カフェとタバコとハイセンス
時は経って2ヶ月と12日後
彼女、小鞠はカフェに連れてこられていた。目の前には金髪頭の奇抜なスーツを着た輩が長い足を投げ出し、股をこれでもかと開いて座っている。
バニラの香りとタバコの仄かな香りがぷん、と小鞠の鼻をついた。
これは、ヤクザだと小鞠は直感していた。
金髪の下の顔は中々に整っていたが眉間のシワが全てを帳消しにしている。
こんなんどこからどう見ても雰囲気から何から何までまんまヤクザだし、そしてその極め付けは男のファッションセンスにあったのだ。
真っ黒なスーツの中には胸元まで開け広げられたコバルトブルーの花柄シャツが着込まれ、惜しみなくさらけ出された胸元には細身のネックレスがさらりと揺れている。
スラックスから覗く靴下はここ2ヶ月ほど前に見た炎よりも赤い色をしていた。
テーブルの上で組んでいるゴツゴツとした手から長く伸びた指には蛇が巻きついているようなモチーフのリングが嵌めてある。
ひどく、目がチカチカする。そういえばホテルの電気が明るすぎてずっと見てたらこんな風になったな、とどうでもいい事までが思い出された。
そんなハイセンスヤクザといる自分が周囲からどう見られているかは小鞠の知る由もない。
まあ大方、脅され無理矢理にカフェに連れてこられた借金持ちか、田舎育ちの無知なお嬢さんだとでも思われているだろう。
しかし、小鞠がいかにもどこからどう見ても怪しい男について着たのには理由があった。