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新しい道へ。


4人で車に乗り込み自宅へ向かう。車中では宮下さん、チカさん、おかまちゃんが誰が家族に話すか揉めている。


「ここは事務所代表のチカが話すべきでしょう?」


「えっ、私、ほら車椅子だし、貫禄無いし••••••。」


「私は絶対やーよ。無理やり連れてこられたようなものなんだから。明莉がまずご両親に電話してこれから伺うこと伝えなさいよ。」


「私、携帯もってないんです。それにもう家です。あそこ。」


そうこうしている内に自宅が見えてきた。漏れ出る灯りから母が帰宅しているのが分かる。近付くにつれて自宅前に人影があることに気付いた。誰だろうと良く見ると辺りを心配そうに窺う母だった。


「あの、通り過ぎて下さい!お願いします!!」


見てはいけないものを見た気がして心臓がバクバクした。


「その先の交差点を左で。直ぐ横に公園があるのでそこにお願いします。」


滑り込むように車体が公園に入っていく。


「明莉、大丈夫?どうしたの?」


私の変化に気付いた宮下さんが声を掛けてくれる。


「外に母が居たんです。それでびっくりしてしまって。すみません。」


「そりゃ、心配だわねぇ。携帯も持たない引き籠もり娘が居なくなるなんて。大慌てだと思うわよ。最悪の展開を考えているかも。」


「最悪の••••••。」


おかまちゃんの発言に頭が真っ白になっていく。私が居ないことに気が付くなんて考えても居なかった。お互い顔を合わせないように暮らして2年、母と私の間には淡々とした空気が流れていて母はただ義務のように私に食事を作り、ノートにメッセージを残しているんだと思っていた。そこには私に対する関心なんて本当は含まれていない、だから今日も伝えることなく外出しても平気だと思い何も言わず出て来てしまったのだ。


「だから言ったでしょう?貴女の最大の味方はお母さんだって。突然居なくなったら心配するにきまってるじゃない。どうすんのよ。このままじゃ私達、未成年者略取で捕まるわよ。」


「ああっ、もう。私が引き込んだんだから明莉の両親には私がちゃんと説明するわよ。宮下さん、明莉の家に戻って。」


「待って。ちょっと待って下さい。」


宮下さんに自宅へ向かうよう伝えるチカさんを慌てて押し止めた。座席に深く座り込み呼吸を整える。


「あの、説明は私が自分でします。私、今まで母と距離を置いていて全然向き合ってこなかった。おかまちゃんが言うとおり母はずっと私の味方だったんだと思います。なのに私、今まで気が付かなくて。心配をかけてきたことちゃんと謝りたいし、新しい道へ進むことちゃんと自分の口から伝えたいと思います。あの、宮下さん家へ戻って下さい。」


「分かったわ。ちゃんと伝えなさいね。じゃ、戻りましょう。」


宮下さんは公園の駐車場をぐるりと回ると自宅へ向けて走り出した。母はまだ自宅前に立っている。


「庭に入って下さい。」


右折して自宅に乗り付けると、自宅前に居た母が走り寄ってきた。怖じ気づく気持ちをねじ伏せて車から降りる。


「明莉?! 良かった。どこに行ったのかと心配したわ。」


「ごめんなさい。」


「どうしたの?その服装。」


「これはあの••••••。」


どう説明しようか迷っていると運転席に居た宮下さんが外に出てきた。


「明莉さんのお母様でいらっしゃいますか?突然押し掛けてすみません。私、こういう者です。」


宮下さんが母に名刺を差し出す。


「Cカンパニー?」


「芸能事務所です。」


「何でうちの子が?」


突然の事にあっけにとられている母。


「えっと、あの••••••。」


まさかの宮下さんまで返答に困っている。完全な打ち合わせ不足。もっと公園で話を詰めてくれば良かった。


「こんばんは。」


気まずい空気が漂う中におかまちゃんが後部座席の扉を開けて出て来た。


「こんばんは。あらっ、貴方どこかで?」


母が何かを思い出すようにおかまちゃんを見る。


「挨拶が遅れまして申し訳ありません。僕は朔田修二と申します。ヘアメイクをしております。」


「そうですよね。朔田さん、テレビで見たことがあるわ。イケメンヘアメイクさんって。そんな有名な方がどうして家へ?」


「ですから、明莉さんにウチの所属タレントになって頂きたくて。」


「はっ?タレント?」


驚いたような母の声を聞いて後部座席に座ったままのチカさんがウインドウを下ろし顔を出した。


「すみません。こんな所から。私、Cカンパニー代表の中条チカと申します。」


「えっ、中条チカさんってあの?」


「そうです。こんな所から失礼致します。」


「いえ、あのここでは何ですから家の中へどうぞ。」


「ありがとうございます。では失礼致します。」


車のドアを空けるとおかまちゃんが近付いて行きチカさんを抱え上げた。


「すみません。中条は車椅子なもので室内を傷めるといけないので僕が抱えて行きます。見苦しいかもしれませんがすみません。」


「いいえ。車椅子使ってもらってもかまいませんよ。」


「そう言うわけにはいきませんよ。」


おかまちゃんは爽やかな笑顔で返答する。まるでさっきまでとは別人だ。チカさんを抱える姿は男性にしか見えない。


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