに払いのける。
「あらっ、眉がボーボー。髭まで生えてるわ。やだっ。ちょっと失礼。」
腕を引き寄せスエットの袖口を引き上げる。眉を大袈裟に動かし肩を竦める。
「宮っち、ちょっと来て。」
宮下さんを呼び寄せるとコソッと耳打ちした。
「明莉さん、ちょっとこっちに来て。」
宮下さんに引かれてトイレに移動する。
「そのスエットは前開き?」
「はい。」
「下はブラだけ?」
「えっ、あっ、いえ。キャミを着ています。」
「そう、じゃぁ良いわね。ちょっとファスナー下げてみて。」
「えっ?」
「直ぐ済むから言うとおりにしてくれる?ファスナーを下げて腕を上げてみて。」
言うとおりにしなければいけないんだろう。意を決してファスナーを下げ腕を上げた。宮下さんが腕の下を覗き込む。
「そっかぁ。そうだよねぇ。うん、大丈夫。いらっしゃい。」
トイレの洗面室を出ると宮下さんがおかまちゃんに声を掛けた。
「ご想像のとおりです~。」
それを聞いたおかまちゃんはテーブルの端を掴んでヘナヘナとしゃがみ込み片手で眉間を抑えた。数秒そうした後で立ち上がりギロリと睨んできた。
「ちょっと貴女ね、女性の残していい毛は、髪と睫毛と眉、あとは辛うじてアンダーだけよ。それ以外の毛はね、無駄なの。無駄!!分かる?必要ないのよ。無駄な物をそんなにファサファサさせているなんて女として最低よ。あ~っ、もう嫌!!最低よ。私なんてどれだけ綺麗にしても女性にはなれないのに。はぁっ。ムッカつくわぁ。」
「まぁまぁまぁ。今までそういう事から離れていた訳だから。でもまぁある意味原石じゃない?」
傍に居たチカさんがおかまちゃんをなだめる。
「埋もれに、埋もれてたって感じね。原石の中でも上玉よ!!磨き甲斐があるわ。貴女ね、覚悟しなさいよ。180度変えてやるんだから!!チカ、メイクルーム借りるわよ。」
「へぇ~い。いってらっしゃい。」
チカさんがおどけた様子で手を上げる。
「腕が鳴るわ。いらっしゃい!!」
おかまちゃんはボキボキと指を鳴らし、近付いてきてスエットの襟をつまみ上げ、私を引っ張った。何かを思い出したように振り返り、チカさんと宮下さんに向き直ると
「チカ、宮っち、この子私の好きなように仕上げていいの?」
と確認した。2人は声を揃えて
「お好きなように。」
と答える。それを聞くとおかまちゃんは向き直りカーテンの掛かった部屋をシャっと開けた。