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中條チカ。


約束の火曜日、私は久々にバスに乗り月岡病院へ向かった。

マスクを着けうつむき加減で座席に座り込む。上下黒のスエットにしたのは、単純に服が無いも理由だけれど、スエットでマスクの方が病院に馴染むと思ったから、バスでは多少浮くが俯いて縮こまっていれば目立たない。


車内アナウンスで月岡病院前と流れたので慌てて下車ボタンを押した。バスが病院ロータリーに入っていき停車する。料金を払いロータリーに降り立つ。外はスッキリ晴れていて陽射しが眩しいが1月の外気は射すように冷たい。家に籠もりきりだった私には馴れない寒さだ。小走りに病院ロビーに向かう。ドキドキと強い鼓動が胸を打った。


大丈夫。彼女は私を知らない。ダウンコートにロングヘアでサングラスの女性を探して嫌な感じだったら言われたとおり逃げ出してしまえばいい。最初からそう言う約束だ。私は悪くない。


約束の5分前。

沢山の人で溢れるロビーをぐるりと見渡す。

10メートル程先にそれらしい人が居た。ただひとつ伝えられていなかった事はその女性が車椅子に乗っていたことと、車椅子を押すために同行者が居たこと。


人違いかも知れない。確認のためにゆっくり近付く。近付くにつれて女性からただならぬ気配を感じる。サングラスを掛けていても溢れ出る美しさというか、オーラというか。圧倒されているうちに女性の方が私に近付いてきた。


「明莉さん?」


「・・・・・・。」


答えられずに頷くだけで精一杯だった。


「チカです。」


私を確認し、名乗りながらサングラスをずらしたその顔に息が止まりそうになる。元人気モデルの中條チカだった。


「驚いた?」


サッとサングラスを戻し、手招く。


「ここじゃゆっくり話せないから移動しましょう。同行者は私のマネージャなの。言って無くてごめんなさい。詳しい話は後で。とりあえず車に乗って頂戴。」


「いえ。」


私の返事を確認するとマネージャだという女性に声を掛けた。


「じゃぁ、宮下さん急いで車まで運んで。で、ノルディに向かって頂戴。明莉さんは私達に着いてきて。」


言われるままに2人について行き車に乗り込む。


中條チカ。中條チカ。中條チカ。

頭の中にその名前が巡る。

超人気モデル。


あれは何年前だろう?私がまだ高校に通えていたから3年前くらいだろうか?流行に敏感な高校生の間でもチカ巻きと言う中條チカを真似た巻き髪が流行るくらい人気のモデルだった。過去形なのは中條チカが事故による怪我でモデル業を退いたから。当時のテレビでは連日重症で復帰は絶望的とやっていた。そんな彼女にこんな場所でこんな形で会うなんて。


「その様子だと私が何者なのかもう分かったみたいね。もう直ぐ行きつけのカフェに着くわ。そこでゆっくり話しましょう。」


「着きました。」


チカさんが話し終えるのとほぼ同時で宮下さんと呼ばれていた女性が到着を告げた。一際広く駐車スペースを取った駐車場に滑り込んで聞く。宮下さんが降り立ちトランクから車椅子を取り出してチカさん側のドアを開けるとサッと横付けし、チカさんを抱え上げ車椅子に乗せた。


「ありがとう。さっ、明莉さんも降りて。行くわよ。」


車椅子に乗せられ移動するチカさん達に着いていく。カフェの入り口とは別のエレベーターを利用して降り立った店内はブラウンとホワイトでまとめられたスッキリと広い空間だった。


「ここは一応、プライベートルーム。特別な人しか入れないの。下は混んでいるし、今日はゆっくりここで話しましょう。座って。」


席に着こうとするとカフェのスタッフらしき人が爽やかな笑顔でやって来た。


「チカさん、宮下さんいらっしゃい。あっ、この子が例の子ですか?」


サッと上から下まで視線を走らせられる。例の子と言われたことが引っかかる。チカさんは何をどこまで話しているのだろう?ザワザワと胸が騒ぎ出す。






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