死へのカウントダウン。
死へのカウントダウンカテゴリーへのコメントは相変わらず多い。更新の度にコメントを残してくれる人が何人か居てその中にチカと名乗るユーザーが居た。
毎回書き込まれるメッセージは私を応援する物で毎回的確にアドバイスを残してくれた。
『本気で消えたいのならそろそろ身辺整理をしておくべきです』
『家で実行するのか、しないのか。しない場合身元の判明する物を所持しておくのかしないのか。考えないといけませんね。』
どれも考えさせられる内容だ。
自宅で実行なら家族をどん底に突き落とすだろう。
身元の分かるものも所持せず、どこか縁もゆかりも無い場所で息絶えるのが私らしい消え方かもしれない。そのまま思い付いたことをコメント欄に書き込むと返信が来た。
『悲しい最後ですね。何だか人魚姫を連想してしまいました。人知れず泡となって消える。儚いですね。でも、明莉さんの決めた人生、悔いの残らないようにして下さい。ブログを読んで17才から引きこもり生活をしていると知りました。私達、近くに住んでいるみたいです。私は明莉さんに人生の楽しさも知って欲しい。最後にいちど外の世界に出てみませんか?思い出に。悪いことばかりで閉じるのはどうにも勿体ない気がします。余計なお世話だったらごめんなさい。』
こういったコメントを残してくれるユーザーは今までも何人か居た。でも、上辺だけの薄っぺらいコメントとしてしか受け取れずこういう内容のコメントには返信を避けてきた。なのにチカと言うユーザーのコメントは今までのやり取りもあり返信を返した。
『チカさんへ。ブログを読んで頂きありがとうございます。確かに辛い気持ちだけを抱え込んで消えるのは悲しいかもしれません。でも、人魚姫みたいに綺麗に消えられるなら本望かな。楽しい思い出を作ってしまって去る日を迎える方が酷な気がします。』
この私達のやり取りを見て、決心に水を差すようなことをするなと強くコメントをするユーザーが現れた。どうやら私は見も知らぬ他人に死の選択を望まれているらしい。パソコン画面を見ながら笑ってしまった。あの日、教室で大爆笑していたクラスメートの顔が頭の中を過ぎっていく。
カタカタと文字を打ち込み送信ボタンを打った。画面には
『2年も籠もって鬱々としていました。最後を迎える前くらい良い思いをしても良いのかもしれません。反対を訴える方がいらっしゃるので詰めた話はメッセの方でしましょう。』
ピカピカとメッセの着信を知らせるランプが光る。
チカさんからだ。
『明莉さんへ。良かったです。なるべく早いうちに会いましょう。平日予定がないのであれば来週の火曜日、月岡病院のロビーで。人が大勢居る場所は今の貴女には不安かもしれませんが何かあれば直ぐ助けを求められるでしょう?もっとも私は貴女に危害を加えるつもりは毛頭ありませんが。どうですか?』
月岡病院ならここから車で15分ほどだ。バスで行くことが出来る。人混みは久し振りだけれどマスクで何とかなるだろう。
『分かりました。大丈夫です。バスで向かうので10時にロビーでどうですか?』
そう打ち込んで送信すると直ぐに返信が来た。
『良かった。10時で大丈夫。私はグレーのダッフルにロングヘア。分かりやすいようにサングラスをしているわ。あえて明莉さんの服装は聞かない。会いたくないと思ったら帰ってくれてもいいわ。』
『分かりました。』
短く打ち込んで送信し、ベッドに倒れ込む。疲れた。たったこれだけのことだけれど、久々に密に人と接した気になる。