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魚は涙を流さない  作者: 死にたい猫
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#魚乃 秋という存在

楽しく書いている作品です。

結ばれて欲しいですねぇ。

魚は泣かない。

だって魚は水の中にいるから。

あんなに水があるんだもん。

泣かなくたって支障はないはずだ。

そもそも悲しいという感情もないと思う。

きっと必要ないんだ。

私みたいに。

だってそうでしょ?

私だって泣かないんだから。


***

ざわざわと喧騒がはびこる教室。今日も生徒達がたわいもないお喋りにペチャクチャと励んでいる。そんなうるさい喧騒のなかでも、一人だけ、波紋一つ浮かばない池の様に、静かに読書をしている少女がいる。

魚乃 秋である。


俺は窓辺に静かに佇んでいる魚乃をずっと見つめている。

それこそ時間の流れがないみたいに、ずぅーっと。

「おい、あほずら。ヨダレでてんぞ。」

突然の暴言に俺の意識は現実へ無理矢理引き戻される。

「はっ…んぐっ…誰だ俺の癒しの時間を邪魔する奴は…!」

誰なのかはもうわかっているが。

「…キメェ…」

「聞こえてんぞテメェ」

ぼそりと呟かれた言葉をすかさずひろって反論する俺に、俺の親友、カズマは眉をひそめて軽蔑の表情を作っている。

一条 和馬。ムカつくことにスポーツのできるイケメンで無愛想。それでいてやっぱり女子にモテる。とことんムカつく野郎だ。カズマはため息を吐いて自分の席に座る。なんだ?また告白でもされたか?口に出すと確実に怒られるのであえて言わないでおく。今は。

親友の自己紹介ついでに俺の自己紹介もしておこう。

俺の名は新田 謙也。

ヤンキーみたいなみための男子中学生。金髪。ピアスは開けてない。

絶賛片思い中。

クラスで一番美人(と俺は思っている)魚乃 秋にまさに片思い中なのだ!

魚乃秋についてはクラスで一致している事実が一つある。

まずは、それについて説明せねばなるまい。

それは、「魚乃秋はどことなく、魚っぽい。」だ。

名前もそうだがウオノは歩く姿、話し方も、なんだか精錬された透明の水滴みたいな、みずみずしいような、そんなイメージを彷彿させるところがある。

特に声はとてつもなく綺麗で、鍾乳洞に響いて反響してゆくような、澄んだ声をしている。ウオノに恋してからは、毎日毎日国語の時間が待ち遠しくなった。

音読があるから、いつもより長くウオノの声を聞いていられるからだ。

ウオノが音読をする間、水を打ったように教室は静かになる。

その瞬間だけ、ししおどしの筧に水が溜まる様子をみているような、そんな張り詰めた緊張が、膜のように張る。

ウオノが音読し終えると、筧がこおんと石を打って中の水が吐き出されたように緊張が一気にほどける。

しばし余韻が続き、三秒程してハッとした先生が、あわてて「次、」と小さく呟くのがいつもの国語の時間の風景だ。

俺は国語の時間が楽しみで仕方がない。

なんだか、自慢気な気持ちになるからだ。

俺の好きな人はすげぇんだぞっ、て。

ま、勝手に思ってるだけなんだけど。

得意気になって一人頷いていると、つんつんと肘で小突かれる。

「おい、HR始まったぞ。さっさと起きろ。」

「言われなくても起きてるよ!」

小声でボソボソ言い返しているうちに、先生が連絡事項を終えてHRが終わった。

うぁー、一時間目から数学かよー!たりぃー!

頭を抱えていると、カズマがくすっと笑った。

「…なんだよ。」

「…いや?…ふっ別に?」

なんだよその顔ムカつく。

俺は口を尖らせて渋々教科書を取り出した。

「なぁなぁ、ウオノあたるかなぁ?」

「…しらね。」

カズマは少し不機嫌になってそっぽを向いた。

ウオノの話をするといつもそうだ。自分はモテモテなくせにちょっとは人の恋バナも聞けよなー!

ちぇーとなってシャーペンを鼻の下に加える。

カズマはウオノが嫌いなのか、ウオノの話をするとすぐ不機嫌になる。

心当たりはなくはないが、やっぱりあの事件だろうか。

俺は数学の授業を聞き流しながら、あの事件のことを思い出し始めていた。

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