人格入れ替え装置
「遂に完成だ!」
俺は拳を握りしめた。
「これで、大儲けが・・・」
俺はニヤリとする。
そんなことよりも、もっと大事なモノが手に入る。
ようやく・・・
30年の研究、来年には50歳に届いてしまう。
「もてる・・・」
これで女性にモテるんだ。
自分の容姿の魅力なさを自覚し、30年。
これが完成したから、女性にモテること間違いない。
人格入れ替え装置が完成したのだから。
そんなモノ出来たって、格好いい男と入れ替われられないって?
それは、凡人の意見だろう。
ちゃんと考えている。
だから、ある男にメールを送った。
芸能人、それも超人気がある。
シンガーソングライター、俳優、ラジオDJ、写真家、
40年前でいう福山雅治氏だ。
無理に決まってるって?
そうでもない。
今日彼から返事が来た。
Yesの返事が。
最近彼は休業を発表していた。
そこでこうだ。
『1週間、他人と入れ替わって、人目を気にせず、
穏やかな日を過ごしてみませんか」と。
よほど仕事に疲れているんだろう。
入れ替え実行は、その3日後に決まった。
俺は3日でできるだけ、彼の歌を覚えようと思った。
3日後、人格入れ替えは成功した。
入れ替わった彼は颯爽と部屋を出ていった。
もう50歳の肉体のはずなのに、30歳後半に見える。
気持ち次第で、ああも若返るのかと思った。
「あー、あー」
声を出してみる。
低温で張りのある声。
でもCDで聴く声より少しこもっている。
さっそく彼の最大のヒット曲「桜板」を歌った。
用意しておいた一流ブランドの服を身にまとう。
今から街に繰り出す。
どこがいいかなと思い、青山に決めた。
青山なら品のよい女性がいるだろう。
実年齢50歳の俺には渋谷は小うるさい。
街を歩くと、みんなが振り返る。
男も女も。
ただ声を掛けてくる人はいない。
遠目で携帯端末かざす人はいるが。
これが一流芸能人のオーラだろう。
威圧感で人が近づけない。
俺は思わず高笑いを上げてしまった。
こんな日が毎日続くのだ。
1週間で変わる?
そんなことするわけがない。
こんなオイシイことを。
例え、彼が入れ替わってしまったことを誰かに訴えても、
そんなことを信じるはずがない。
彼はまんまと罠にはまったのだ。
「○○さん、ですよね」と後ろから声を掛けられる。
俺はニヤリとする。
せっかく芸能人になったからには、
こんなことがなければ面白くない。
俺は満面の笑みを作り、振り返る。
俺はギョッとする。
それは二人組の警察官だった。
俺は笑みを崩さず、頷いた。
「署まで同行よろしいですか」
後ろの警察官は、はずかに踵を浮かせた。
逃走を警戒するように。
「・・・理由は」
俺はようやく声を絞り出した。
「ある女性の殺害容疑です」
俺は茫然と立ち尽くした。
10日前にある女性を殺害された、
と取調室で刑事が言った。
その女性は半年前から彼に付きまとっていたそうだ。
ストーカーというやつだ。
最初は普通のファンだと思った彼は、その女性と写真を撮ったりした。
でも、その女性はその写真を週刊誌にタレコんだ。
付き合っている女がいると。
さらに彼女はSNSにデマを流す。
暴力を振るわれたと。
自らが作った体の痣の写真と伴に。
彼は事務所の力を使い、週刊誌に載ることを抑え込んだ。
しかし、ネットは拡散する一方だった。
そして、ネット上では彼の評判は地に落ちていた。
それこそが彼女の狙いだ。
彼女は彼のファンを一人もなくして、自分だけのモノにしたかった。
これは事件発覚後、彼女の日記で明らかになった。
彼は事務所から止められていたエゴサーチをやめられなかった。
ついに我慢の限界がきたようだ。
彼は自分の部屋に招き入れ、そして彼女の首を絞め殺害した。
「やってない」
俺は大声で言った。
でも・・・
その声は彼の声だった。
人格入れ替えのことを信じるはずがない。
俺は観念してうつむいた。
刑事は諭すように言った。
「これからは心を入れ替え、罪を償え」と。
俺は頷くようにうなだれた。




